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2326 ら特集新潟弁護士会⑥

新潟県弁護士会
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憲法改正国民投票法案に反対し、十分な国民的論議を求める決議
現国会では、憲法改正に関する国民投票法案が与党および民主党の双方から提出され、本年5月3日までの成立を目指すとして、修正協議等がなされている。しかしながら、その各修正案を含め、双方の法案には重大な問題がある。
そもそも憲法は、国の基本原則を定めるのみならず、国家の権力を制限し国民の人権を保障するため、そのよりどころとして制定されたものである。したがって、その改正は、国の基本原則と国民の人権保障の変更につながる。まして、一部で取り沙汰されている憲法の全面改正は、現在のわが国の成り立ちと人権保障の全面的な変更となるのであって、それは明治維新や戦後民主化にも匹敵する大改革である。
加えて、現行憲法は、国民自身、政府による戦争の惨禍に苦しみ、また周辺諸国民に対し多大の被害をもたらした反省に立って、侵略と戦争を捨て平和に徹し、民主主義を確立し、人権保障を貫く固い決意をもって、制定されたものである。
憲法の改正は、このような国と国民の自由や人権のあり方の変更につながるものであるから、国民の十分な理解と熟慮の上、将来の世代と世界に対し、重い責任をおって慎重に行うべきである。
こうした観点からすると、与党案および民主党案(その各修正案を含む)には、次のとおり重大な問題があり、看過することはできない。
第1に、憲法改正が国民の少数の判断で決定されるおそれのあることである。
与党案および民主党案は、ともに国民投票の最低投票率に関する規定を置いていない。その結果、たとえば投票率40%の場合には、投票権を有する国民の5分の 1程度の賛成で憲法改正が可能となる。これは、憲法の重要性、その改正の重大性に鑑みて極めて不合理であり、両法案はその基本的な制度設計において、重大な欠陥を有している。
第2に、自由で公正な国民の意思の形成が妨げられるおそれがある。
テレビ・ラジオ等のマスコミによるCM広告の影響力は大きい。これらを利用した広報は巨額の費用が必要であり、その利用は資金力によって大きく左右されてしまう。しかし、両法案は、政党の広報活動については定めるものの、それ以外の個人・団体が行う広報活動については何ら言及がない。これでは、マスコミの有料広告が資金力のある個人・団体に独占され、自由で公正な国民の意思形成が妨げられるおそれがある。
したがって、一定の公的ルールを設け、著しい情報格差を生じない配慮がなされるべきである。
第3に、国会の発議後、国民投票までの期間が短いため、国民の間で活発な議論と熟慮ができない。すなわち、両法案とも発議後60日以降180日以内に国民投票を実施するとしている。
しかし、憲法改正の具体的な内容は国会の発議によって初めて確定するところ、国のあり方を左右する重大な問題について、国民の間で活発な論議をし、主権者一人ひとりが熟慮して決断するには、「60日以降180日以内」はあまりに短い。
また第4に、国民の意思を正確に反映しないおそれがある。
両法案ともに、投票方法を国会に全面的に委ねている結果、一括投票の余地を残している。しかし、国民の意思は、少なくとも主要な争点ごとに、明らかにされるべきであり、その意思を正確に反映する制度が不可欠である。
さらには、憲法改正には国民の活発な論議が必要であるが、両法案は、この点でも問題を残している。公務員と教育者(教育関係者)全般について、「影響力または便益」を利用した国民投票運動を禁止しているからである。
国民投票運動の制約は、投票関係者などについては合理性があるものの、大部分の公務員や教育者には、むしろ自由な言論こそ保障されるべきである。安易な禁止は、公務員らの人権ひいては国民的な論議に配慮を欠くものである。
以上のとおり、現在の与党案および民主党案とも看過しがたい問題があり、その修正協議の状況を踏まえても、当会は、両案に反対せざるを得ない。
よって、国会においては、憲法改正にかかる国民投票法案の審議にあたっては、今国会の成立にこだわらず、国民的論議を十分尽くすよう求める次第である。
2007年(平成19年)2月28日
新潟県弁護士会臨時総会

教育基本法改正に関する会長声明
