シェアする

2350 ら特集岡山弁護士会⑥

岡山弁護士会
ttp://www.okaben.or.jp/index.html

生活保護に関する偏見や差別を助長しない報道と,生活保護制度についての慎重な議論および適切な生活保護行政の実施を求める会長声明
1 人気芸能人の母親が生活保護を受給していたことについての報道を皮切りに,生活保護受給者に対する偏見につながる報道が続いている。
生活保護の不正受給が横行しているかのような報道,在日外国人が生活保護を受けていることが問題であるかのような報道,視聴者から寄せられた情報をもとにあたかも生活保護受給者の多くが資産や収入を隠しているかのような印象を与える報道がなされている。また,生活保護を受けることが恥であるかのような印象を与える報道も繰り返しなされている。
今回の一連の報道の発端となったケースでは生活保護制度における扶養の扱いが問題となった。この点については,生活保護法上,扶養については「民法に定める扶養義務者の扶養は保護に優先して行われるものとする。」と定められており(同法第4条2項),同法第4条1項のような「要件として」という文言があえて使用されていない。このことは,扶養義務者による扶養が実際に行われた場合にはその援助額だけ保護費を減額するということを意味しており,扶養義務者が扶養できないことは保護受給の要件ではないのである。これは,憲法第25条が生存権の保障を私的扶養の問題にせず,国の責務としているからである。
扶養義務者の扶養については,現在の運用においても,生活保護を申請すると原則として福祉事務所が親族に対して扶養の可否を尋ねる扱いがなされているが,これが障害となって保護を申請しない者が多数存在するとみられている。それにもかかわらず,扶養義務者の扶養をさらに強調することは,親族への負担や,親族関係の悪化への懸念から,生活困窮者が生活保護申請を断念する事態が更に広がる結果を招くおそれが大きい。
また,生活保護の不正受給は,金額ベースで全体の0.4%弱で推移しており,件数ベースでも2%弱で推移しているのであって*1,近年目立って増加しているという事実もない。
徐々に冷静な報道もみられつつあるものの,先に述べた一連の報道は生活保護受給者に対する偏見や差別を助長し,真に生活保護を必要としている国民の生存を脅かすことになる。
2 2012年(平成24年)5月25日,厚生労働大臣は,生活保護を実施する際の扶養義務者への調査権限の強化,生活保護基準の切り下げを検討すると表明した。また,6月26日に衆議院で可決された社会保障制度改革推進法案では,「安定した財源を確保しつつ受益と負担の均衡がとれた持続可能な社会保障制度の確立を図る」(同法案第1条)と謳ったうえで,「家族相互及び国民相互の助け合いの仕組み」を通じて社会保障制度改革を実施していくとしており(同法案第2条1号),家族や国民の自助を強調している。さらに,同法案では,生活保護の「不正受給への厳格な対処」や「給付水準の適正化」などの見直しを実施するとされている。
ところで,生活保護利用者数は増えているものの,総人口に占める利用者の割合を示す利用率は1.6パーセントで*2,先進諸国との比較でもいまだ利用率は非常に低い状態である*3。また,保護を必要としている世帯のうち実際に保護を利用している世帯の率,すなわち捕捉率は15.3?18%程度と推定されており*4,捕捉率も先進諸国との比較で非常に低い*5。さらに,厚生労働省の2009年(平成21年)の調査によれば,等価可処分所得の中央値は250万円で,その半分にあたる125万円未満の人の割合である相対的貧困率は16%であり*6,2005年(平成17年)段階でもOECD加盟国30カ国の中で,日本の相対的貧困率は,メキシコ,トルコ,アメリカに次いで4番目に高いとされている*7。非正規雇用の拡大によって雇用が不安定化し,格差と貧困が広がっているというのが日本の現状である。
以上の現状を踏まえるならば,今後,上記一連の報道に便乗して安易な生活保護基準の切り下げや受給抑制策がなされてはならない。生活保護基準については2011年(平成23年)2月にすでに社会保障審議会に生活保護基準部会が設置され,生活困窮者の生活支援戦略については2012年(平成24年)5月から社会保障審議会に特別部会が設置され,それぞれ議論が進められているが,政府,国会,および,生活保護実施自治体は,過熱する報道に惑わされることなく,生活困窮者の実態調査に基づいて慎重に生活保護制度を含めた生活困窮者支援制度の在り方を検討する議論を深め,適切な生活保護行政の実施に当たるべきである。
3 以上の通り,当会は,報道機関に対して生活保護受給者に対する偏見や差別を助長することのない配慮ある報道を求めると共に,政府,国会,および生活保護実施自治体に対して生活保護制度についての慎重な議論と適切な生活保護行政の実施を求める。以上
*1平成24年3月厚生労働省社会・援護局関係主管課長会議資料。
*2福祉行政報告例に記載の被保護人員実人員数を,総務省統計局発表の人口統計で割って率を算出。平成24年3月時点。
*3利用率について,ドイツ9.7%,フランス5.7%,イギリス9.2%など。いずれも2010年(平成22年)時点。「生活保護『改革』ここが焦点だ!」(生活保護問題対策全国会議編集)より。
*42007年国民生活基礎調査に基づく推計。
*5捕捉率について,ドイツ64%,フランス91%,イギリス47%以上など。いずれも2010年時点。「生活保護『改革』ここが焦点だ!」(生活保護問題対策全国会議編集)より。
*6平成23年7月厚生労働省・大臣官房統計情報部社会統計課国民生活基礎調査室発表
「平成22年 国民生活基礎調査の概況」より。
*72005年OECD 調査。OECD 2008「Growing Unequal? Income Distribution and Poverty in OECD Countries.」より。
2012(平成24)年8月8日
岡山弁護士会 会長 火 矢 悦 治

秘密保全法制に反対する会長声明
平成23年8月8日,秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議は,「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」を発表し,政府における情報保全に関する検討委員会は,同報告書に基づき法案化作業を進めている。
