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2356 ら神奈川弁護士会③

いわゆる共謀罪新法案の国会提出に反対する会長声明
2016年12月09日更新
1. 政府は,過去3回に渡り,共謀罪規定を含む法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部改正案。以下,「旧法案」という。)を国会に提出したが,市民の強い反対で廃案となった。共謀罪は,犯罪の実行の着手に至らない「共謀」それ自体を処罰の対象とするもので,「行為」を処罰するわが国の刑法の基本原則に反するものであり,その構成要件も不明瞭であって,罪刑法定主義にも反すると言わざるを得ないものであった。
 今般,報道機関は,政府が,テロ対策の一環として,旧法案を修正した法案(以下,「新法案」という。)をまとめ,第192回臨時国会への提出を検討していると報じた。その後2016年9月16日,政府は臨時国会への法案の提出をひとまず断念したと報じられた。
しかし,政府は,来年の通常国会へこの新法案を提出する可能性があり,予断を許さない状況である。
2. 報道によれば,新法案は,「組織犯罪集団に係る実行準備行為を伴う犯罪遂行の計画罪」を新設し,その略称を「テロ等組織犯罪準備罪」とした。旧法案において,適用対象を単に「団体」としていたものを,新法案では「組織的犯罪集団」とした上で,その定義について,「目的が長期4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」とした。さらに,犯罪の「遂行を2人以上で計画した者」を処罰することとし,その処罰に当たっては,計画をした誰かが,「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の準備行為が行われたとき」という要件を付した。
政府は,これらの変更点につき旧法案に対する批判に配慮したものであるとしている。
しかし,その内容は,以下に指摘するとおり,旧法案の有する危険性と何ら変わるところがない。 i. 新法案の「計画」とは,旧法案の「共謀」の言換えに過ぎない。処罰要件として加わった「準備行為」については,「その他の準備行為」という形で記載され,資金の取得等は例示列挙に過ぎないことになり,予備罪における予備行為のようにそれ自体が一定の危険性を備えている必要もない。「準備行為」の概念は,あいまいかつ広範であり,これにより処罰対象が限定されているとは到底言えず,罪刑法定主義の観点からも問題がある。
ii. 新法案では,適用対象が「組織的犯罪集団」とされ,その定義は,「目的が長期4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」とされているが,法定刑長期4年以上の懲役・禁錮の罪の数は,旧法案でも問題となったとおり,600を超える。「組織的犯罪集団」に関する捜査機関による法律の解釈によっては,摘発される対象が拡大する危険性が高い。
 以上のように,新法案は,旧法案の名称と要件を変えたという体裁を取りながら,その危険性は,これまで廃案となった旧法案と何ら変わるところがない。
3. 加えて,今般,通信傍受の対象犯罪の拡大等が刑事訴訟法改正に盛り込まれたが,これらと新法案の「テロ等組織犯罪準備罪」とが結びつくと,テロ対策の名の下に市民の会話が監視・盗聴され,その市民の会話が同罪により摘発の対象となる可能性があり,憲法の保障する思想・良心の自由,表現の自由,通信の秘密及びプライバシーなどを侵害し,深刻な萎縮効果をもたらすおそれがある。
4. 新法案は,旧法案と同様,刑法の基本原則を否定するものであり,罪刑法定主義にも反するものであるから,当会は新法案の国会への提出に反対する。
2016(平成28)年12月8日
神奈川県弁護士会 会長 三浦 修

死刑執行に抗議する会長声明
2016年12月09日更新
本年11月11日,福岡拘置所において,死刑確定者1名に対する死刑が執行された。
 死刑制度は,国家が個人のかけがえのない生命を奪う制度であり,罪を犯した人の更生と社会復帰の可能性を完全に奪い,社会から永久に排除する刑罰であって,誤判によるえん罪の場合には,取り返しのつかない結果を招く危険を内包する制度である。
かかる死刑制度の問題点に鑑み,国連総会は,2014年12月18日,全ての死刑存置国に対し,「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議を過去最多の117ヶ国の賛成で採決した。このように,死刑制度の廃止はいまや国際的な潮流である。
さらに,わが国は,これまで,国際人権(自由権)規約委員会や国連拷問禁止委員会等の国際機関から,死刑制度に関する情報の公開が不十分であること,死刑判決の全員一致制や死刑判決に対する自動上訴制等の慎重な司法手続きが保障されていないこと,死刑に直面している人に十分な弁護権,防御権が保障されていないことなどについて,幾度となく改善を勧告されてきたが,今日まで,それらの勧告に対する見るべき改善はなされていない。
 日本弁護士連合会は,本年10月7日,第59回人権擁護大会において,「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択しているが,同宣言を契機として,いままさに,死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革に関する議論を始めることが必要である。
これまで,当会においても,死刑制度についての国民的な議論が尽くされないまま死刑が執行されることについて,再三の抗議声明を発出してきたところであるが,当会は,改めて,今回の死刑執行に抗議し,死刑の執行を直ちに停止して,死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革に関する国民的議論を開始するよう求める。
2016年(平成28年)12月8日
神奈川県弁護士会 会長 三浦 修

当会会員の刑事事件判決確定による弁護士資格喪失に関する会長談話
2016年07月29日更新
平成28年7月14日付け会長談話にて、当会の楠元和貴会員の業務上横領事件について控訴審判決が下されたことを報告申し上げましたが、本日、前記判決が確定し、同会員に対する懲役4年6月の実刑判決が確定したとの報を受けました。同会員は、前記判決の確定により、弁護士法第17条第1号、同法第7条第1号により、弁護士資格を喪失することとなりましたので、その旨報告申し上げます。
また、同会員に対しましては、平成27年1月30日付け会長談話にて報告申し上げましたとおり、当会において懲戒手続きが進められていたところですが、同会員が弁護士資格を喪失したことに伴い、懲戒手続きは終了することとなりました。
 当会としましては、前記平成28年7月14日付け会長談話でも申し上げましたように、今回の事件を重く受け止め、弁護士及び弁護士会に対する市民の皆様の信頼を回復するため、会員不祥事の再発防止に向け、引き続き、真摯に取り組んで参ります。
2016(平成28)年7月29日
神奈川県弁護士会    会長 三浦  修