現在開会中の第165回臨時国会において、教育基本法の改正が審議されており、政府は、これに最優先で取り組むとしている。
しかしながら、教育基本法の改正は国民的な論議のもと、慎重に行うべきであり、当会は、現在審議中の教育基本法改正案に反対である。
1.教育基本法の改正については、国民的議論が十分なされていない。
教育基本法は、憲法が保障する教育にかかわる基本的人権を実現するために定められた教育法規の根本法である。同法は、前文において、「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。」「ここに、日本国憲法の精神に則り、…この法律を制定する。」と謳っている。すなわち憲法を受けて制定された準憲法的な性格を有しているのである。
また、個人の尊厳を重んじ、子どもが基本的自由の保障のもとで学び成長する権利を保障している同法は、 1989年国連で採択された子どもの権利条約の理念に沿うものである。すなわち、同条約は、子どもの教育は「人権及び基本的自由並びに国際連合憲章にうたう原則の尊重を育成すること。」を指向すべきとしている(同条約29条)。
したがって、教育基本法の改正は、子どもの将来のあり方を大きく左右するばかりでなく、憲法や子どもの権利条約の保障する基本的人権と自由の保障に関連する重要問題である。
しかるに、改正案は、非公開の協議会等で議論されただけで上程されたものであり、国民に対する十分な情報提供や国民的な議論はほとんどなされていない。同法の重要性に鑑みた場合、その改正を議論するのであれば、国民的議論を徹底することが必要不可欠である。
2.子どもたちのために、いま何が必要か。
政府は、「子どものモラルの低下、学ぶ意欲の低下、家庭や地域の教育力の低下等の問題があることから、教育基本法を改める必要がある」などとして教育基本法の改正を求める。
しかし、これらの問題は、教育基本法の改正によって解決できることだろうか。
子どものモラルや学ぶ意欲の低下、いじめや不登校など、小中学生をめぐる悲惨な事件などは、子どもを取り巻く競争や格差、ストレスの深刻化、社会の荒廃などその社会的環境にこそ大きな原因がある。また教育のあり方にしても、国際連合子どもの権利委員会は、1998年、日本政府の報告書に対し、「児童が、高度に競争的な教育制度のストレス及びその結果として余暇、運動、休息の時間が欠如していることにより、発達障害にさらされている」と指摘して、適切な措置をとることを勧告し、2004年にはさらに、この勧告について、「十分なフォローアップが行われなかった」と再度指摘しているところである。
そうであるならば、教育基本法の改正によって、これらの問題は何ら解決されないのであって、問題の解決のためには、何よりもまず、子どもを取り巻く社会的環境の整備や上記指摘を真摯に受け止めた適切な措置をとることこそが必要である。
これらについて適切な対策を講じないまま、教育基本法を改正しようとするのは、本末転倒である。
3.改正案は、国家による個人の尊厳への介入と教育の統制のおそれがある。
(1)個人の尊厳の後退と精神的自由への国家的介入のおそれ
現行の教育基本法は、憲法の基本理念たる個人の尊厳を、教育の場面において改めて確認したものである。しかるに政府改正案は、個人の尊厳や個性の尊重を、教育の目的からはずし、逆に、「公共の精神」や「伝統」を定める。これは、教育における個人の尊厳の理念を大きく後退させ、戦前に見られた国家のための人材育成の思想が窺われるものである。
また、改正案は、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできたわが国と郷土を愛する・・・態度を養うこと」としている(第2条第5号)。
しかし、「伝統や文化の尊重」や「国や郷土を愛する態度」は、知識や体験を踏まえ個々人が自由で自発的に形成すべきものである。
これらを法律で定めた場合、子どもが「国と郷土を愛する態度」等を涵養しているかどうかが特定の基準で評価され、その強制に結びつくおそれが高い。現に、一部の学校で実施されている卒業式等における国歌斉唱の強制や「愛国心」の通知表における評価などは、「愛国心」などの強制が現実化・一般化するおそれを示すものである。
そのようなことになれば、憲法19条によって保障された思想・良心の自由を侵害することになる。
(2)教育の自主性を大きくそこない教育の国家統制の道を開く