しかし,同報告書が整備を求める秘密保全法制(以下「当該秘密保全法制」という。)は,以下に述べるとおり,立法を必要とする理由を欠くものであり,また,国民主権原理から要請される知る権利などの憲法上重要な諸原理と正面から衝突するものであるから,当会は,その制定に強く反対する。
1 当該秘密保全法制は,いわゆる尖閣沖漁船衝突事件に係る情報漏えいを契機とし,その内容は,「特別秘密」に指定された情報の公開を制限するとともに,その実効性を担保するために,新たに刑罰や適性評価制度と称する人的管理制度を創設するものである。
しかし,上記事件で問題となった情報は本来国民に公開すべきものであるし,ネットワークを通じた流出の原因も当該映像に対する物的管理が不十分であったことにあるから,上記事件は新たな法整備や人的管理の必要性を基礎づけるものではない。また,自衛隊法,日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法,国家公務員法等の現行法制及び運用実態に照らせば,新たな犯罪類型の法定や厳罰化の必要もない。
このように,当該秘密保全法制は,そもそも立法を必要とする理由を欠くものと言わざるを得ない。
2 当該秘密保全法制の中核は,行政機関が,(1)国の安全,(2)外交,(3)公共の安全及び秩序の維持に関する分野で「特別秘密」に指定した情報の公開を制限することである。
しかし,規制の鍵となる「特別秘密」の定義自体が広範かつ不明確である。また,その指定権者は「特別秘密」を作成・取得する行政機関とされており,指定の適法性を事後的に検証する仕組みもない。
したがって,時の政府が,恣意的に指定権を行使して本来国民が知るべき情報を隠す懸念が極めて大きく,国民にはこのような運用の有無を検証し是正する機会が与えられていない。その結果,国民主権原理の要請でもある「知る権利」が不当に制約されることになる。
3 当該秘密保全法制は,その実効性を担保するため,特別秘密の故意の漏洩行為,過失の漏洩行為,特定取得行為,未遂行為,共謀行為,独立教唆行為,扇動行為を処罰対象とする。
しかし,保護対象である「特別秘密」概念自体が過度に広範かつ不明確であることに加え,過失の漏洩行為,共謀行為,独立教唆行為及び扇動行為という各行為の外延も不明確であるため,犯罪構成要件が極めて曖昧であり,罪刑法定主義と行為責任主義という憲法上の要請や近代刑法の基本原理に反する。
また,当該秘密保全法制の犯罪構成要件は極めて曖昧であって,報道機関は,取材活動が特定取得行為等として処罰対象となるか否かを予測できない。
さらに,その法定刑の上限は懲役5年又は10年とされているため,同法制が,報道機関の取材の自由に及ぼす萎縮効果は図りしれない。また,「特別秘密」の対象には民間事業者や大学等が作成・取得するものも含まれているところ,科学技術や重要な政策に関する自由な発言・批判も萎縮させられる危険があるといわざるをえない。
このように,当該秘密保全法制は,民主主義を支える取材・報道の自由を始めとする表現の自由等国民に保障された憲法上の諸権利を不当に制約するものである。
4 当該秘密保全法制は,特別秘密の管理を徹底するためとして,「特別秘密」の取扱者となりうるものを対象とした適性評価を実施するための事前調査と評価の制度を導入しようとしている。しかし,調査対象者には配偶者など家族が含まれており,極めて広範になるとともに,調査事項も対象者のプライバシーに関わる情報や,運用次第では私人としての活動全般にまで及ぶおそれもあり,調査方法も第三者機関への照会まで含んでおり,調査対象者が関係していた私的な団体にまで調査が行われる危険がある。したがって,適性評価調査は,調査対象者のプライバシーの権利を侵害するほか,調査を口実に思想調査が行われ,思想信条の自由が侵害される危険性が極めて高いなど,人権保障上看過し難い問題をはらんでいる。
5 当該秘密保全法制に違反して起訴された場合,その国家秘密が公開の法廷で公開されればそれはたちどころに秘密ではなくなることから無意味であるし,逆に,特別秘密が非公開のまま裁判が進行すれば,憲法に定められた公開原則に違反し,さらには被告人・弁護人の防御権行使を困難なものとさせ,裁判を受ける権利を侵害することになる。
以上のとおり,当会は,当該秘密保全法制の制定に対して強く反対するものである。
2012(平成24)年5月10日
岡山弁護士会 会長 火 矢 悦 治

死刑執行に関する会長声明
2012(平成24)年3月29日、東京拘置所において1名、広島拘置所において1名、福岡拘置所において1名の合計3名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
当会は、死刑制度の存廃を含む抜本的な検討及び見直しを行うまでの一定期間、死刑の執行を停止するよう、再三政府に対し要請してきた。
にもかかわらず、1年8か月間中断していた死刑の執行が再開されたことに対し、深い憂慮の念を示すとともに、強く抗議する。国際社会においては、死刑廃止が潮流となっている。日本政府は、国連関係機関からも、死刑の執行を停止し、死刑制度の廃止に向けた措置をとるよう繰り返し勧告を受けている。
日本弁護士連合会は、2011(平成23)年10月7日に「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」を決議し、「直ちに死刑の廃止について全社会的な議論を開始し、その議論の間、死刑の執行を停止すること」などを求めている。
当会においても、2011(平成23)年5月28日に憲法記念県民集会「いま、「死刑」を考える」を開催し、約200名の参加を得た。
このように、死刑の存否をめぐって社会全体で議論がなされている状況の中、死刑執行が再開されたことは極めて遺憾である。
また、議論の前提となる死刑執行の基準、手続、方法等死刑制度に関する情報は現在においてもほとんど公表されていない。昨年、当会の実施した上記集会のアンケートにおいても、「死刑制度について全く知らず、そういうことを知っていかないと、裁判員もできないと思う。」「公にされていない死刑制度についてもっと公開してほしいと思います。」等死刑制度に関する情報公開を求める意見が寄せられている。