安全保障関連法の廃止を求め、立憲主義の回復をめざす決議
2016年05月25日更新
 昨年9月19日に集団的自衛権の行使等を容認する平和安全法制整備法および国際平和支援法(以下あわせて「安全保障関連法」という)が成立し、本年3月29日に施行された。
 憲法9条は、1項において戦争放棄を、2項において戦力の不保持及び交戦権の否認を定め、憲法前文は平和的生存権を保障しており、日本国憲法は徹底した恒久平和主義に立っている。安全保障関連法は、集団的自衛権の行使を認め、海外での武力行使を容認するものである。これは、武力行使が許されるのは、わが国に対して直接武力攻撃が発生し、それを排除するために他に取り得る手段がなく、攻撃を排除するための必要最小限度の実力行使をする場合に限られるとする、これまでの長年の政府の憲法解釈に反するものであり、明らかに憲法9条に違反する。
 安全保障関連法は、憲法に縛られるはずの国会が、憲法改正手続によらずに憲法を改変したものであって、憲法が国の最高法規であり、憲法は、個人の人権を保障するために国家権力を制限することに意義があるという立憲主義に違反する。
このように、私たちの国は、いま、憲法が無視され、立憲主義が破壊されるという危機的な状況にある。
 現在の私たちの国における政府を中心とする憲法改正に関する議論状況をみるに、個人の人権保障のために国家があるという立憲主義の考え方とは逆に、国家が国民に憲法でもって国のありようを示し、国民にはその憲法を尊重する義務があるという内容になっていると解されるものもある。さらに、誰もが生まれながらに等しく基本的人権を持つという、立憲主義を支える普遍的な思想である天賦人権説を疑問視する考え方や、人権の調整原理とされてきた「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に変え、人権は平穏な社会生活のためには制限されうる、とする考え方もある。
しかし、これらの考え方は、立憲主義の考え方を否定し、人権保障をないがしろにするものであって、法律家として、到底受け入れることはできず、このような憲法改正を巡る動向には強い危機感を抱かざるをえない。
立憲主義は、まさに人類の英知の到達点であり、私たちの人権保障の砦である。
 私たちは、ここに、改めて安全保障関連法の廃止を求めるとともに、立憲主義の理念を否定し、後退させるようないかなる試みに対しても断固反対し、立憲主義の回復をめざすことを決意するものである。
2016(平成28)年5月24日
平成28年度神奈川県弁護士会通常総会

憲法記念日会長談話
2016年05月02日更新
今日は69回目の憲法記念日です。今年の参議院選挙から18歳以上の若い人たちにも新たに選挙権が認められます。憲法記念日にあたり、とりわけ初めて選挙にのぞむ若い人たちとともに、憲法とは何かということ、そして、今日の憲法をめぐる状況について考えてみたいと思います。
 憲法は私たちの人権を守るためのきまりです。私たちは、誰もが、生まれながらに侵すことのできない権利を持っています。それを保障するために私たちは憲法を定め、国家の権力を制限することにしました。この考え方を立憲主義といいます。この考えに基づき、憲法99条は、内閣総理大臣や国会議員や公務員などに憲法尊重擁護義務を定めています。
 憲法には、表現の自由、信教の自由、居住・移転の自由、生存権、教育を受ける権利、労働者の権利などさまざまな人権が保障されています。国家は、これらの権利を侵害してはいけません、と定めているのが憲法なのです。
 憲法は、戦争の放棄も定めています。戦力は保持しないこと、戦争する国に認められるさまざまな権利(交戦権)を認めないこと、も定められています。憲法前文では、平和的生存権も保障されています。
 国民主権も憲法の基本原理のひとつです。私たちが主権者であり、国のあり方や国の大事なことを決める権利を持っているのは私たち自身であるという意味です。
これらの基本的人権の尊重、恒久平和主義、国民主権が、日本国憲法の3つの基本原理です。
 憲法は、国家権力から私たちの権利を守る大切な砦であり拠り所です。憲法がなければ、国家権力は好き勝手に振る舞って、私たちの人権や平和はたちまち危ういものになってしまいます。
ところで、いま、日本国憲法はかつてない危機的な状況にあります。
 昨年9月19日に集団的自衛権の行使等を容認するいわゆる安全保障関連法が成立しましたが、集団的自衛権の行使を容認することは、憲法9条に違反します。そして、憲法に違反する法律を制定することは、立憲主義にも違反します。神奈川県弁護士会は、このことに強い危機感をおぼえ、これまでに何度も抗議し、反対してきましたが、安全保障関連法は、今年3月29日に施行され、今日に至っています。
 神奈川県弁護士会は、憲法記念日を迎えるにあたって、あらためて、違憲の立法に強く抗議するとともに、法律家として、このような状況を決して許さず、今後も、違憲の法律の廃止および立憲主義の回復に向けて、最大限の努力をしていきたいと思います。
2016(平成28)年5月3日
神奈川県弁護士会    会長 三浦  修

