2359 ら兵庫県弁護士会④⑤⑥

死刑執行に関する会長声明
2015年(平成27年)12月22日
兵庫県弁護士会
会 長 幸 寺 覚
当会は,12月18日に行われた死刑執行に対し強く抗議し,死刑執行の停止を求めるとともに,死刑制度に関する情報の公開及び有識者会議のすみやかな設置等を行い,国民の議論の場を設けることを求める。
2015年(平成27年)12月18日,2名に対する死刑が執行された。本年6月25日に1名に死刑が執行されて以来であり,今回の執行を含め,現政権下では計8回で14名に死刑が執行されたことになる。また,この度の死刑執行には,裁判員裁判にて死刑を言い渡された死刑囚の執行としては初めてとなるものが含まれている。
 死刑制度については,その存置に賛成する立場,反対する立場の双方から,様々な論拠が示されてきたが,死刑が,人間存在の根元である生命そのものを奪い去る冷厳な刑罰であることは疑いのない事実である。しかるに,死刑を決する刑事裁判は誤判のおそれを完全には払拭することができず,現に,戦後の日本で発生した死刑えん罪事件は,司法当局が認めただけでも4件が存在しており,2014年(平成26年)3月27日には,袴田事件について,再審を開始し,拘置の執行を停止する決定がなされ,改めてえん罪による誤った死刑執行のおそれが現実にあったことが示された。万一,無実の人に死刑を執行してしまえば,国家による取返しのつかない人権侵害となる。
また,国際社会に目を向けると,第二次世界大戦後,死刑の廃止や執行停止を行う国が増加し,既に,世界の3分の2以上の国々が,死刑を既に廃止ないし停止している。隣国である韓国においても1998年以降死刑の執行を停止しており,事実上の廃止国とされている。国連総会は,2012年12月,「えん罪で死刑が執行されれば取り返しがつかない。死刑が犯罪抑止効果を持つとの確実な証拠もない。」と指摘し,死刑廃止を視野に執行を停止するよう求める決議案を採択したほか,国際人権(自由権)規約委員会は,日本に対し,「世論調査の結果にかかわらず,死刑制度の廃止を前向きに検討」すべきとの勧告を行った事実がある。
 以上の事実に加え,我が国は裁判員制度において国民の司法参加が実現し,裁判員は現に死刑を含む量刑判断に参加していることからも,死刑制度に関する情報を広く国民に公開し,死刑制度に関する情報の周知と議論を開始することは,喫緊の課題である。当会も,2013年(平成25年)2月に日本弁護士連合会が法務大臣宛てに要請したとおり,死刑制度の廃止について全社会的議論を開始すべく,存置,廃止,中立の各立場から人選された有識者会議の設置を要請する。多くの国民が死刑制度の存在を支持しているという死刑存続の根拠も,必要な情報を提供しないままの世論調査の結果と言わざるを得ず,情報公開については,2010年(平成22年)に東京拘置所の刑場が公開されて以来十分な進展がなく密行主義が続いており,また,死刑に代わる無期刑や終身刑の議論も十分なされていないのが現状である。
 死刑判決に関与する裁判員が,その後の人生に大きな負担となる可能性が存するということにも鑑み,死刑制度の在り方について広く冷静に議論を進めるため,死刑の執行は,速やかに停止されなければならない。刑事訴訟法において,刑罰の執行が一般に検察官の指揮のみをもって行いうるのに対し,死刑の執行については法務大臣の命令によるものとされている(刑事訴訟法475条1項)趣旨は,死刑執行の可否については法務大臣の高度な人道的,政治的判断を許容するためであり,死刑に関する全社会的議論がなされている間は死刑の執行を停止することは許容されていると考えられる。また,同条2項は,死刑執行の命令につき「判決確定の日から六箇月以内にこれをしなければならない。」と定めているが,これは訓示規定であり(東京地方裁判所平成10年3月20日判決),執行停止の妨げにはならない。
 当会においては,国民的議論が十分尽くされるまで死刑の執行を停止することを求める旨の声明を,過去繰り返し公表してきたところ,現政権が再び死刑の執行を行ったことは極めて遺憾であり,強く抗議する。当会は,重ねて,死刑制度に関する情報の公開,有識者会議の設置及び死刑執行の速やかな停止を強く求めるものである。以 上