教育基本法は、戦前の国家統制教育に対する深い反省から、教育の自主性を尊重し、教育、ことに教育内容に対する不当な支配・介入を抑止すべく第10条を規定し、同条2項において、教育行政の目標を、教育目的の遂行に必要な諸条件の整備確立に限定した。
この点、改正案は、現行法の「(教育は)国民全体に対し直接に責任を負って行われるべき」(第10条第1項)の部分及び同条第2項全部を削除して、「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべき」とし(第16条第1項)、政府が教育振興基本計画を定めるものとしているのである(第17条)。
こうして改正案は、教育に関する国の国民に対する責任を曖昧にし、法律の規定や政府の教育振興基本計画によって教育内容を統制し、教育現場への国家介入・国家統制を容易にするおそれのあるものである。
教育は本来、人間の社会的・文化的な営みであって、最高裁判所判決も、「教育に対する行政権力の不当、不要な介入は排除されるべきである」(旭川学力テスト事件大法廷判決)と述べているところである。
改正案は、教育の自主性を大きく後退させ、教育の本質を変容させかねないものであり、とうてい賛成できるものではない。
4.現在、国会において審議されている教育基本法の改正案は、教育の理念そのものを大きく転換し、あるいは、憲法上・条約上の精神的自由が侵害される危険性を含むものである。
よって、当会は、現在審議中の改正案に反対し、国民的な論議の中で慎重に検討することを、ここに求める次第である。
新潟県弁護士会会長 馬場 泰

共謀罪の与党修正案に反対する会長声明
1.司法改革のための最終意見書について
2001年6月12日、司法制度改革審議会は、司法改革のための最終意見書を発表し、その中で「国民が利用しやすく、判りやすい司法」「司法を支えるスタッフの質量の確保」「国民が参加し支える司法」という目標を設定し、これに基づき、内閣に司法制度改革推進本部が設置され、3年内を目処に司法改革関連諸法案の成立をめざすとされた。
これまでに、裁判官指名諮問委員会や地域委員会の設置、地裁・家裁委員会の設置・改組がなされてきた。本年4月からは、法科大学院が開設され、司法試験合格者は1,500名となり、近く3,000名まで増員されることとなっている。
2.裁判員法案等について
(1)裁判員及び検察審査会委員の守秘義務について
裁判員の守秘義務については、衆議院での一部修正により、懲役刑の上限が1年から6ケ月に下げられたが、依然として、裁判員は任務中のみならず任務終了後においても、職務上知り得た秘密について守秘義務を負うとされ、違反について懲役刑が法定されている。このような厳しい守秘義務を課することは裁判員を萎縮させ、参加意欲を減退させるものである。また運用を通じて、裁判員制度を改善していくために、裁判員自身が経験を語ることが大切であり有用であるにも関わらず、これを不可能にするものである。裁判員に対する守秘義務の強調は、国民の司法参加という本来の目的を損なう危険性があるといわざるを得ない。
また検察審査会法第44条についても、検察審査会委員に対して従来の罰金刑から、裁判員法案第79条と同様懲役刑が選択的に法定されることとなる。
そもそも検察審査会委員については、特定の守秘義務違反について罰金刑が法定されていたが、実際には審査会委員の良識に委ねられ、昭和22年に法制定後、守秘義務違反が問題にされることもなかったものであり、いまさら懲役刑を加えることの必要性は全く考えられない。
それゆえ裁判員・検察審査会委員については、任期中は、職務上知り得た事項を守秘義務の対象とするが、任務終了後は、自分以外の発言者が特定されるような形での評議内容の公開など一定の範囲に守秘義務を限定すべきである。また違反について罰則をもうけるにしても、現行検察審査会法と同様罰金刑にとどめるべきであるし、それで充分である。
(2)裁判官・裁判員の数について
裁判官と裁判員の数については、現在の部制度下では、3人の裁判官の一体性が強固であり、部総括裁判官の影響力の強さもあって、6名の裁判員が参加しても、市民の意見の反映は事実上困難である。あくまで裁判官は、1~2名とし、裁判員は9~10名とすべきである。
(3)評決について
法案の過半数では、充分議論が尽くされないまま、安易に結論が出される惧れがある。