死刑執行に抗議する会長声明
2016年04月13日更新
本年3月25日,大阪拘置所及び福岡拘置所において死刑確定者各1名に対する死刑が執行された。
政府は,世論調査で国民の約8割が死刑制度を支持していることなどを理由に,死刑執行を続けている。
しかし,死刑制度の実態については国民にほとんど情報が与えられていない上,死刑に関する政府の世論調査に対しては,選択肢の設定が適切でなく,調査結果の評価も恣意的で粗雑であるとの指摘もなされている。より詳細な調査・分析では,死刑廃止について国民の合意が得られる可能性も示唆されており,死刑執行を停止して,国家が人の生命を奪うことについて,思考停止に陥ることなく,まず全社会的な議論を始めることが何より重要であるといわなければならない。
 日本弁護士連合会は,昨年12月9日,岩城光英法務大臣に対し,「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行を停止するとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出して,死刑制度とその運用に関する情報を公開し,死刑制度に関する世界の情勢について調査の上,調査結果と国民的議論に基づき,今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと,そのような議論が尽くされるまでの間,全ての死刑の執行を停止することなどを求めていた。にもかかわらず,漫然と死刑執行が繰り返される現状は,極めて遺憾であるというほかない。
 国連総会は,2014年12月18日,全ての死刑存置国に対し,「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議を過去最多の117か国の賛成で採択している。また,我が国に対しては,国連拷問禁止委員会や国連人権理事会,国際人権(自由権)規約委員会から,死刑廃止に向けた様々な勧告がなされており,2014年7月23日にも,国際人権(自由権)規約委員会が,日本政府に対し,死刑廃止を十分に考慮することなどを勧告している。
 当会は,改めて,今回の死刑執行に強く抗議するとともに,死刑の執行を停止し,死刑に関する情報を広く国民に公開した上で,死刑制度の廃止についての全社会的議論を開始するよう重ねて強く求めるものである。
2016年(平成28年)4月12日
神奈川県弁護士会 会長 三浦 修

会長声明・決議・意見書(2015年度)
ttp://www.kanaben.or.jp/profile/gaiyou/statement/2015/index.html
安全保障関連法の施行に抗議するとともにその廃止を求める会長談話
2016年03月31日更新
本日をもって,いわゆる安全保障関連法が施行されました。
 私は,これらの法案が衆議院を通過したときにも,参議院で採決が強行され法律として成立したときにも,「暴挙」という強い言葉で非難いたしました。その気持ちは,本日も全く同じです。
 安全保障関連法の内容は,日本が武力攻撃を受けていないにもかかわらず,他国に対する武力を認める集団的自衛権の行使を認めたことに加え,後方支援や武器使用の拡大等により自衛隊が海外において武力の行使に至る危険性を高めるものとなっています。これらの点で,安保法は,憲法9条に違反しており,憲法に拘束される政府が閣議によりこの法案を決定したこと,同じく憲法に拘束される国会議員により構成された国会が立法化したことはいずれも立憲主義に根本から違反します。
 安全保障関連法が成立後も,憲法学者を含め多くの人びとが,法律の廃止を訴えました。報道によれば520万筆以上の署名を集めた運動もあるそうです。日本弁護士連合会も昨年12月25日から各地の弁護士会を通じて,憲法違反の安保法の適用・運用に反対し,その廃止を強く求める署名活動を始め,現在も署名活動を続けています。
 本日,安全保障関連法が施行に至ったこと,それを阻止出来なかったことは極めて残念なことです。
しかし,私たちは,これまでの間、当会が多くの平和を愛する市民とともに活動を続けて来たことを力に、今後は、本法律の廃止に向けて、あらゆる取り組みを強化し続けて行くことを表明します。
2016(平成28)年3月29日
横浜弁護士会 会長 竹森 裕子

ヘイトスピーチを許さず、差別禁止基本法の制定を求める会長声明
2016年03月11日更新
 近年、外国籍住民の集住地区を含む地域の繁華街や観光客が多数訪れる場所などで、しばしば、人種的憎悪や人種的差別を扇動又は助長する言動(以下「ヘイトスピーチ」という)が行われている。
 神奈川県川崎市においても、昨年11月8日に「反日汚鮮の酷い川崎発の【日本浄化デモ】を行います」と告知され、集合場所の公園で「川崎に住むごみ、ウジ虫、ダニを駆除するデモを行うことになりました」と宣言されたデモが行われている。2016年1月31日にも同種デモが繰り返され、その回数は2013年5月以来12回に及んでいる。
ヘイトスピーチは、対象とされた外国籍住民の個人の尊厳(憲法13条)や法の下の平等(憲法14条)などの基本的人権を著しく侵害するばかりか、社会に誤った認識と偏見を広め、憎悪や差別や暴力などを助長するものであって、人種差別撤廃条約はこれを明確に禁じている。
この点、国連自由権規約委員会は、日本政府に対し、2014年7月24日に採択された総括所見において、差別、敵意又は暴力の煽動となる、人種的優越又は憎悪を唱道する全ての宣伝を禁止するべきと述べ、人種差別的な攻撃を防止し、また、加害者を徹底的に捜査・訴追・処罰するため、全ての必要な措置を講ずるよう勧告し、さらに、国連人種差別撤廃条約委員会は2014年8月29日に採択された総括所見において、人種差別を禁止する包括的な特別法を制定することなどを勧告した。
もとより、表現の自由の重要性は言うまでもないが、他者の人権を侵害し、差別と憎悪を扇動又は助長する言論は、表現の自由の濫用であって、許されないことは当然である。
 京都朝鮮学校襲撃事件について、京都地裁は、人種差別撤廃条約上の「人種差別」に当たるとして、高額の損害賠償及び同校付近での街宣行為の差し止めを認め、大阪高裁も、最高裁もこの判断を維持した。また、2015年12月には法務省人権擁護局が勧告を発し、2016年1月には大阪市がヘイトスピーチの対処に関する条例を制定した。
 神奈川県においては、外国籍県民の県政参加を促進するために外国籍県民かながわ会議を設置するなど多文化共生に取り組んでおり、また、神奈川県川崎市においては、外国籍住民との共生を求めて長きにわたり学校教育、社会教育の場で研鑽が積まれ、外国籍住民の公務就任についての検討と実践も積み重ねてきた。
 私たちは、基本的人権の擁護と社会的正義の実現を使命とする弁護士として、ここに、ヘイトスピーチを決して許さないことを明らかにするとともに、国に対して、人種的差別禁止の理念並びに国及び地方自治体が人種的差別撤廃に向けた施策を実施するに当たっての基本的枠組みを定める基本法を制定することを求める。
2016年(平成28年)3月10日
横浜弁護士会 会長 竹森 裕子