戦後70年を迎える憲法記念日に当たっての会長声明
2015年(平成27年)5月3日
兵庫県弁護士会会長幸寺覚
5月3日,憲法が施行されてから68年を迎えるが,今年は戦後70年となる節目の年でもある。
 日本国憲法は,権力を憲法によって拘束するという立憲主義のもとで,主権が国民に存すること,すべての国民は基本的人権の享有を妨げられないこと,そして,この憲法が保障する基本的人権が,侵すことのできない永久不可侵の権利であることを高らかに謳いあげた。また,日本国憲法は,先の大戦の反省のもと,国民主権,基本的人権の保障とともに平和主義を基本原理として採用した。
 日本国憲法の採用する平和主義は,一切の戦争を放棄し,そのために戦力の不保持と交戦権の否認を宣言するという徹底した平和主義であるが,それは戦争が基本的人権の保障にとって最大の脅威であり,戦争をしない平和な国でなければ基本的人権の保障を万全ならしめることはできないとの認識を明らかにしたもので,先の大戦における尊い命の犠牲と引き替えに獲得した,世界に誇り得る,先駆的な意義を有しているものである。かかる国民主権,基本的人権の保障,平和主義を基本原理とする日本国憲法は,施行後,どの時代においても,多くの国民の支持のもとで,私たちの暮らしの中に浸透し,戦後の我が国の復興と繁栄の礎となってきた。
しかし,今日,国民主権については,選挙権の行使に関わる投票価値の不平等の問題が生じている。すなわち,投票価値の不平等を理由として選挙を違憲無効とする高等裁判所の判断,及び違憲状態とする最高裁判所の判断が出たにもかかわらず,抜本改正を放置したまま総選挙が実施され,改めて,高等裁判所から違憲・違憲状態の判断が全国で相次ぐ事態が起きている。
 基本的人権についても,東日本大震災から4年が経過したにもかかわらず,いまだ22万人を超える避難者が生活再建を果たしておらず,人権の回復がほど遠い現状にある。福島第一原発事故の被害はなお深刻な様相を呈しているし,被害者の生命・健康の不安は全く解消されていないにもかかわらず,十分な施策は講じられていない。この兵庫県においても,20 年前の阪神・淡路大震災の被災者の中には,いまだ安定した住居を確保できないなど,依然として生存権が脅かされている方々が存在する。
さらに,平和主義についても,集団的自衛権の行使については歴代内閣が一貫して憲法9条により否定されていると解釈し,それを前提として国会はこれまでの立法活動を展開してきたにもかかわらず,閣議決定という,主権者である国民や国会を蚊帳の外に置いた方法で容認され,法案整備が進められるなど,平和国家としての日本のあり方を変質せしめるだけではなく,立憲主義をもないがしろにした事態が生じている。
このように日本国憲法の定める国民主権,基本的人権の保障,平和主義という3つの基本原理は,今日,必ずしも揺るぎないものとして確立しているとは言い難い状況にはあるが,主権者たる国民の誰もが等しく個人として尊重される平和な社会は,日本国憲法の理念を実践することによって実現されるものである。当会としても,弁護士法が,「弁護士は,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする」と規定していることを改めて胸に刻み,引き続き,立憲主義の堅持と日本国憲法の定める基本原理が活かされた社会の実現のために尽力していきたい。以上

少年審判決定書の全文公表に関する会長声明
2015年(平成27年)5月1日
兵庫県弁護士会
会長幸寺覚
<声明の趣旨>
 当会は,株式会社文藝春秋に対し,同社が発行する雑誌「文藝春秋(平成27年5月号)」において,平成9年に起きた神戸連続児童殺傷事件の少年審判決定書全文を公表したことについて,強く抗議する。
<声明の理由>
1 平成27年4月10日,株式会社文藝春秋(以下「文藝春秋社」という。)は,同年5月号の雑誌「文藝春秋」(以下「掲載誌」という。)において,元少年の実名等及び被害者の実名については黒塗り等がされているものの,平成9年に起きた神戸連続児童殺傷事件の少年審判決定書の全文を公表した(以下「本件公表」という。)。これに対し,神戸家庭裁判所は,同日,決定書を提供した元裁判官と文藝春秋社に対し,守秘義務に違反するなどとして抗議文を送付した。また,公益社団法人ひょうご被害者支援センターも,同月15日,元裁判官と文藝春秋社に対し,申入書を送付して強く抗議し,掲載誌の回収を求めている。