法案の裁判官3人裁判員6人の合議体の場合、裁判官3人の意見が一致すれば後は2人の裁判員の賛成で他は反対でも関係ないこととなる。過半数の論拠として、現行法が過半数であることがあげられるが、司法改革は現状の司法のあり方に問題があるから改革されるものであり現行法を前提とすること自体が誤りである。
3.刑事訴訟法改正について
(1)開示証拠の目的外使用の禁止について
刑事手続において検察官から開示される証拠の「複製等」を、被告人もしくは弁護人が審理の準備以外の目的で「人に交付、提供すること、電気通信回線を通じて提供すること」を全面的に禁止し、被告人がこれに違反したときは懲役刑を含む罰則を科することとしている。また弁護人については「対価として財産上の利益その他の利益を得る目的」がある場合に刑罰の対象とされている。
しかしながら、証拠の内容を問わず、また公判廷で取り調べられたものか否かを問わず、一律に禁止対象としている点で、被告人の防御権を不当に制約し、また裁判公開制度や報道の自由とも抵触するおそれが大きいと言わざるを得ない。また弁護人についても「対価として利益をうる目的」としても、テレビの出演料や研究書を含む冊子での引用等が、これに該当すると解される余地が十分ある。
衆議院で一部修正され「前項の規定に違反した場合の措置については、被告人の防御権を踏まえ、複製等の内容、行為の目的及び態様、関係人の名誉、その私生活又は業務の平穏を害されているかどうか、当該複製等に係る証拠が公判期日において取り調べられたものであるかどうか、その取り調べの方法その他の事情を考慮するものとする」との規定が挿入されたが、そもそも刑罰規定の構成要件としては、明確であることが不可欠であり、このような不明確で恣意的運用を可能にする規定は、それ自体が罪刑法定主義に違反すると言わざるを得ない。
本規定は、修正によっても、被告人の防御権を不当に制約し、裁判の公開原則や報道の自由と抵触するものである。
(2)取調べの可視化について
自白偏重の捜査・裁判をあらため、客観的証拠に基づく捜査・裁判を実現するためには、取調べの可視化が必要である。
裁判員制度の導入にともない、より一層公判中心主義が貫かれ、自白調書の任意性や検面調書の特信性などについて、裁判員がその審理・判断に参加するためには、取調べ状況をビデオやテープに録音するなど取調べの可視化の実現が不可欠である。
裁判員制度の導入とこれにともない刑事訴訟法を改正する場合、取調べの可視化が法律施行の必要条件であることを明確にすべきである。
(3)尋問、陳述制限の強化について
1.刑事訴訟法第295条の尋問・陳述制限命令違反について、弁護士会への措置請求規定がもうけられた。また刑事訴訟規則第303条1項の措置請求要件について「審理の迅速な進行をさまたげた場合」の要件を削除し、措置請求を容易にするのではとの指摘もなされている。
2.新潟地裁においては、通訳人の適否をめぐって弁護人の意見陳述を一方的に禁止し、監置命令と監置のための拘束命令を発した事案があり、平成16年3月29 日、弁護士会は、職権的な訴訟指揮は弁護活動を萎縮させ、被告人の弁護権を制約する恐れが有るとして、当該裁判官に申入れをした。
当該事案は、控訴審で無罪となったが、一方的な尋問・陳述制限は、正当な弁護活動に対する侵害であるだけでなく、実体的真実発見を妨げる要因にもなることは明らかである。尋問・陳述制限の強化など、裁判の職権化に反対するものである。
4.代理人報酬敗訴者負担制度の導入について
この制度については、司法制度改革審議会の意見書の趣旨に反して、訴訟提起を萎縮させるものであり、とりわけ、消費者・労働・医療・行政などの分野ではその弊害が著しい旨指摘してきた。
今回の法案は、双方に訴訟代理人が選任されている場合で、双方が共同で訴訟上申し立てた際に、敗訴者負担となるものとしている。
しかしながら、法案が成立すれば、敗訴者負担の規定を契約約款に導入する動きが急速に広がり、実体法の解釈を含めて、なし崩し的に敗訴者負担制度が導入される危険性がある。
このままの立法化には反対であり、仮に立法化する場合には、少なくとも消費者契約、労働契約及び一方が優越的地位にある事業者間の契約についても、代理人報酬敗訴者負担条項の効力を否定するための立法化措置をとるべきである。
5.総合法律支援法案について
1.弁護士会は、当番弁護士活動を通じて、起訴前弁護の必要性を強く訴えてきた。また法律扶助協会を実質的に支え、広く国民が司法を利用できるよう法律扶助の充実をめざして活動を強化してきた。さらに公設事務所や法律相談センターの活動によって、司法過疎解消に努めてきた。