「国家緊急権」の創設に反対する会長声明
2016年03月11日更新
自由民主党は、今年夏の参院選の選挙公約に憲法改正を掲げることを明言した。同党は、東日本大震災時の政府の対応が不十分だったことなどを理由として、憲法を改正し、「国家緊急権」を創設しようとしており、2012年4月に公表された自民党憲法改正草案には、緊急事態の宣言として「国家緊急権」が明記されている。
 国家緊急権とは、戦争や内乱、大災害などの非常事態において、国家がその存立を維持するために、憲法の定める人権保障と権力分立を一時的に停止するという非常措置をとる権限をいうが、日本国憲法においては、大日本帝国憲法下、「国家緊急権」が濫用され、人権が不当に侵害された過去への反省から、あえて「国家緊急権」の規定を設けていない。
そもそも、フランス人権宣言で「権利の保障と権力の分立が定められていない社会は憲法を持つものではない」と定められているように、権利の保障と権力の分立は、立憲主義の根幹をなす。これらを一時的にとはいえ停止する「国家緊急権」は常に立憲的な憲法秩序を破壊する危険性をはらんでいる。
 実際、自民党憲法改正草案に定められている「国家緊急権」については以下のような問題がある。例えば、緊急事態の宣言を発することができるのは、「外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他法律で定める緊急事態」とされており、その範囲は極めて広く、緊急事態の期間に制限もない。また、内閣は法律と同等の効力を有する政令を制定でき、これには事後に国会の承認を必要とするが、承認を得られない場合に効力を失う旨の規定がない。さらに政令で規定できる対象に限定がなく、あらゆる人権を制限することも可能である。
また、「国家緊急権」の創設を主張する理由として災害対策が強調されているが、日本の災害法制はすでに十分整備されている。たとえば、大規模災害が発生し国に重要な影響を及ぼすような場合、内閣総理大臣は災害緊急事態を布告し、内閣は「緊急政令」を制定し、生活必需品等の授受の制限、価格統制、債務の支払いの延期等を決定できる(災害対策基本法)。また、内閣総理大臣は、地方公共団体の長等に必要な指示もでき(大規模地震対策特別措置法)、防衛大臣も災害に際して自衛隊の部隊等を派遣することもできる(自衛隊法)。さらに都道府県知事の強制権(災害救助法)や市町村長の強制権(災害対策基本法)など、私人の権利を制限する権限も認められている。災害対策ということでは、諸外国に見られるような「国家緊急権」の内容は、わが国では法律で規定されており、対応が可能である。東日本大震災において、政府の初動対応が不十分であったと評価されているが、それは、法制度に問題があったからではなく、事前の対策が不足し、法制度を十分に活用できなかったためである。
したがって、災害対策を理由とする「国家緊急権」の創設には理由がなく、むしろ、非常事態という口実で濫用される恐れが強く、回復しがたい重大な人権侵害の可能性も高いことから、憲法改正により、「国家緊急権」を創設することに強く反対する。
2016年(平成28年)3月10日
横浜弁護士会 会長 竹森 裕子

司法修習生に対する給付型の経済的支援を求める会長声明
2016年01月20日更新
当会では,日弁連とともに司法修習生に対する給付型の経済的支援(修習手当)の創設に向けて活動を続けているところであるが,同活動に対して多くの,そして全国の国会議員から賛同のメッセージが寄せられている。そして,先日,この賛同メッセージの総数が,衆参両院の議員数の合計である717名の過半数である359通を超えた。まずはメッセージをお寄せいただいた国会議員の皆様に感謝を申し上げる。
こうした賛同の声が増えているということは司法修習生への経済的支援の必要性に対する理解が広まってきているものということができる。
そもそも,司法制度は,社会に法の支配を行き渡らせ,市民の権利を実現するための社会的インフラであることから,国はかかる制度を担う法曹になろうとする司法修習生を公費をもって養成するべきである。こうした理念の下,わが国では,終戦直後から司法修習生に対し給与が支払われてきた(給費制)。しかし,2011年11月に給費制は廃止され,修習期間中に費用が必要な修習生に対しては,修習資金を貸与する制度(貸与制)に変更された。今日の修習生の中には,この修習資金の負債に加え,大学や法科大学院における奨学金の債務を負っている者も多くいる。日弁連が一昨年8月に実施したアンケート調査結果では,奨学金・貸与金の債務総額が400万円以上の65期・66期会員が約46%にものぼるなど,法曹としてのスタート時点で極めて多額の債務を抱える者も少なくない。
 法曹を目指す者は,年々減少の一途をたどっており,今後の法曹の質について懸念が生じているが,上記のような重い経済的負担が法曹志望者激減の一因となっていることが指摘されているところである。実際,経済的理由から司法試験に合格しながら司法修習生になることをあきらめた例などが報告されており,重い経済的負担が修習生さらには法曹を志望する者に躊躇を覚えさせる原因となっていることは明らかであろう。
こうした事態を重く受け止め,法曹に広く有為の人材を募り,法曹志望者が経済的理由によって法曹への道を断念する事態が生ずることのないよう,また,司法修習生が安心して修習に専念できる環境を整えるため,司法修習生に対する給付型の経済的支援(修習手当)の創設が早急に実施されるべきである。
 昨年6月30日,政府の法曹養成制度改革推進会議が決定した「法曹養成制度改革の更なる推進について」には,「法務省は,最高裁判所等との連携・協力の下,司法修習の実態,司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況,司法制度 全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ,司法修習生に対する経済的支援のあり方を検討するものとする。」との一節が盛り込まれた。これは,政府においても,司法修習生に対する経済的支援の充実を図る必要性を認めたものと評価することができる。法務省,最高裁判所等の関係各機関は,有為な人材がただ経済的な理由によって法曹をあきらめることのない,希望の持てる制度とするという観点から,司法修習生に対する給付型の経済的支援の実現について,直ちに前向きかつ具体的な検討を開始すべきである。
 当会は,司法修習生への給付型の経済的支援(修習手当)の創設について,かくも多数の国会議員が賛同していること,また,政府においても上記のような決定がなされていることを踏まえ,国会に対し,給付型の経済支援(修習手当)の創設を内容とする裁判所法の改正を求めるものである。
2016(平成28)年1月20日
横浜弁護士会      会長 竹森 裕子