2 本件公表については,元裁判官による守秘義務違反という司法制度の根幹に関わる重大な問題が指摘されるべきであることはもちろんであるが,当会としては,さらに次の2点において極めて問題があると考える。
(1)被害者遺族に対し深刻な二次被害を及ぼす危険があること
本件公表によって,被害者遺族に対し再び好奇の視線が向けられる懸念がある。現に,報道によれば,被害者遺族のうちの一人が「雑誌に掲載されることで,不特定多数の人に興味本位で見られることになり,大変辛い。」旨のコメントをしている。掲載誌の当該記事本文を見ても,被害者遺族の心情に対する配慮をうかがうことができる部分は読み取れない。本件公表により,被害者遺族の名誉・プライバシー権も著しく侵害され,被害者遺族に対し深刻な二次被害を及ぼしている。
 (2)元少年のプライバシーを侵害し,その更生を阻害する危険があること少年審判が非公開とされ(少年法第22条第2項),いわゆる推知報道が禁止される(同法第61条)など,法が少年のプライバシーを尊重しているのは,過ちを犯した少年も,いずれは社会に復帰し,社会の一員としての役割を担う事を想定しているからでもある。過ちを犯した少年が,不当な公表やラベリングによって害されることなく,更生への意欲を高めることができれば,おのずと再非行は回避され,新たな被害の発生を防止することもできると考えられているのである。
この事件については,神戸家庭裁判所が平成9年に決定書の一部を決定要旨として公表しているところ,当時付添人団が決定要旨の一部について「少年の更生を害する」として公表に反対する意見書を提出した経緯がある。決定書の一部の公表にあたっても問題が指摘されていたのであるから,決定書の全文を公表するということになれば,元少年の更生に対してより深刻な弊害が心配されるところである。
3 なお,報道の起点となった情報提供の目的について,元裁判官は,少年の匿名性の保護は必要であるとしながらも,なぜ事件を起こしたのかという情報を明らかにする必要があると指摘した,とされている。
しかし,いかなる理由があるとしても,文藝春秋社は,被害者遺族や裁判所等に対して十分な事前協議をすることなく,唐突に決定書の全文公開に踏み切ったものである。本件公表にかかる決定書全文のうち,相当部分は既に決定要旨として公表済みの内容であるとしても,文藝春秋社の本件公表は,手段の点において明らかに不適切であったと言わざるを得ない。もとより,報道の自由は国民の知る権利を実質的に支える重要な権利であり,犯罪報道の持つ意義は軽視されるべきではないが,文藝春秋社は,本件公表によって生じる危険や問題をあまりにも軽視していると言わざるを得ず,当会としては,これを看過できないため,強く抗議するものである。以上

2 0 1 5 年3 月1 3 日
通信傍受法の対象犯罪拡大に反対する
1 8 弁護士会会長共同声明
埼玉弁護士会 会長 大倉 浩
千葉県弁護士会 会長 蒲田 孝代
栃木県弁護士会 会長 田中 真
静岡県弁護士会 会長 小長谷 保
兵庫県弁護士会 会長 武本夕香子
滋賀弁護士会 会長 近藤 公人
岐阜県弁護士会 会長 仲松 正人
金沢弁護士会 会長 飯森 和彦
岡山弁護士会 会長 佐々木浩史
鳥取県弁護士会 会長 佐野 泰弘
熊本県弁護士会 会長 内田 光也
沖縄弁護士会 会長 島袋 秀勝
仙台弁護士会 会長 齋藤 拓生
福島県弁護士会 会長 笠間 善裕
山形県弁護士会 会長 峯田 典明
岩手弁護士会 会長 桝田 裕之
青森県弁護士会 会長 源新 明
愛媛弁護士会 会長 田口 光伸