法務省内部で行われてきた「死刑の在り方についての勉強会」が終了し、その報告書が公表されたが、死刑制度に関する新たな情報の公開を伴うものではなく、死刑制度賛成論・廃止論の論点整理にとどまっており、到底、死刑の廃止について全社会的議論がなされているとは言えないことは明らかである。
当会は、改めて政府に対し、死刑の執行を停止し、わが国における死刑確定者の処遇、死刑執行対象者の決定手続と判断方法、死刑執行の具体的方法とその問題点等に関する情報を開示し、死刑存廃について国民の広範な議論を踏まえた上で、死刑制度の見直しを検討するよう、重ねて強く要請するものである。
2012(平成24)年4月2日
岡山弁護士会 会長 火 矢 悦 治

岡山弁護士会ハンセン病問題を考える集会における集会決議
平成23年11月 6日
集会参加者一同
本日、岡山弁護士会主催によりハンセン病問題について考える集会「ハンセン病のことを知っていますか??今も残る課題」が開催された。
今から10年前の平成13年5月11日、熊本地方裁判所は、「らい予防法」及びこれに基づく国の隔離政策が違憲であり、国に法的責任があることを認める判決を言い渡し、国は控訴を断念しこの判決は確定した。
この判決を受けて、国は、「13の国立ハンセン病療養所入所者(今後入所する者を含む)が在園を希望する場合には、その意思に反して退所、転園させることなく、終生の在園を保障するとともに、社会の中で生活するのと遜色のない水準を確保するため、入所者の生活環境及び医療の整備を行うよう最大限努める」ことを確約した。
ところで、平成13年当時、全国13の国立療養所の入所者は4400名と言われていたが、現在では、入所者数はすでに3000名を大きく下回っており、入所者の平均年齢も80歳を超えている。10年後には、入所者数はさらに3分の1以下になるとも言われている。
このような急速な高齢化と入所者数減少の中、医師等医療職の定員の確保が困難な状況も生じており、ハンセン病療養所は、医療体制及び生活水準の確保が緊急の課題となっている。
平成20年6月18日、「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律」(ハンセン病問題基本法)が制定された。そして、同法第12条第1項において、「国は、入所者の生活環境が地域社会から孤立することがないようにする等入所者の良好な生活環境の確保を図るため、国立ハンセン病療養所の土地、建物、設備等を地方公共団体又は地域住民等の利用に供する等必要な措置を講じることができる。」と規定され、ハンセン病療養所を地域に開かれた施設となすべく法的整備がなされた。
ハンセン病問題基本法の成立を受け、岡山県にある2つの国立ハンセン病療養所長島愛生園及び邑久光明園は、平成23年3月、各園独自の将来構想を策定し公表している。
これらの将来構想は、高齢化したハンセン病療養所入所者の努力のみで到底実現できるものではなく、県民、国、地方自治体及び各種団体が力を結集して初めて実現可能なものである。
本日の集会において、参加者は、ハンセン病問題の深刻さ及び将来構想実現の緊急性・必要性を学んだ。
本日の集会参加者一同は、県民、国、地方自治体及び各種団体と力を合わせて長島愛生園及び邑久光明園の将来構想実現に向けて取り組むことを決意しここに決議する。以上

国選弁護報酬基準及びその運用の抜本的見直しを求める会長声明
日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)は,2006年(平成18年)10月に業務を開始し,刑事事件については,法テラスが国選弁護人になろうとする弁護士との間で契約を締結し,国選弁護人候補の指名及び裁判所への通知,国選弁護人に対する報酬及び費用の支払いなどの業務を行うこととなった。そして,国選弁護人に対する報酬及び費用の支払いは,国選弁護人が活動終了後に法テラスへ報告書を提出し,法テラスが国選弁護人の報酬及び費用を算定して,その結果を国選弁護人へ通知し,支払いを行うという仕組みになっている。
この国選弁護人に対する報酬の算定に関して,先般,当会所属の弁護士が担当した国選弁護事件につき,次のような事例があった。
被疑事実の要旨は,被疑者がA金融機関において,Bが同所に設置の現金自動預払機から取り忘れたA金融機関代表者管理にかかる現金5万円を窃取したというものである。そこで,国選弁護人は,Bに対して5万円を支払って示談を成立させ,同人から被疑者に対する減刑嘆願書を受領し,示談書及び減刑嘆願書を検察官に提出するという活動を行った。その結果,被疑者は不起訴処分となって釈放された。
これに対し,法テラス本部は,「本件の被疑事実は金融機関が占有を取得したものとして構成されているため,本件窃盗の被疑事実に係る被害者はBではなくA金融機関とみざるをえず,Bとの間で示談を成立させ,減刑嘆願書を取得したことは弁護活動として評価できるところではあるが,現行報酬基準では算定することはできない」として,示談等の成立に関する特別成果加算報酬を0円と算定した。
しかしながら,上記事例において,A金融機関からBへの補填はなされておらず,実質的な被害者は現金を取り忘れたBであることは明らかであって,Bとの間で被害弁償等の交渉を行った国選弁護人の活動は常識的かつ正当なものであり,また,その活動が不起訴処分という結果に結びついたといえる。他方,経済的被害が生じていないA金融機関との間で被害弁償等の交渉を行うことは,無意味である。
にもかかわらず,法テラスが形式的な判断をし,特別成果加算報酬を0円と算定したことは,国選弁護人の活動を否定するに等しく,実質的にも極めて不合理である。
当会は,2009年(平成21年)8月にも,国選弁護事件における私的鑑定費用等の支払いに関して会長声明を発表したが,未だこの点に関する法テラスの報酬基準は改められていない。
また,徐々に改正されてはいるものの,依然として,保釈や無罪等に関する特別成果加算報酬の金額は低いと言わざるを得ないし,起訴後の接見回数が全く報酬に反映されない,被疑者段階の接見回数においても報酬算定のうえで基準回数が設定されている,特急料金や謄写料等の実費も全額が支払われないなど,法テラスの報酬基準には多くの問題が残されている。