夫婦同氏の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所判決を受けて家族法における差別的規定の改正を求める会長談話
2015年12月17日更新
本日、最高裁判所大法廷(寺田逸郎裁判長)は、女性のみに6か月の再婚禁止期間を定める民法第733条について、立法不作為の違法は認めないものの「100日を超える制限は過剰な制約」として、同条は憲法に違反していると判示した。これに対し、夫婦同氏を強制する民法第750条については、同法廷は、「通称使用が認められている」等として、同条は憲法に違反しておらず、それを放置してきた立法不作為は違法と評価されるには至っていないと判示した。
 民法第733条にかかる判断は、当会のこれまでの主張(2010年3月17日付け会長声明)と基本的には合致するものであり、妥当なものと高く評価する。しかし、民法第750条にかかる判断は、誤ったものであり、不当である。
 民法第750条が定める夫婦同氏強制は、憲法第13条が保障する氏名権、同第13条及び同第24条第2項が保障する個人の尊厳、同第24条第1項及び同第13条が保障する婚姻の自由、同第14条1項及び同第24条第2項が保障する平等権,さらには,女性差別撤廃条約第16条第1項(b)の規定が保障する「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」及び同項(g)の規定が保障する「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)」に違反する。
この点,法制審議会は、すでに1996年に「民法の一部を改正する法律案要綱」を総会で決定し、女性の再婚禁止期間の短縮及び選択的夫婦別氏制度の導入を答申した。2008年,国連の自由権規約委員会は民法第733条について、また、2009年には,女性差別撤廃委員会が民法第750条について、それぞれ日本に対し改正するよう勧告を行ってきた。
しかし,法制審議会の答申から19年、女性差別撤廃条約の批准から30年が経つにもかかわらず、国会は、上記各規定の改正を放置してきたものである。
 当会は、国に対し、今回の最高裁判所判決を受けて,民法第733条を速やかに改正することを強く求めるとともに,これらの規定とともに法制審議会にて改正が答申され国連の各委員会から勧告がなされている民法第750条についてもあわせて改正することを求める。
2015(平成27)年12月16日
横浜弁護士会 会長 竹森 裕子

安全保障関連法案の採決強行に抗議する会長談話
2015年09月24日更新
本日未明、参議院本会議で、平和安全法制整備法案及び国際平和支援法案の採決が強行され、本法律が成立しました。
 私は、これらの法案が衆議院を通過したとき、このことを「暴挙」と呼びましたが、今回再度の「暴挙」に強い怒りを覚えます。
これまで、当会でも、再三、これらの法案の違憲性について訴え、多くの市民とともに、集会やパレード、シンポジウムや街頭宣伝活動などを繰り返してきました。また、元最高裁判所判事や歴代の内閣法制局長官などを始めとする多くの法曹関係者や学者、研究者らも、憲法違反であるとの声を挙げ、廃案を求めてきました。学生や子どもを持つ母親らも、全国津々浦々でさまざまな形で反対の声を挙げています。各種の世論調査でも、今国会での法案成立に反対する人が一貫して多数を占めている状況です。
これらの声を無視し、法案を成立させたことは、憲法の恒久平和主義に反するのみならず、立憲民主主義にも違反し、戦後民主主義社会における類を見ない「暴挙」であって、到底許されることではありません。
また、9月16日には横浜市で地方公聴会が開かれましたが、そこでの意見や議論が全く審議に反映されることもなく、ただちに採決に踏み切ったことも当会として看過することはできません。
今般法案の採決にあたり改めて強い抗議の意思を表明します。
憲法違反の法律は、いうまでもなく、無効です。
私たちはこれらの法律が成立したことについて、黙っているわけにはいきません。
これまでの間、当会が多くの平和を愛する市民とともに活動を続けて来たことを力に、今後は、本法律の廃止に向けて、あらゆる取り組みを強化し続けて行くことを表明します。
2015(平成27)年9月19日
横浜弁護士会 会長 竹森 裕子