2 0 1 4 ( 平成2 6 ) 年9 月1 8 日, 法制審議会は,「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果」を採択し,法務大臣に答申した( 以下,本答申という)が,その内容として,従来,通信傍受法の対象犯罪が暴力団関連犯罪の① 銃器犯罪,② 薬物犯罪,③ 集団密航,④ 組織的殺人の4 類型に限定されていたものを,傷害,詐欺,恐喝,窃盗などを含む一般犯罪にまで大幅に拡大することを提言している。また,これまで市民のプライバシーを侵害する危険のある通信傍受法が抑制的に運用される歯止めとなっていた通信事業者の常時立会制度も撤廃されることとされる。
このたび本答申に基づく通信傍受法の改正法案が国会に上程される予定だが,私たちは,以下の理由から,本答申に基づく通信傍受法の改正に反対するとともに,国会における審議においても,慎重な審議がなされることを求めるものである。
 重大な犯罪に限定されず通信傍受法施行前に検証許可状により実施された電話傍受の適法性につき判断した最高裁判所平成1 1 年1 2 月1 6 日第三小法廷決定は,「重大な犯罪に係る被疑事件」であることを電話傍受の適法性の要素としていたが,詐欺,恐喝,窃盗については,いずれも財産犯であり,必ずしも「重大な犯罪」とはいいがたい。詐欺罪にも様々な詐欺がありうるのであって,組織的な詐欺グループである振り込め詐欺以外にも広く通信傍受が実施されるおそれがあり,漫然と詐欺罪を対象犯罪とすることは許されない。振り込め詐欺や窃盗団等を想定するのであれば,実体法として,それらを捕捉し得る新たな構成要件を創設した上で対象犯罪にするべきである。しかも,組織犯罪処罰法には組織的詐欺罪( 同法3 条1 3 号)や組織的恐喝罪( 同1 4 号)が規定されているのであるから,それを対象犯罪に追加することで対象犯罪を必要最小限度に限定することも可能である。
また,本答申の基礎とされた「新時代の刑事司法制度特別部会」がまとめた「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」は,「通信傍受は, 犯罪を解明するに当たっての極めて有効な手法となり得ることから,対象犯罪を拡大して,振り込め詐欺や組織窃盗など,通信傍受の必要性・有用性が高い犯罪をも含むものとすることについて, 具体的な検討を行う」としている。これは,前記最高裁決定が指摘する犯罪の「重大性」を前提とせず,対象犯罪拡大を検討したものであるが,捜査機関にとっての「必要性」「有用性」を基準とすれば,その拡大には歯止めがない結果となる。日本弁護士連合会が反対している共謀罪や特定秘密保護法違反などにも,捜査機関にとって犯罪の共謀を立証するのに「必要かつ有用」として,通信傍受の適用の拡大が企図される危険も大きい。常時立会制度の撤廃は捜査権の濫用を招く通信傍受法が定める通信事業者による常時立会は,傍受記録の改ざんの防止と通信傍受の濫用的な実施を防止するという2 つの機能を果たしていた。傍受対象通信を通信事業者等の施設において暗号化した上で送信し,これを捜査機関の施設において自動記録等の機能を有する専用装置で受信して復号化することにより, 傍受を実施するという答申が提言する技術的措置は,通信傍受記録の改ざんの防止という点は確保できるかもしれないが,無関係通信の傍受など通信傍受の濫用的な実施を防止するという点が確保されるとは考えられない。
 従来の通信傍受法の運用において,この常時立会という手続があることで,「他の方法によっては,犯人を特定し,又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるとき」という補充性の要件が実務的に担保されてきたものである。しかし,答申のような手続の合理化・効率化がなされれば,捜査機関は令状さえ取得すれば簡単に傍受が可能となるので,安易に傍受捜査に依存することになることは必至であり,補充性要件による規制が実質的に緩和されることとなり, 濫用の危険は増加する。
 盗聴社会の到来を許さないここで通信傍受法の対象犯罪の拡大に歯止めをかけなければ,過去再三廃案とされたにもかかわらず,未だ法案提出がなされようとしている「共謀罪」とあわせて, 盗聴社会の到来を招く危険がある。捜査機関による通信傍受の拡大は,単に刑事司法の領域に止まる問題ではなく,国家による市民社会の監視につながり,市民社会そのものの存立を脅かす問題である。