当会は,法テラスに対し,国選弁護人の活動が正当に評価され,報酬に反映されるよう,国選弁護報酬基準及びその運用の抜本的見直しを強く求めるものである。
2011年(平成23年)10月12日
岡山弁護士会 会長  的  場  真  介

給費制の存続を求める会長声明
現在,政府の「法曹の養成に関するフォーラム」において司法修習生の給費制の存廃問題が論議されている。
現在給費制に代わるものとして検討されている貸与制については?「違法の疑い」があり,?司法修習生に著しい困苦を強い,?若者の司法離れに拍車をかける ものであり,?信頼性の高い弁護士制度を国民のために整備し提供する国の責務についての自覚を忘れた提案であるから,当会は,これに強く反対するものである。
1,貸与制移行に違法の疑いありとする理由
(1)国家公務員に労働基準法は適用はない。(※1)司法修習生は国家公務員ではないが国家公務員に準じた立場とされ(※2),労働基本法が直ちに適用されることはないと考えられている。しかし,国家公務員といえども「憲法上の労働者」(※3)だから,最低民間並みの保障は与えなければならない。国家公務員に労働基準法が適用されなくてよいとされるのは,一般的には国家公務員には民間より手厚い身分保障制度が提供されているからだとされる。司法修習生にはこれまでは給費制があったから労働基準法69条をわざわざ適用して保護する必要もなかっただけである。しかし,給費制をやめて無給(貸与制)にするとなると話は別である。
(2)民間企業が新入社員に「新人研修の間の生活資金を無利子で貸してあげるから入社後1年間は無給で新人研修を受けて。」というようなことを言うと,労働基準法第69条違反や24条違反ということで叱られることになる。労働基準法第69条は「使用者は,徒弟,見習,養成工その他名称の如何を問わず,技能の習得を目的とする者であることを理由として,労働者を酷使してはならない。」という社会のルールであり,要するに「研修中」「見習」だからといって労働の対価を与えずに労働させてはいけないということである。
(3)最高裁が修習生に修習専念義務を課し,アルバイトも禁止している以上,司法修習生を1年間も拘束し,その間に転勤まで求めながら,何らの給与も与えないということになると,民間労働者についての労働基準法第69条の基準すら下回るような過酷な扱いをすることになるから,労働基準法69条に準じたルールに照らして違法とされる疑いがある。
(4)司法修習生は,学生と労働者との中間的な存在であり,単純にどちらと割りきることは困難だが,少なくとも労働者の一面を完全には否定できない以上(検察官の不足を補う方法として修習生に公判立会の権限を与えることさえ検討されたことがある。※4),上のように考えるべきである。
このような考え方に対しては,司法修習生は学生の色彩が強いのであり,学生と見るならば奨学金のような貸与制でよいという反対もあるが,2つの理由からこの考え方はとれない。
1つめの理由は,昭和22年に司法修習制度ができた時の時代背景である。制度の設計者は,アメリカのロースクール制度を強く意識したはずである。ロース クールを出た者は弁護士登録が可能になり,弁護士としてキャリアを積んだ者の中から優れた者を判事や検事に登用するというシステムを意識しつつ,弁護士資格を得させる時期を敢えて2年間遅らせて,そこに統一修習期間を置いたわけである。弁護士として収入を得る可能性を国の政策で2年間を奪うという側面がある以上は,生活補償を与えることになるのは自然な判断だったのではないか。そして,このような自然な判断を今日修正する合理性はないのではないか。(※ 5)
2つめの理由は,修習生の修習専念義務が重く,アルバイトが禁止され,遠隔地への転勤が予測されていることなど時間的,場所的な拘束の程度が著しいことがあげられる。
(5)給費制を維持しつつ給費額を減額するような選択もありうるが,生活補償に必要な額,どの程度の修習専念義務を負わせることが必要か,生活資金の貸与との組み合わせなどを慎重に考慮すべきである。
(a)ドイツの例
ドイツ(ベルリン)では給費制(月10万円程度らしい)であるが,修習専念義務とはいいながら,週8時間まで副業が認めており,法律家的な副業(弁護士事 務所の手伝い等)については,週10時間まで許可されるということである。十分な生活補償はできないことについては,専念義務を緩和してバランスをとろうとしているようにも見える。義務付けはそのままで貸与制に移行するといった議論はいかにも乱暴である。
(b)日本においては,修習専念義務は堅持されるべきである。我が国においては,修習専念義務は堅持されるべきである。短縮された1年という修習期間はあまりにも短く,修習生が学ぶべき事はあまりにも多いのであって,アルバイトをしながらの片手間の修習で到底間に合わない。そうだとすれば,生活補償に十分な水準の給費制を維持するのが最善策であり,その限りでは生 活資金の貸与との組み合わせは不要である。
2,司法修習生に著しい困苦を強い,若者の司法離れに拍車をかけるものである。
(1)2010年(平成22年)の新司法試験の合格者(2074名)の平均年齢は29.07歳であり,法科大学院を卒業した者である。既婚者も少なくない。既に実社会で活躍した人材も含まれている。
(2)「300万円貸してあげるから,それで修習の1年間を生活してください。貸した資金は5年据え置きで10年かけて返してくれたらいいから」という貸与制はしょせん借金でしかない。修習専念義務を課せられるため1年間「無職」の借金生活者になることを余儀なくされ,実務修習地次第では遠隔地への転勤(場合によっては単身赴任)を強いられる司法修習生への補償が「貸与制」という名の借金だけというのはあまりに過酷である。4年制大学卒業後,最低2年 (多くの者は3年)以上法科大学院で勉学してきた修習生は平均で300万円,多い人は1200万円もの奨学金債務を抱えている。それでも数年前までは法曹 資格を得て法律事務所に就職すればこういった借金も返せたであろう。しかし,現在は弁護士激増のあおりで一括登録時点で就職先がないため立ちすくんでしま う者(登録未了者)が1割以上出ており,しかも登録している者の中にも「軒弁(※5)」「即独(※6)」と呼ばれる「イソ弁(※7)」以外の態様の者がおり,彼らが十分な収入を得ていけるとは考えにくい。加えて,就職ができた者が手にできる「イソ弁」の給料額も一部で暴落している。こういった中から奨学金 等の借金の返済に困難をきたす者が少なからず出る可能性がある。苦労して法曹資格を得てもちっとも報われないという残酷話である。