安全保障関連法案の衆議院通過に抗議する会長談話
2015年07月16日更新
本日午後、衆議院本会議で、安全保障関連法案が、与党の賛成多数で可決され、衆議院を通過しました。私は、これまで繰り返して集団的自衛権行使容認に反対してきた横浜弁護士会の会長として、この「暴挙」を断じて許すことは出来ません。
 今回通過した武力攻撃事態法、自衛隊法など既存10法を一括して改正する「平和安全法制整備法案」及び新設の「国際平和支援法案」は、集団的自衛権の行使が可能であるとの先の解釈改憲に基づき、それをさらに発展、具体化しようとするものです。そこには、集団的自衛権行使の歯止めがありません。また、後方支援活動の名の下に、地球上どこへでも他国の戦争に協力するため自衛隊の派遣が可能になっています。PKO法を改正し、国連決議がなくても、要請があれば治安維持活動や駆けつけ警護活動を行うことを可能にしています。さらには自衛隊法改正案では、わが国の防衛に資する活動に現に従事している軍隊との連携を平時から強化し、その軍隊の防護のためには自衛隊に武器使用を認めようとしています。
 衆議院憲法審査会に与野党から参考人として招じられた3名の憲法学者がそろって「安全保障関連法案は憲法違反」と断じ、大多数の憲法学者も違憲と指摘しているとおり、憲法9条によって集団的自衛権の行使は禁じられているというのが、国会の長年の審議の中で積み重ねられ、歴代内閣で確立されてきた公権的解釈です。それを時の政府が閣議決定だけで変更し、その変更に基づく法案を与党の多数だけで押しきるということは、立憲主義に反し許されるものではありません。衆議院における政府説明では、集団的自衛権行使の基準も限界も立法事実も全くあいまいなままでしたし、多くの論点も議論がつくされないままです。国民の声を代表すべき国会として役割が果たされないまま、多数の国民が政府の説明は不十分だと感じています。安倍首相自身、「国民の理解が進んでいる状況ではない」と認めているのです。こうした状況の中で、与党の多数で法案の衆議院通過を図った今回の政府与党の態度を、私は「暴挙」と呼ばざるを得ないと思います。
 個人的な経験になりますが、私の母は、第2次世界大戦中、広島市中心部の学校に通っていました。被爆を免れたのは全くの偶然です。私にとって、弁護士を志した原点は平和への思いです。戦争は最大の基本的人権侵害であることは、歴史が証明しています。私は今回の安全保障関連法案の衆議院通過に強く抗議します。
あわせて、参議院が良識の府としての存在意義を発揮してこれらの法案を否決することを求めるとともに、衆議院による再可決を許さないために、平和を愛し安全保障関連法案に反対するすべての人びとと幅広く手を携えて行きたいと思っています。以上
2015(平成27)年7月16日
横浜弁護士会      会長 竹森 裕子

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆるカジノ法案)の再度の廃案を求める会長声明
2015年07月09日更新
1. 平成27年4月28日,超党派の「国際観光産業振興議員連盟」(IR議連,通称・カジノ議連)に所属する議員によって,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆるカジノ法案)が,第189回通常国会に提出された。同法案は,現行刑法上,賭博罪として禁止されているカジノを合法化し,民間賭博を解禁しようとするもので,先の国会で廃案となった法案にわずかな修正を加え,議員立法として再提出されたものである。
2. 当会は,平成26年10月9日付の意見書にて,第1にわが国には既に成人人口の約4.8パーセントもの病的ギャンブラーがおり,米国・香港・韓国と比較しても著しく高い水準となっているとの調査報告がある中,他のギャンブルと比較してもギャンブル依存に陥る危険が高いと言われているスロットマシーンやテーブルゲームを解禁しようとするものであること,第2に仮にカジノ営業を行う事業主体から暴力団等の反社会勢力を排除するための制度を整備したとしても,暴力団等による事業主体に対する出資や従業員の送り込み,事業主体からの委託先・下請への参入等による間接的な資金獲得は可能であり,カジノが暴力団等の資金源となるおそれがあること,第3に同法案の目的である経済効果についても,短期間のプラス面のみが喧伝され,病的ギャンブラーが生み出されること等による生産性の喪失や社会コストの増加については何ら検討されていないことを理由に,先の国会に提出されたカジノ法案の廃案を求めたところである。
3. しかるに,先の国会で廃案になって以降,カジノ法案で解禁しようとしているスロットマシーンやテーブルゲームの危険性に関する調査・研究や,病的ギャンブラーが生み出されること等による社会的コストの検証は,全く行われていない。このような調査・研究や検証等を行わず,民間企業による賭博事業の合法化というきわめて重要な事柄を安易に立法してしまうことは,ギャンブル依存の問題をさらに深刻化させ,社会的コストを増大させるほか,暴力団等の介入や治安の悪化等を招きかねず,危険であると言わざるを得ない。一旦,カジノが合法化され,民間業者が参入すれば,仮に赤字になった場合,次々に射幸性の高いギャンブルを導入して売上を確保することになりかねず,さらに深刻なギャンブル依存症が蔓延するという負の循環にも陥りかねない。
4. なお,今回の法案では,日本に居住する者の入場について,悪影響防止の観点から必要な措置を講ずるとの項目が付け加えられているが,暴力団等の反社会的勢力を助長しかねない等の問題点は何ら解決されておらず,また,外国人旅客相手であれば利益のために悪影響が及んでよいとも考えられない。現実的に,日本に居住する者のみ入場規制を行うことが可能かどうかも,極めて疑問である。加えて,仮にこのような入場規制を行ったとしても,多数の公営ギャンブルが経営上の理由で廃止されている中,カジノの経営が困難になれば,カジノを存続させるため入場規制が緩和・廃止され,暴力団等の反社会的勢力が直接的・間接的に関与してくるであろうことは容易に予想できることである。
5. 現在,行うべきことは,病的ギャンブラーやギャンブル依存からの脱却に関する調査・研究や,カジノを導入した場合,暴力団等の反社会勢力の資金源となることやカジノ事業者がマネー・ロンダリングに利用される危険性がある等のマイナス面の検証であり,まず立法ありきという姿勢はきわめて危険である。
よって,当会は,今国会に提出されたカジノ法案を再度廃案にするよう,強く求めるものである。
2015(平成27)年7月8日
横浜弁護士会 会長 竹森 裕子