よって,私たちは,本答申にもとづく通信傍受法の改正に反対するとともに,国会における審議においても,慎重な審議がなされることを求めるものである。

特定秘密保護法の施行に反対する会長声明
2014年(平成26年)12月10日
兵庫県弁護士会
会長武本夕香子
1 2014年(平成26年)12月10日、特定秘密保護法(以下「本法」という。)が施行された。当会は、これまでに、本法が、① 政府の保有情報は本来主権者たる国民に帰属するものであるとの基本的視点を欠いていること、② 秘密指定の対象が広範かつ無限定であり「特定秘密」の恣意的な指定がなされる恐れが強いこと、③ 現行法制度で情報保全はすでに十分になされており、法制定の必要性・合理性が存在しないこと、④ 処罰範囲があいまいで、報道機関による取材への萎縮効果を生むのみならず、国民の知る権利を侵害すること、⑤適性評価制度はプライバシーの侵害の危険性があることなどの理由から、本法の成立前から反対し、成立以降も同法の廃止を訴えてきた。
2 昨年12月の本法成立・公布後、政府は、本年10月14日に「特定秘密の指定及び解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準」及び関係政令の閣議決定に及んでいる。しかし、この運用基準等は8月末に実施したパブリックコメントにおいて寄せられた、独立した本来の意味での第三者機関の設置を求める多数の国民の意見を殆ど反映していない。また、有識者から構成される「情報保全諮問会議」も3回開催された程度であり、十分に検討されておらず、拙速のそしりを免れない。特定秘密の指定、解除など運用の適正を確保するとされていた「第三者的機関」も、内閣官房に設置される「保全監視委員会」、内閣府に設置される「独立公文書管理監」、「情報保全監察室」、及び、内閣総理大臣が委嘱する者で構成され、内閣官房が庶務を行う「情報保全諮問会議」と、そのいずれもが内閣総理大臣の影響下にある機関であって、「第三者的機関」と呼べる性格のものではないし、また、各議院8名の議員によって構成され、秘密会として開催される「情報監視審査会」についても、特定秘密へのアクセスや改善の強制権限は認められていない。よって、我々弁護士会が求めていた独立して特定秘密の指定等を調査する権限を有する本来の意味での第三者機関は存在しないこととなった。
3 本法は、これまで当会が指摘した問題点は何ら解決されていない欠陥法であり、本法が施行されれば、政府の保有情報が際限なく隠蔽され、国民の知る権利や両議院の国政調査権が大きく抑制されるおそれが否定できず、民主主義の前提である政府の情報を利用した言論・出版等の表現の自由が損なわれることは必至である。また、同法の適性評価制度は、特定秘密の情報保有資格調査を理由に、情報保有対象者以外の広範な個人に対し、秘密裏に日常生活における調査を可能にする点で、プライバシー権を損なう懸念が払拭できない。
4 よって、当会は、特定秘密保護法の施行に反対するとともに、同法の廃止を求める次第である。以上

裁判所関連予算の大幅増額を求める会長声明
第1 声明の趣旨
 国民が真に利用しやすい司法制度を実現することにより、司法が社会正義を実現し、人権、特に多数決支配では救済されない社会的・政治的・経済的弱者の人権擁護機能等司法の強化を実現するため、最高裁判所においては、大幅な裁判所関連予算の増額を要求すべきであり、政府あるいは財務省においては、それを受けて大幅な裁判所関連予算の増額を認めるべきである。
第2 声明の理由
1 周知のとおり、一連の司法制度改革を実現するため、平成11年に司法制度改革審議会(以下「審議会」という)が内閣下に設置され、平成13年には「21世紀の日本を支える司法制度」と題した意見書(以下「意見書」という)が発表された。