これら活動の多くは、私たちの長年にわたる特別負担金を含むボランティア的な公的活動によって支えられてきたが、本来、国の財政支出によって実施されるべき事業である。
2.本法は、弁護士会の長年の活動を反映した側面をもっているが、同時に、この機会に法律扶助、国選弁護等の活動を、法務省の監督下に一元化するという方向を見逃すわけには行かない。とりわけ弁護活動は、国家の捜査・起訴に対して、被告人の憲法及び刑事訴訟法上の権利を護ることに本質がある。また法律扶助等の案件には、国家や行政機関を相手方とする事案も多数存在する。
したがって、関与弁護士の職務の独立性と弁護士自治がきわめて大切であり「国家は必要な資金を出すが、内容について干渉しない」との原則を、組織・運営の両面から具体化し、条文化すべきである。
3.法案では、国選弁護、法律扶助などは、日本司法支援センターに一元化されることとなっており、同センターは独立行政法人とされているが、人事、運営を含めて法務大臣の監督下におかれ、日弁連の組織、運営に対する関与は、法文上明らかにされていない。また個々の弁護士が、これら業務に携わるためには、同センターが制定する法律事務取扱規定によるものとされている。
このような状況では、弁護士業務遂行上の独立性が制約をうける危険性があると言わざるを得ない。
4.法案の一部修正によって、契約弁護士の「懲戒」規定が削除されたり、組織・運営について弁護士会の実質的関与が法務省側から説明されているが、法律の運用をもって法律の合理性、正当性を根拠づけることはできない。
同センターの組織・運営について、日弁連の責任ある地位役割が法定化されるべきてある。また契約弁護士の業務の遂行については、弁護士会の諸規定にしたがっておこなわれることが明確にされるべきである。
5.公的弁護や法律扶助については、必要かつ充分な訴訟活動が保障されなければならない。同センターの財政運営状況によって、必要な弁護費用、必要な代理人費用が削減されるような事態は、許してはならない。また司法過疎に対する対応や犯罪被害者支援の活動などについても、当然必要な予算が組まれるよう、働きかけをしていく必要がある。

「ゲートキーパー」立法に反対する会長声明
政府は、2005年11月17日、FATF(国際的なテロ資金対策に係る取組である「金融活動作業部会」)勧告実施のための法案提出と、その法整備のためFIU(金融情報機関)を金融庁から警察庁に移管することを決定した。ゲートキーパーは、日本語では「門番」を意味するが、法案は、マネーロンダリング及びテロ資金対策のため、従来の金融機関のほかに、弁護士などの専門職を不動産売買等一定取引に関し「門番」と位置づけ、「疑わしい取引」をFIUに報告する義務を負わせる制度を創設するものである。
弁護士に対し、依頼者の疑わしい取引に関する情報を政府に報告する義務を課すFATF勧告そのものが、弁護士制度の本質に関わるものとして、諸外国の弁護士及び弁護士会がその実施に反対しており、FATFの重要な加盟国であるアメリカやカナダでは勧告による立法はなされていないし、ベルギーやポーランドでは違憲訴訟が係属している。日弁連もこれまで国内法制度化に反対してきた。この度の政府決定は、弁護士の報告先を警察庁とするものであり、弁護士及び弁護士会に対する国民の信頼を損ね、弁護士制度の根幹を揺るがすものとして到底容認できない。
弁護士は、法律に関する専門知識を有するだけではなく、国家権力から独立して依頼者の人権と法的利益を擁護することにその本質がある。弁護士は、職務上知りえた秘密を保持する権利を有し、依頼者に対しては高度な守秘義務を負っている。これは、市民の側からすると、秘密のうちに弁護士と相談することができる権利を保障されているということにほかならない。しかし、「疑い」だけで弁護士が依頼者の秘密を捜査当局に「密告」しなければならないとしたら、依頼者は安心してすべての事実を弁護士に告げることはできないし、弁護士が依頼者に対して法律を遵守するための適切な助言をすることもできない。かくては、マネーロンダリング及びテロ資金対策の目的に反する結果となるものである。
当会は、マネーロンダリング及びテロ資金対策が重要であることを否定するものではない。弁護士がマネーロンダリング等に関与することは弁護士倫理に反し、懲戒処分の対象となっており、弁護士会は、そのための研修を引き続き重ねる所存である。