死刑執行に抗議する会長声明
2015年07月09日更新
本年6月25日,名古屋拘置所において死刑確定者1名に対する死刑が執行された。
 今回,死刑を執行された死刑確定者は,いわゆる闇サイト殺人事件と呼ばれる事件の加害者であるが,同事件は,第一審の死刑判決後,自ら控訴を取り下げ,その後,弁護人が取下げ時の精神状態に問題があったとして取下げの効力を裁判で争ったという事件であり,さらに,3名の加害者のうち第一審で死刑を言い渡された1名の共犯者は控訴審で無期懲役に減刑され,それが確定した。本件死刑確定者も,もし控訴審で十分な審理がなされていれば,無期懲役に減刑された可能性もあった。また,再審請求の準備も開始されており,被害者が1名であったことからしても,死刑について極めて慎重な判断が求められる事案であったというほかない。多数の死刑確定者の中からどのような経緯で本件死刑確定者を選んで死刑執行したのか,その理由は一切明らかにされていない。
 死刑は,人の生命を奪うという究極的な国家権力の行使であり,それを許すか否かは,国民が十分な情報と知識を有する状況で,真剣な議論を尽くした上で選択すべき事柄である。 取り分け,昨年3月27日に再審開始決定が出た袴田事件や,死刑執行後の再審請求が続く飯塚事件が象徴的に示すように,刑事裁判が誤判の危険性を常にはらむものである以上,死刑制度の存置は無辜の者が処刑されるという取り返しのつかない結果を招く可能性を抱え続けることになるという事実から目を背けてはならない。
 日本弁護士連合会は,昨年11月11日,上川陽子法務大臣に対し,「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑執行の停止をするとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出して,死刑制度とその運用に関する情報を公開し,死刑制度に関する世界の情勢について調査の上,調査結果と国民的議論に基づき,今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと,そのような議論が尽くされるまでの間,全ての死刑の執行を停止することを求めていた。にもかかわらず,何らの情報公開も調査も議論もなされないまま今回の死刑執行がなされたのは,極めて遺憾であるというほかない。
 国連総会は,昨年12月に,全ての死刑存置国に対し,死刑廃止を視野に死刑の執行を停止するよう求める決議を過去最多の117か国の賛成で採択している。 また,我が国に対しては,国連人権理事会や国連拷問禁止委員会,国際人権(自由権)規約委員会から,死刑廃止に向けた様々な勧告がなされており,昨年7月23日にも,国際人権(自由権)規約委員会が,日本政府に対し,死刑の廃止を十分に考慮することなどを勧告したばかりである。
 当会は,改めて,今回の死刑執行に強く抗議するとともに,死刑の執行を停止し,死刑に関する情報を広く国民に公開した上で,死刑制度の廃止についての全社会的議論を開始するよう重ねて強く求めるものである。
2015(平成27)年7月8日
横浜弁護士会 会長 竹森 裕子

少年法の「成人」年齢引下げに反対する会長声明
2015年06月15日更新
自由民主党は,平成27年4月14日,少年法の適用年齢を現行の20歳未満から引き下げることなどについて検討する「成年年齢に関する特命委員会」を開き,少年法改正についての方向性をまとめる考えを示すと報じられた。上記特命委員会の開催は,選挙権年齢を18歳以上に引き下げる公職選挙法改正案の附則第11条で「少年法その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を講ずるものとする」とされていることを受けての動きである。
しかしながら,法律の適用年齢は,それぞれの制度目的や保護法益等に照らし,個別具体的に慎重に検討すべきである。民法が20歳を成年と規定する一方、養子縁組能力や遺言能力を15歳で認めていること,喫煙や飲酒は20歳を区分年齢としているが、風俗営業法上の規制に当たるパチンコ店への入店は18歳から認められていることなどが示すように,適用年齢は、法律の立法趣旨や目的ごとに、子ども・若者の最善の利益と犯罪予防などの社会全体の利益を実現する観点から、個別具体的に検討すべきである。現行少年法がその適用年齢を20歳未満としたのは,犯罪傾向の分析の結果,20歳くらいまでは心身の発達が十分でなく,環境その他の外部的条件の影響を受けやすいと考えられたことから,20歳未満の者には刑罰ではなく保護処分により教化を図る方が適切であると判断したことによるのであり,現在においてもこれを変更すべき合理的な理由は存在しない。
 少年法は,人格の形成途上で精神的に未熟な若者が非行を行った際,刑罰を科すのではなく,性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うことにより,若者の健全育成を図り,再犯を防止するという目的がある。かかる立法趣旨を受け,家庭裁判所や少年鑑別所は,人間行動科学に基づく調査と審理を行い,非行事実の認定だけでなく,非行の原因と背景を解明し,性格の矯正や生活環境の調整を行い,少年の立ち直りのために最善な処遇を行っている。このような保護・教育的な処遇が刑罰より再犯防止に効果を上げていることは,アメリカにおける政策評価研究結果や法務省の研究結果等からも裏付けられている。我が国における近時の調査でも,少年院出院者が5年以内に再び少年院又は刑務所に収容される割合は20%台前半であり,刑務所を出所した若年者が5年以内に再び刑務所に収容される割合が30%台半ばであるのに比べて相当程度低いという結果が出ているところである。少年被疑者のうち少年法の適用年齢が18歳未満に引き下げられた場合にその適用対象から外れる18歳から19歳の少年は40%以上を占めているのであるが,半数に迫る数の少年を保護・教育的な処遇から外し,刑罰をもって臨むのが社会にとって有益であるとは到底思われない。
これに対し,「少年の凶悪事件が増加している現状において,現行の少年法では甘い」という指摘がなされることがある。しかしながら,このような指摘は,そもそもこの30年間で少年の凶悪犯罪が半分以下に減少しているという事実に反している上,少年の内面に対して働きかけを続ける少年院などの処遇は決して「甘い」ものではないし,また,現行少年法下でも,重大事件を犯した少年の多くは検察官に送致されて裁判員裁判により刑罰に処されているのが現状であることも正しく踏まえていない。
さらに,刑罰より保護を優先する考えは,我が国の青少年の自立・成熟が遅れていることを踏まえた,30歳未満を対象とする青少年政策や,40歳未満までを対象とする「子ども・若者育成支援推進法」の趣旨にも通じるものがある。
 非行を犯した少年が,二度と非行や犯罪を行わず,健全な大人へと成長することこそ,少年にとっても社会にとっても望ましいことである。その一翼を現行少年法が担っているにもかかわらず,選挙「権」を得たから大人と同じように「責任」をとるべきだ,と安易に少年法の適用年齢を引き下げることは,逆に,教育的効果を減退させて再非行や再犯を増加させるなど,少年にとっても社会にとっても不利益な結果となりかねず,断じてあってはならない。
 公職選挙法改正案の附則第11条も,少年法の適用年齢の引下げを当然の前提とするものではなく,選挙犯罪について改正後の公職選挙法と少年法の調整を図る必要があることなどを考慮した規定であると理解すべきである。
当会は,選挙権年齢の引下げを安易に少年法の適用年齢の引下げに結びつける動きに強く反対するものである。
2015(平成27)年6月11日
横浜弁護士会 会長 竹森 裕子