(3)多くの才能と情熱ある修習生が就職難に苦しんでいる。司法試験の合格者はずっと年500人くらいのペースであったのが,年2000人程度に増加した 結果であり,彼らの怠慢のせいにすることは適切ではない。司法修習生の就職難をもたらした弁護士人口の激増は,修習生を雇って教育する側の既存弁護士の経営基盤の弱体化をもたらしており,それが修習生の就職難をさらに悪化させるという悪循環に陥っている。その結果,法科大学院の志願者も減っている。優秀な若者が法曹に大きな夢を抱いてどんどん集まってくるという状況ではない。法曹人口の増加によって,競争を生み出し,競争によって安価で良質な法的サービス が供給されるという目論見が外れたのは明らかである。弁護士という職業の魅力自体が揺らいでおり,競争参加者が減少することで,適正な競争を成り立たせる 条件自体が失われつつある。給費制廃止は,法曹志願者の減少にますます拍車をかけ,法曹養成制度の危機をさらに深刻化させる愚行である。
3,信頼性の高い弁護士制度を国民のために整備し提供する国の責務
(1)司法修習制度を国費で行うのは,実務経験を積ませ,社会正義と人権の守り手に鍛え上げるための最終過程だからである。弁護士が特別偉いわけでも何でもないが,ただ弁護士は社会とその構成員を社会生活上のリスクから守るための実力装置として訓練され社会の中に配置される存在である。同じく国民をリスクから守るための基本的なインフラとしては医師,自衛官,警察などがあるが,このような安全のための基本的なインフラについては国(警察については地方自治体)が整備して国民に提供してきた。
弁護士制度については国が責任をもって整備しなくても大丈夫な状況が生まれたのかというとそのような状況にはなっていない。それどころか,複雑化する社会の中で,その必要は増大している。社会の仕組みから事前規制の仕掛けが解除され,事後規制の社会に舵を切る一連の政策変更があったことによって,国民が新 種の社会リスクによるトラブルに巻き込まれる危険が増すことが確実に予測され,これへの対処も弁護士増員の理由のひとつであった。一方で,国民のリスクの増大が予測される重大な政策変更をし,その手当てとして弁護士大増員を決めておきながら,他方で法曹養成制度を支えていた給費制を切り捨てることは,国民の安全を守るという基準に照らすと正反対のことをやろうとしているようにも見える。「司法試験合格者を大増員すると司法修習にかかる費用が増大して負担が大変だから,給費制はもう止めよう」という話はかなり短絡的であり,大きな司法を目指す本来の司法制度改革の理念とも文脈が違う議論のようである。また,少なくとも自然界では環境がよくなって餌が増えたときに,動物は大増殖するのが摂理であり,環境が悪いときに何かの間違いで大増殖をした種は大飢餓に陥るのである。残念ながら我が弁護士業界は長期の不況の最中に大増殖のスイッチを入れるとどういうことになるかを身をもって実験しつつある。そして,飢餓の影響をまともに受けているのが我々の卵であり雛鳥たちである。今給費制を打ち切ることは,正義感に溢れ才能豊かな若者たちを大虐殺するような愚行であると考 える。
(2)我々が住むこの社会は,社会的なトラブル(犯罪,インチキ商法,投機的取引,多重債務などなど)に遭遇するリスクにあふれている。そして,飽くなき人間の欲望は次から次に新種のリスクを生み出していき,インターネットなどによって瞬く間に社会に蔓延し甚大な被害を発生させることも多くなっている。新たな社会リスクにもっとも敏感に感知して動くのが弁護士であり,リスクへの応急処置をしながら,場合によっては立法・行政を動かしてリスクを押さえ込もうという働きをすることを期待されている。サラ金地獄,豊田商事事件,霊感商法,オウム真理教事件など激甚な社会リスクが発生した際に弁護士が果たした役割 を想起されたい。弁護士がそのような役割をごく自然に果たせるのは,その弁護士の資質や考え方もあろうが,実は司法修習時代に植え付けられた使命感に従って行動している部分も少なからずある。
4,大震災と給費制維持
(1)今回の大震災にあたり,日弁連は二重ローン解消などを強く提唱している。また,各地から弁護士が被災地に集まって,被災地の弁護士と共に懸命に法律相談活動を展開している。
(2)未曾有の大震災と原発被害によって発生した強烈な衝撃波は,これを放置すれば被災地に深刻な企業倒産,多重債務被害,家庭崩壊など連鎖的に引き起こし,被災地を食い物にしようとする犯罪者,悪徳業者までがからんで,惨劇の第二幕が開いてしまう。これを何とか食い止める闘いが続いている。東北地方に は,冷害など天災の度に多数の餓死者等を発生させた悲しい歴史がある。そういった悲劇だけはなんとしても防がなければならない。医師が疫病の蔓延による悲劇を防ごうと活動しているのと同じように,弁護士も悲劇の拡大を食い止めるための活動をしなければならない。
(3)大震災が今後日本各地に派生させる様々な社会病理の激増を予見してこれに対処する弁護士の活動が必要な時に,「震災被害と財政難の中,税金を投入するための国民の理解が得られない。」といった理由で給費制廃止の議論をしなければならないのは何とも情けないことである。
(4)こういう時にこそ,昭和22年に司法修習制度ができてから永々と給費制を維持して築き上げてきた弁護士制度が社会のためにどのように機能してきたかを検証されてしかるべきである。(5)私たちの岡山弁護士会からも遠く離れた東北の被災地に相談員を送る計画があり,47人が志願して待機している。弁護士は自分達を大切に育んでくれた社会のことを決して忘れないのである。
(6)司法修習制度が始まったのは,昭和22年のことと聞いている。焦土と化した我が国をこれから復興していこうとした時,先人は,弁護士制度を含む司法を再構築する必要性を重視して乏しい国家財政にもかかわらず,給費制で司法修習制度を創設した。今回の大震災は,多くの国民の幸福を破壊し,しかも今なお その破壊は進行中である。