ゲートキーパー立法は、弁護士を、依頼者の秘密を密告する捜査機関の手先とすることで、弁護士制度ひいては司法制度そのものに対する信頼を根底から覆すもので、国民の権利にとって失われるものが余りに大きい。
以上から、当会は、今後、国民の理解を得ながら、日弁連とともに、反対運動を展開していくことを決意する。

共謀罪の新設に反対する会長声明
当会は、今後国会において審議が予定されている「犯罪の国際化及び組織化に対処するための刑法等の一部を改正する法律」案における「共謀罪」の新設等について、以下の理由により反対する。
1.「共謀」とは、犯罪を共同で遂行しようという意思を合致させる謀議、謀議の結果として成立した合意をいうもので、「共謀罪」はこのような犯行の合意だけで処罰対象とし、実行行為も、その予備行為さえも要件としていない。このような「共謀罪」は、何らかの「顕示行為」を構成要件とする刑法の原則に反し、刑法の人権保障機能を破壊するものである。
2.「共謀」という概念は、上記のとおり非常に曖昧であって、刑罰法規として構成要件の明確性を欠いている。従って、思想そのものを処罰するおそれが大であり、憲法が定める思想信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由など基本的人権に重大な脅威を及ぼすものである。
3.「共謀罪」は、会話や電話、メ-ルなどの内容が犯罪を構成することとなるため、捜査機関の捜査は通信傍受や自白偏重に傾く危険性が強い。
4.この法案が上程される要因となった「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」では、「金銭・物質的利益を目的とし」、「重大犯罪、条約犯罪の実行を目的とした」、「組織的犯罪集団による越境的な性質を有する」行為に限定することできるにも拘わらず、「共謀罪」ではこれらを要件としていない。
5.長期4年以上の犯罪に適用され、対象となる犯罪は600以上の類型に及ぶため、市民の日常生活や活動に対して広範囲にわたる監視とその結果としての萎縮が憂慮される。
6.証人買収罪は、現行法の証人威迫罪や偽証罪・罪証隠滅罪の教唆犯として取り締まることが可能であり、その新設によって弁護活動に対する不当な介入が生じる懸念がある。
7.リモ-トアクセスによる差押えは、捜索差押えの範囲を場所と物とで特定して明示することを要求する憲法35条の精神を没却する。
8.捜査機関による通信履歴の保全要請は、裁判所の令状によるものではないため、司法的チェックがなく、濫用され通信の秘密を侵害するおそれがある。
当会としては、昨今の麻薬や銃の密輸、テロなどに代表される国境を越える組織犯罪に対する有効な対策の推進を否定するものではないが、「共謀罪」の新設等を初めとする上記法案は、以上のとおり、刑法の原則である罪刑法定主義に反し、憲法上の言論の自由等基本的人権の保障を危うくするなど、そのいずれにも問題があるものであるから、反対する。

司法改革関連法案についての決議
今通常国会では、裁判員法案など重要な司法改革関連法案が審議されており、これら法案は、日本の司法のあり方に大きな影響を与えるものである。
そこで、法案の重大性に鑑み、以下の通り当会の意見を述べるものである。
1.裁判員制度等について
(1)裁判員及び検察審査会委員の守秘義務について
裁判員の守秘義務については、当初法案が一部修正され、懲役刑の上限が当初の1年から6ケ月に引き下げられた。しかしながら、依然として、裁判員は任務中のみならず任務終了後においても、職務上知り得た秘密について守秘義務を負うとされ、違反について懲役刑が法定されている。
このような厳しい守秘義務を課すことは裁判員を萎縮させ、参加意欲を減退させ、ひいては国民の司法参加という本来の目的さえ制約しかねない問題である。
検察審査会委員についても、従来の罰金刑から、裁判員法案と同様に懲役刑が法定されることになる。
そもそも検察審査会委員については、特定の守秘義務違反について罰金刑が法定されていたが、実際には委員の良識に委ねられ、これまで罰則事案の発生は見られなかったものであり、いまさら懲役刑を加えることの必要性は到底考えられない。
裁判員・検察審査会委員については、任期中は、職務上知り得た事項について守秘義務の対象とするが、任務終了後は、自分以外の発言者が特定されるような形での評議内容の公開など一定の範囲に守秘義務を限定すべきである。また違反について罰則をもうけるにしても、現行検察審査会法と同様罰金刑にとどめるべきであるし、それで充分である。