 意見書では、①国民の期待に応える司法制度、すなわち、国民にとって、より利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法とするため、国民の司法へのアクセスを拡充するとともに、より公正で、適正かつ迅速な審理を行い、実効的な事件の解決を可能とする制度を構築すること(制度的基盤の整備)、②人的基盤の拡充、③国民の司法参加を三つの柱として、各般の施策を講じることにより、我が国の司法がその役割を十全に果たすことができるようにし、もって自由かつ公正な社会の形成に資することを目標として行われるべきであると提言された。さらに、平成15年には裁判の迅速化に関する法律(以下「迅速化法」という)が制定され、国は、裁判の迅速化を推進するため必要な施策を策定し、及び実施する責務を有するとし、政府は、その施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならないとされた。
 司法が紛争解決機能を強化することで人権の護り手として十分に機能するためには、財政的な裏付けが不可欠であることは論を俟たない。
2 ところが、現時点において、意見書が出されてから13年、迅速化法が制定されてから11年が経過し、この間、裁判所関連予算は、平成18年度までは労働審判や裁判員裁判など新たな制度の導入準備もあって徐々に増加したものの、それ以降は7年連続の減少となっており、平成25年度に至っては2989億円と減少し、意見書が出された平成13年度の裁判所関連予算をも大きく下回り、平成7年度並みの予算となっている。
さらに、平成26年度予算は、形の上では前年度より122億円多い3111億円となっているものの、この中には、平成25年度限りで給与特例減額が終了することに伴う人件費増171億円及び平成26年4月の消費税率引上げに伴う負担が含まれているため、実質的には平成25年度より減額されていることになる。
このような事態は、意見書や迅速化法の目的に逆行するものであり、司法制度改革も裁判の迅速化も、理念だけで予算の裏付けのない絵に描いた餅と化してしまいかねない。
3 意見書は、国民の期待に応える司法制度の構築として、民事裁判の充実・迅速化、家庭裁判所・簡易裁判所の機能の充実等を求めており、そのためには人的基盤の拡充が不可欠であるところ、現在に至るまで、裁判所職員の数は絶対的に不足したままである。
 平成26年度においても、裁判官32人、書記官29人の新規増員を行っているものの、逆に合理化による減員もあったため、裁判所全体の定員としては2万5740人となり、前年度と比較すると4人減となっている。
また、意見書では、国民の期待に応える司法制度の構築のために家庭裁判所機能を充実させるべきとしたが、年々増加する家事事件に現在の家庭裁判所の人的規模では対応できず、参与員関与の拡充等により対処せざるを得ない状況となっており、国民の期待に応える司法制度とするためには何よりも地家裁支部の充実が求められるところ、未だに全国で裁判官の常駐していない地方裁判所支部は46か所も存在する。
4 平成18年には、意見書が目指す国民の期待に応える司法制度の構築や国民の司法参加を具体化するための方策として労働審判制度がスタートし、平成21年には裁判員裁判が開始された。当然、これらに伴う新たな財政的負担が発生しているが、前記のとおり裁判所関連予算全体の額は減少し続けているのである。このことは、ただでさえ不足していた従前の司法財政が新たな制度の創設によってさらに圧迫されていることを意味しており、このように裁判所関連予算の全体額が減少し続ける中で意見書が目指した司法制度改革を実現しようとすれば、本来の司法機能そのものの減退を招くことになりかねないという自己矛盾を抱えているのである。
 労働審判制度については、労働事件の簡易迅速な解決を目的として創設された制度であり、年々利用件数は増加しているものの、現在支部で実施されているのは東京地裁の立川支部・福岡地裁の小倉支部のみである。しかし、国民の期待に応える司法制度を構築するためには、裁判へのアクセス拡充として、支部における労働審判実施の必要性は非常に大きく、他の支部でも実施を求める声が上がっている。兵庫県においても、特に姫路支部・尼崎支部は管内に100万人を超える人口を抱えており、多数の企業も所在していることから、労働審判の実施が強く求められている。また、両支部では労働審判員の確保や労働審判を扱う弁護士の体制は整っており、裁判所における予算的な問題が解決されれば、実施に向けて大きく前進することになる。