司法修習生の給費制を維持するかどうかについて世論に配慮することももちろん必要だろう。しかし,国民の安全を守るための基本的インフラを整備して提供する国の責務について国の見識と断固たる意思を示すべきである。
5,他の制度との比較?医師臨床研修制度の場合
(1)医師臨床研修制度
(a)国が研修に国庫支出をする制度はいくつかあるが,その中でも医師臨床研修制度(但し,国から直接研修医に支給されるのではなく,研修先医療機関に対し,研修医に対して研修を実施し,給与を支給するために補助金が支給されている。)を取り上げて比較してみたい。(※8)
(b)研修医は既に医師なのであり法曹の卵にすぎない修習生と同列に論じることは慎重にしなければならないが,研修医が既に医師だからといって,「研修制 度を修了した医師」という個人資格を取得するための給料を国庫から出せるということには直ちにならないから,研修医と司法修習生を比較する有用性は失われ ない。なお,有給の研修医制度を構築する際には既に古くからあった司法修習制度も参考にされたようである。
(c)医師の場合は,国家試験合格後2年間研修医として臨床を体験することが必要とされており,現在は月30万円程度の給与を得ながら研修医として勤務することになる。この勤務医の給与の原資は国庫から支出されている。研修医は,臨床研修専念義務(医師法16条の3)を負う。2004年(平成16年)までは,研修医は無給であり,当直医などのアルバイトをして生計を立てる者が多かったが,医師臨床研修制度が見直され,研修専念義務が新設されるとともに有給となった。(なお,「研修医の身分の安定及び労働条件の向上に努めること」 などを求めた平成12月11月の第150回国会参議院国民福祉委員会附帯決議が参考になる。また「新医師臨床研修の基本3原則」という中に「アルバイトせずに研修に専念できる環境を整備」という項目がある。)
(2)制度の比較
(a)医師制度も弁護士制度も,国民にとって基本的な社会インフラであるがゆえに,国家がその制度の整備に直接に責任を持ってきた。
(b)「アルバイトせずに研修に専念できる環境を整備」していこうという新医師臨床研修と比較しても,司法修習の貸与制は,あまりにも劣悪な扱いであり,国の制度として整合性があるかも疑問である。
(c)司法修習制度の制度が作られたのは,法曹資格を付与する前に一定の実務修習・臨床経験を積ませることが不可欠と考えられたからである。研修医の場合も臨床経験を積ませようという制度の目的は共通である。
研修医制度ができる以前は,インターン制度だったが,インターン生は国家試験前の学生でありインターンが国家試験の受験要件とされた。インターン制度は廃止され,無給の研修医制度に代わり,それが平成16年から有給の研修医制度に変わった。ここに臨床体験を積ませるための研修制度であっても無給ではいけないという理解の深化が見てとれる。
有給の研修医制度はできてからまだ日が浅い制度であるが,大震災だからこれを無給に戻すべきだという議論も聞かない。
6,結語
当会は,貸与制については,以上述べたとおり,?「違法の疑い」があり,?司法修習生に著しい困苦を強い,?若者の司法離れに拍車をかけるものであり,? 信頼性の高い弁護士制度を国民のために整備し提供する国の責務についての自覚を忘れた提案と考えるから,給費制の存続を強く求めるものである。
2011(平成23)年7月13日
岡山弁護士会 会長  的  場  真  介
脚注
※1 国家公務員法附則16条は,「労働組合法,労働関係調整法,労働基 準法,船員法,最低賃金法,じん肺法,労働安全衛生法及び船員災害防止活動の促進に関する法律並びにこれらに基づいて発せられる命令は,第2条の一般職に 属する職員には,これを適用しない。」と定めているので,国家公務員に労働基準法の適用はない。しかし,司法修習生については,国家公務員ではないのだか ら,労働基準法の適用を否定する明確な根拠はない。
※2 最高裁のホームページでは,「司法修習生は,国家公務員ではありませんが,これに準じた身分にあるものとして取り扱われ,国から一定額の給与が支給されます(裁判所法第67条第2項)」と説明されている。
裁判所法第67条第2項は,「司法修習生は,その修習期間中,国庫から一 定額の給与を受ける。」と規定するだけである。
※3 全農林警職法事件・最大判昭和48年4月25日刑集27巻4号547頁 ※4 昭和23年03月29日の衆議院司法委員会における佐藤政府委員の発言
検察庁の人手不足対策に関して,「司法修習生が区檢察廳の立会をなすこと ができるようにするとか,あるいは地方檢察廳の立会までもできるようにしたらどうか,というような意見もありますので,その点については,目下研究をいたしておる次第であります。」このような政府委員の発言は司法修習生が純粋な学生とは異質な存在であったことを示している。
※5 「司法修習生=非法曹=学生」→「学生=無給」→「奨学金=貸与制で十分」という推論は,元々「司法修習生=非法曹」である必然性がない(「司法修習生=非法曹」はある法曹養成政策を選択した結果でしかない。)ことを見落としている。
司法修習生の「統一修習」は,法曹一元的な色彩を持つ一方で,経験を積んだ弁護士の中から判事・検事を登用するシステムを忌避するための妥協として生まれた制度という見方もあるが,法曹の質を高めるうえでは優れた制度であった。しかし,給費制の存廃が再検討されている時期なのであるから,キャリアを積んだ 弁護士の中から判事・検事を登用する法曹一元システムを本格的に導入することをあらためて正面から議論し直されてよいのではないか。
※6 「軒先を借りる弁護士」の意。「ノキ弁」とも書く。既存の法律事務所の一部を借りて机と電話を置き,営業を始める新米弁護士。給料は出ない。
※7 新規登録と同時に独立開業する弁護士。
※8 弁護士事務所に勤めている弁護士のこと。弁護士事務所に居候している弁護士なので「イソ弁」という説などがある。
※9 研修医制度については,厚生労働省 医師臨床研修制度のホームページを主に参考にした。ttp://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/rinsyo/