(2)裁判官・裁判員の数について
裁判官と裁判員の数については、現在の部制度下では、3人の裁判官の一体性が強固であり、部総括裁判官の影響力の強さもあり、6名の裁判員が参加しても、市民の意見の反映は困難である。したがって裁判官は、1~2名とし、裁判員は9~10名とすべきである。
(3)評決について
評決について法案では過半数によるとされているが、評決は、全員一致を目指し、どうしてもそれに至らない場合のみ4分の3程度の特別多数決とすべきである。
2.刑事訴訟法改正について
(1)開示証拠の目的外使用の禁止について
刑事手続において検察官から開示される証拠の「複製等」を、他に交付するなどの行為を全面的に禁止し、被告人がこれに違反したときは懲役刑を含む罰則を科することとし、弁護人についても「対価として財産上の利益その他の利益を得る目的」がある場合は同様とされる。
この規定は、適用にあたって、被告人の防御権を踏まえて、諸事情を考慮する旨の修正がなされたが、依然として被告人の防御権を不当に制約するおそれがあり、また裁判公開制度や報道の自由とも抵触するおそれがあると言わざるを得ない。また修正条項自体が、諸事情を考慮して適用するというものであり、刑罰規定の構成要件としては、全く不明確で、恣意的運用を可能にするもので、罪刑法定主義に反するものである。
(2)取調べの可視化について
取調べの可視化は、世界の刑事手続の趨勢であり、予てよりその実現方が求められてきたところであるが、裁判員制度の導入にともない、不可欠な条件となってきた。公判中心主義を貫き、自白調書の任意性や検面調書の特信性などの審理・判断のためには、取調べ状況をビデオやテープに録音するなど、可視化の実現が不可欠であり、裁判員制度の導入とこれにともない刑事訴訟法を改正する場合、取調べの可視化が法律施行の必要条件であることを明確にすべきである。
(3)尋問・陳述制限の強化
刑事訴訟法第295条の尋問・陳述制限命令についての弁護士会への措置請求規定は、正当な弁護活動を萎縮させる危険性があり、撤回されるべきである。
3.代理人報酬敗訴者負担制度の導入について
法案は、双方に訴訟代理人が選任されている場合で、双方が共同で訴訟上申立てをした場合は「敗訴者負担」を適用するとする。
しかしながら、法律が制定されれば、敗訴者負担の規定を契約約款で導入する動きが広がり、約款についての実体法の解釈を含めて、なし崩し的に敗訴者負担制度が導入される危険性がある。
このままの立法化には反対であり、仮に立法化する場合には、少なくとも消費者契約、労働契約及び一方が優越的地位にある事業者間の契約についても、代理人報酬敗訴者負担条項の効力を否定するための立法化措置をとるべきである。
4.総合法律支援法案について
国選弁護、法律扶助の業務は、同法によって設置される日本司法支援センターに一元化される。刑事弁護人の活動は、被疑者・被告人の権利を護るため国家に対峙して職務を全うするところに制度の核心がある。また法律扶助案件の一定数は、国や行政機関などを相手方とする事件である。したがって、これらの分野で弁護士の職務を全うするためには、職務の国家からの独立性と弁護士自治が不可欠である。
しかしながら、同センターは、組織的にも業務上も、起訴をする側である法務省の監督を受けるとされており、他方で日弁連が人事、業務に関与すべき規定はもうけられていない。また担当弁護士の選任はすべて同センターが行い、弁護士が国選弁護や法律扶助案件を取り扱う際には、同センターの法律事務取扱規程によることとされている。したがって業務の受任、遂行段階においても、同センターを介して、弁護士活動が制約を受ける危険性が、存在すると言わざるを得ない。
同センターの組織・運営について、これまで国選弁護、法律扶助の活動を全面的に担ってきた弁護士会の意見が反映される仕組を作ること、また弁護士の職務遂行上の独立性が厳格に守られることが、法律上も明確にされるべきである。
当会は、本法案について、上記趣旨に則り修正がなされることを求め、人権擁護の制度的保障である業務の独立性、弁護士自治の擁護のために取りくむことを表明する。
また同センターに一元化することによって「安上がりで無責任」な国選弁護や法律扶助などという事態が発生しないよう、更には司法過疎等の克服などを含め、財政上の手当が充分なされることを求めていくものである。