「捜査・公判協力型協議・合意制度」の導入と通信傍受法の改正に反対する会長声明
2015年06月12日更新
1 政府は,3月13日,「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)を国会に提出した。本法案は,法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」の「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果」に基づくものである。
 本法案の内容は,取調べの可視化(録音・録画)を一部義務付ける点や,検察官手持ち証拠の一覧表の交付を義務付ける点など,不十分ながら評価できる点がある一方で,「捜査・公判協力型協議・合意制度」の新規導入や通信傍受法の適用犯罪の拡大という見過ごすことのできない重大な問題がある。
2 「捜査・公判協力型協議・合意制度」は,被疑者・被告人が,他人の詐欺,恐喝,横領,汚職などの犯罪や銃器・薬物犯罪などの特定犯罪について供述する見返りとして,検察官が公訴を提起しないことや,特定の求刑を行うことなどを約束する制度である。この合意は,弁護人が被疑者・被告人と共に連署した「合意内容書面」を作成して行うこととされている。しかしながら,この制度には,次のような問題がある。
 第1に,捜査機関が被疑者を利益誘導して虚偽の自白や証言を獲得する手段として利用されるおそれがあり,無実の第三者についての「引っ張り込み」の危険や,共犯者への責任のなすりつけといった事態,新たなえん罪を生み出す危険性が認められる。
 第2に,犯罪を実行した者が共犯者の犯罪立証のために捜査機関に協力することによって,自らの刑事責任を免れ,あるいは軽減されることを制度的に認めるものであり,裁判の公平や司法の廉潔性という刑事司法の存立基盤たる原則に抵触するおそれが大きい。
 第3に,弁護人の連署が必要とされているが,捜査段階での証拠開示制度もない中で,弁護人は,依頼者の利益擁護とえん罪の防止という相反する要請の板挟みになることが必至となるだけでなく,弁護人自身が,他人の犯罪立証に制度的に組み込まれ,場合によってはえん罪の作出に加担させられるという立場に置かれることを意味し,刑事弁護そのものの変質につながりかねない危険が生じる。
 本法案の「捜査・公判協力型協議・合意制度」は,対象犯罪の範囲も相当広く,また,取調べの可視化や証拠開示制度が十分でない状況においては上記の危険性は取り分け高くなるのであるから,制度の拙速な導入は絶対に避けるべきである。
3 本法案に含まれている「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」(以下「通信傍受法」という。)の改正案では,通信傍受の対象犯罪が大幅に拡大されている。
 通信傍受法は,制定時には,通信の秘密を犯す憲法違反の法案であるとして,日弁連を始め多くの団体が反対をして,国民の運動も広がった。国会では,政府案を与党が修正して,対象犯罪を組織性の高さから通信傍受の必要性が特に高いと考えられた薬物犯罪,銃器犯罪,組織的な殺人,集団密航の4類型に限定されたのである。
このように現行通信傍受法は,通信の秘密の不可侵,プライバシー保護の観点から抑制的に定められたものであり,最高裁判所も「重大な犯罪に係る被疑事件」(平成11年12月16日判決)であることから憲法上許されるとしている。
それを改正案では,窃盗,強盗,詐欺,恐喝,逮捕,監禁,傷害等の一般犯罪にまで広く対象犯罪を拡大しようとするものである。これらの犯罪はいわゆる組織犯罪とは限らない上,捜査段階では,これらの嫌疑さえあれば通信傍受を実施できる可能性が出てくるのであり,国民の通信の秘密やプライバシーが侵害されるおそれは格段に高くなるというほかない。
このような対象犯罪の安易な拡大は,先の最高裁判例に照らしても,憲法上許されないものというべきである。
4 以上のとおり,本法案中「捜査・公判協力型協議・合意制度」の導入や通信傍受法の改正案には看過できない問題があり,当会としては,本法案のうち上記2点については強く反対するものである。
2015(平成27)年6月11日
横浜弁護士会 会長 竹森 裕子

当会会員の逮捕について
2015年05月26日更新
本日,当会会員である楠元和貴弁護士が逮捕されました。
 同会員については依頼者から預かった金員を返還しないとの理由で平成27年1月15日に当会として懲戒手続に付し,同年1月30日同様の被害が発生しないよう懲戒処分に先立って公表をいたしました。また,同会員の行為は業務上横領罪にあたると判断されたことから,会として警察に告発し,同年4月30日に正式に受理されました。
 業務上横領は弁護士と依頼者との間の信頼関係を破壊する重大な犯罪であり,当会会員がそのような犯罪で逮捕されたということについては極めて遺憾です。一日も早い全容の解明を望みます。
なお,当会の懲戒手続につきましては刑事手続とは別個に進行しております。懲戒手続については最初に綱紀委員会で調査し,懲戒委員会の事案の審査を求めるとされたものが懲戒委員会の審理に付され処分が決まります。同会員については同年5月13日付で綱紀委員会において懲戒委員会に事案の審査を求めると議決されています。
 当会はより一層強い危機感をもって会員の職業倫理の向上を図るとともに,会員の苦情情報の早期把握等に努め,再発防止に全力を尽くす所存です。
2015(平成27)年5月26日
横浜弁護士会 会長 竹森 裕子