修習生給費制会長声明
平成22年11月26日、司法修習生に対する貸与制の施行を1年間停止し、給与の支給を行うこととする「裁判所法の一部を改正する法律」が成立した。これにより昨年採用された新64期司法修習生は、従前と同様、給与の支給を受けられることになった。
当会は、署名活動、地元選出国会議員への要請活動、緊急市民集会など、司法修習生に対し給与を支給する制度(給費制)の存続に向けて運動を展開してきたところ、今回の法改正は、完全な給費制の復活とはならなかったものの、これまでの当会の運動方針に沿うものである。当会の運動方針をご理解いただき、署名等にご協力いただいた県民の皆様、報道等にご協力いただいたマスコミの皆様、問題の本質をご理解いただき、裁判所法の改正にご尽力いただいた各政党及び国会議員の皆様に心より感謝申し上げる次第である。
しかしながら、今回の法改正による給費制の延長期間は1年間のみであり、その附帯決議においては、その間に「法曹の養成に関する制度の在り方全体について速やかに検討を加え、その結果に基づいて順次必要な措置を講ずること」が求められている。
そこで、当会としては、政府及び最高裁判所に対し、司法修習生に対する財政的支援の在り方や、法曹養成制度全体の在り方を検討する組織を直ちに設置するとともに、法曹が、国が費用を支出してでも養成すべき社会資源であることに鑑み、法曹志望者が経済的理由から法曹への途を断念することのないよう、平成23年11月以降も給費制が維持・存続される措置をとるよう、強く求めるものである。
2011(平成23)年1月12日
岡山弁護士会 会長  河 村 英 紀

秋田弁護士会所属弁護士殺害に関する会長声明
本年11月4日,秋田弁護士会会員で日本弁護士連合会消費者問題対策委員会委員長を務めていた津谷裕貴弁護士が,同弁護士の自宅を訪れた男性により,刃物で刺され死亡するという事件が発生した。事件の詳細は明らかでないものの,報道によると,その男性は,かつて津谷弁護士が受任していた調停事件の相手方であったとのことであり,弁護士業務に関連する事件である疑いが強い。
また,本年6月にも,横浜弁護士会会員の前野義広弁護士が,事件の相手方に法律事務所内で刃物で刺され死亡するという事件が発生している。
このような行為は,基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の職務を暴力でもって妨害しようとする卑劣極まりないものであり,司法制度や法秩序に対する重大な挑戦であって断じて許されない。
当会は,津谷弁護士の御冥福を祈り,その御遺族に対し深い哀悼の意をささげるものである。そして,このような暴力による卑劣な弁護士業務妨害行為に対して毅然と闘い,今後も,弁護士の使命である基本的人権の擁護と社会正義の実現のため全力を尽くす決意であることをここに表明する。
2010(平成22)年11月10日
岡山弁護士会 会 長  河 村 英 紀

給費制に関する会長声明
平成22年11月から、司法修習生に給与を支給する給費制が廃止され、必要な者に生活資金を貸与する貸与制が実施されることが予定されている。当会は、平成21年9月9日、給費制の継続を求める会長声明を出したが、いよいよ現実に給費制が廃止されるのが目前に迫ろうとしている現時点で、司法修習生の給与給費制を堅持すべきことを、改めて強く求めるものである。
1給費制の存在意義
裁判官、検察官、弁護士になるためには、司法試験に合格後に、司法修習を終えることが必要とされているところ、この司法修習は、裁判官、検察官、弁護士のいずれの道に進む者に対しても同じカリキュラムで行われ、法律実務に関する知識等のみならず、法曹としての高い職業意識と倫理観の修得も目的としている。そして、司法修習生には、修習に専念すべき義務が課されている。
司法修習生に対する給与給費制は、この司法修習制度の創設以来、これと不可分一体のものとして採用され、すべての司法修習生が貧富の差に関係なく司法修習に専念することを可能にし、法曹三者の統一修習を経済的側面から支えてきたものであり、この給費制があればこそ、あらゆる経済的階層から有為で多様な人材が法曹界に輩出されてきたのである。
2給費制廃止の弊害
法科大学院制度が導入され、法曹を志す者は司法修習生となるまでに多大な経済的負担を追っている現状の下で、給費制を廃止すると、司法修習中にも更に約300万円の負債を生じさせることになるため、多くの有為の人材が経済的事情により法曹への道を断念する事態につながり、経済的富裕層のみが法曹になっていく社会を現出させかねない。
また、給費制は、法曹三者、とりわけ弁護士の公共性・公益性を担保する役割を果たしてきた。弁護士・弁護士会による各種の公益活動を支える弁護士の使命感は、給費制の下での司法修習制度によって醸成されてきたものであるところ、給費制の廃止は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とすべき弁護士の在り方をも変質させかねない。
以上のとおり、給費制を廃止することは、高い専門的能力と職業倫理を備えた法曹の養成を担ってきた司法修習制度の存続を危うくし、ひいては司法制度の利用者である国民の利益を損なうものであることから、当会は、司法修習生の給与給費制を堅持することを強く求めるものである。
2010(平成22)年7月12日
岡山弁護士会 会長  河 村 英 紀

公訴時効廃止・延長に反対する会長声明
殺人等の重大犯罪について公訴時効を廃止・延長し、かつ、その遡及適用を行うことを内容とする刑事訴訟法の改正案は、平成22年4月14日に参議院で可決され、現在、衆議院にて審議が行われている。しかしながら、当会は、下記の観点から同法案には反対するものである。
1 被疑者・被告人及び弁護人の防御権の観点からの問題点
公訴時効制度は、一見、犯罪者に逃げ得を許すかのような制度にも見えるが、冤罪防止のために極めて重要な機能を有している。すなわち、事件発生から起訴までに長期間を要した場合、時間の経過により、?証人の記憶が薄れたり、証人が死亡したり、事件の現場の状況が大きく変わったりすることにより、反対尋問等による防御権の実質的保障の基盤が失われる、?被告人・被疑者に有利な証拠が散逸する(なお、捜査機関が被疑者・被告人に有利な証拠を積極的に収集・保全することは期待できない)、といった事態が生じ、冤罪防止のためにも重要な権利である被疑者・被告人及び弁護人の防御権が著しく侵害される危険があるところ、公訴時効はかかる危険を緩和する重要な機能を有しているのであり、その廃止・延長は、かかる重要な機能を大きく損なうものである。上記のような刑事司法の実情と公訴時効制度の存在意義が国民に十分に説明されていない現状からも、重大犯罪について公訴時効の廃止・延長を行うことには大きな問題がある。
なお、科学的証拠の活用により、事件発生から長期間を経た後の起訴事案についても冤罪の危険は軽減されるという見方もあるが、当時信頼できるとされた科学的証拠の信用性が後に否定されることもあり、したがってかかる見方が必ずしも正しいとは言えないことは、いわゆる足利事件の教訓からも明らかである。
2 立法事実及び比較立法の観点からの検討
公訴時効期間については、既に平成16年の刑事訴訟法改正において一定の延長がなされているところ、それ以後の約6年の期間に、再度の、かつ、一部廃止が含まれる大幅な改正が必要となるような、我が国における社会事情の変化が存するかについては、疑問である。
また、諸外国の立法例では、公訴時効が存在しない国もある一方で、例えばフランスでは公訴時効がない犯罪は集団殺害など人道に対する罪に限られ、ドイツでも公訴時効がないのは民族虐殺などの犯罪に限られている。これら立法例との比較検討の見地からも、我が国において殺人一般について公訴時効を廃止するに当たっては、慎重な検討が必要である。
3 遡及適用の問題点
憲法39条は、直接的には実体的刑罰法規の遡及適用を禁止するものであるが、訴訟規定であっても、被疑者・被告人の実質的地位に直接影響を持ち、したがって、実体法と密接な規定については、遡及適用は許されないと考えるべきである。また、公訴時効については、一定期間の経過によってその可罰性が減少するという実体法上の意味もあるところ、かかる公訴時効の実体的側面に鑑みると、公訴時効を廃止・延長する法案を遡及的に適用することは、実体的刑罰法規の遡及適用そのものということになる。
したがって、重大犯罪について公訴時効を廃止・延長する法案を、その施行の際に時効が完成していない事件に遡及適用することは、憲法39条に違反する疑いが強い。
4 犯罪被害者及びその遺族との関係
重大犯罪について公訴時効が廃止・延長されたからといって、犯人が直ちに逮捕・処罰されるわけではなく、犯罪被害者及びその遺族の立場が強化されるわけでもない。つまり、犯人が逮捕されないままの犯罪被害者及びその遺族にとって必要なのは、公訴時効の廃止等より、むしろ、初動捜査を含めた刑事警察の捜査能力の向上と、具体的な経済的・精神的な支援の施策や措置である。犯罪被害者及びその遺族に対する、社会的・精神的な援助を中心とする総合的な対策を後回しにして、重大犯罪についての公訴時効の廃止・延長と、その遡及適用を先行的におこなうことは、犯罪被害者及びその遺族への支援策としても、本末転倒で安易な弥縫策でしかない。
以上の観点から、当会は、重大犯罪について公訴時効を廃止・延長し、かつ、その遡及適用をおこなう法案に反対するものである。
2010(平成22年)4月21日
岡山弁護士会 会 長  河 村 英 紀

国選付添人制度の拡充を求める会長声明
1 少年審判において、弁護士付添人は、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるよう、少年側の立場から手続きに関与し、家庭や学校・職場等の環境の調整を行い、少年の立ち直りを支援する活動を行っている。
少年審判において、少年を受容・理解したうえで、少年に対して法的・社会的な援助を行い、少年の成長・発達を支援する弁護士付添人の存在は、少年の更生にとって極めて重要である。
子どもの権利条約第40条2項(b)は、「刑法を犯したと申し立てられた全ての児童は、…防御の準備及び申立において弁護人(又は)その他適当な援助行う者をもつこと」と規定し、第37条(d)は、「自由を奪われた全ての児童は、…弁護人(及び)その他適当な援助を行う者と速やかに接触する権利を有する」と規定しており、身体拘束を受けた少年には必ず弁護士と接触する権利が保障されなければならないとしている。
しかしながら、現実には多くの少年やその保護者には、弁護士付添人の費用を負担する資力がなく、仮に保護者に資力があったとしても、少年のために費用を負担することには消極的な場合がほとんどであって、国費により弁護士付添人を付する制度でなければ、少年が弁護士付添人の援助を受ける権利は実質的に保障されることにならない。
2 2008年(平成20年)に審判に付された少年は、54,054人、そのうち観護措置決定により身体の拘束を受けた少年は、11,519人であったが、弁護士である付添人が選任されたのは、4,604人で、身体が拘束された事件のわずか40パーセントに過ぎない。 また、現行の国選付添人制度は、対象事件を重大事件に限定しているため、同年の対象事件に該当する少年の数は707人で、身体の拘束を受けた少年の6パーセントに過ぎないうえ、実際に国選付添人が選任された少年の数は、422人(4パーセント)であった。
刑事被告人の98パーセント以上に弁護士の国選弁護人が選任されていることと対比すると、あまりにも低率といわざるを得ない。
3 日本弁護士連合会は、弁護士付添人の援助を受ける少年の権利を保障するため、全国の会員から特別会費を徴収し、弁護士付添人の費用を援助する付添援助制度を実施している。
これにより、弁護士付添人選任数は従来に比べ増加するに至っている。
しかし、付添援助制度は、弁護士会員がいわば自腹を切って支えている臨時的・暫定的なものであって、恒常的なものと位置づけられるものではないし、選任件数の増加により財源の枯渇するおそれも生じている。
4 よって、当会は、現行の国選付添人制度を拡充し、少なくとも身体の拘束を受けた少年の全事件に弁護士付添人が選任されるよう、政府に対し少年法を早急に改正することを求める。
2010(平成22)年2月10日
岡山弁護士会 会長 東 ?司←?は最初から