5 平成25年7月に出された裁判の迅速化に係る検証に関する報告書では、国内実情調査では社会内に多数の潜在的紛争が存在している実情がうかがわれたとし、少子高齢化等の社会の変容、紛争の法的解決に対する意識等の変化、法曹人口の増加等による法的アクセスの容易化といった諸要因の影響により、紛争の量的側面に着目すれば、社会内に潜在化していた紛争が法的紛争として顕在化し、法的紛争が増加することが見込まれ、紛争の質的側面に着目すれば、法的紛争がより複雑化・多様化し、事案によっては先鋭化する可能性があるとの指摘がなされている。
そして、裁判所においては、質の高い判断を迅速に提供するためにも、また紛争増加が見込まれる中、将来の事件動向に対応していくためにも、運用改善の努力や適切な基盤整備が必要であると指摘している。
ところが、司法制度改革以後、弁護士の数のみ激増したものの、前述した裁判官の数のみならず、検察官の数もあまり増えておらず、迅速化法の実現には不十分であると言わざるを得ない。
 意見書も迅速化法も、国民の期待に応える司法制度の実現という目的は同じであり、そのために種々の具体的な方策を掲げているのであるが、それらの方策を真の意味で実現するには、それに対応できるだけの財政面での措置が不可欠である。
6 更には、法曹三者になる前段階の司法修習の給費制が廃止され、貸与制に移行したことで、意見書に記載された司法基盤を支える人的インフラ整備は逆に著しく減退していると言え、意見書に記載された司法の人的基盤整備実現のための裁判所関連予算の大幅な増加は必要不可欠である。
7 以上のとおり、司法制度改革審議会の設置や迅速化法の制定が、国民に対する単なるパフォーマンスで終わることのないよう、真に国民の期待に応えられる司法制度を実現するために、裁判所関連予算の大幅な増額を求めるものである。以上
2014年(平成26年)11月21日
兵庫県弁護士会会長 武 本 夕 香 子

2014(平成26)年10月14日
法曹養成制度改革推進会議 御中
法曹養成制度改革顧問会議 御中
法曹養成制度改革推進室 御中
申 入 書
埼玉弁護士会会長 大 倉 浩(公印省略)
千葉県弁護士会会長 蒲 田 孝 代(公印省略)
栃木県弁護士会会長 田 中 真(公印省略)
群馬弁護士会会長 足 立 進(公印省略)
山梨県弁護士会会長 小 野 正 毅(公印省略)
長野県弁護士会会長 田 下 佳 代(公印省略)
新潟県弁護士会会長 小 泉 一 樹(公印省略)
兵庫県弁護士会会長 武 本 夕香子(公印省略)
愛知県弁護士会会長 花 井 増 實(公印省略)
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山口県弁護士会会長 松 村 和 明(公印省略)
岡山弁護士会会長 佐々木 浩 史(公印省略)
鳥取県弁護士会会長 佐 野 泰 弘(公印省略)
佐賀県弁護士会会長 牟 田 清 敬(公印省略)
大分県弁護士会会長 岡 村 邦 彦(公印省略)
鹿児島県弁護士会会長 堂 免 修(公印省略)
仙台弁護士会会長 齋 藤 拓 生(公印省略)
福島県弁護士会会長 笠 間 善 裕(公印省略)
山形県弁護士会会長 峯 田 典 明(公印省略)
青森県弁護士会会長 源 新 明(公印省略)
札幌弁護士会会長 田 村 智 幸(公印省略)

第1 申入れの趣旨
2015(平成27)年司法試験における司法試験合格者数の更なる減員を求める。
第2 申入れの理由
1 政府は、法曹養成制度関係閣僚会議の決定において、2013(平成25)年7月16日、法曹養成制度検討会議の取りまとめを受け、今後の法曹人口の在り方について、法曹人口に関する調査を行い、その結果を2年以内に公表するとした。
2 これに対し、埼玉、千葉県、栃木県、群馬、長野県、兵庫県、山口県、佐賀県、大分県、札幌の10弁護士会は、2013(平成25)年12月2日付連名の申入書において、司法修習生の就職難の拡大、訴訟事件の減少、新人弁護士の研鑽(OJT)機会不足等の事実を指摘した上で、法曹資格取得後の就職や開業に見通しが立たないことが、法科大学院入学志望者の激減に繋がっており、このような状況が今後も続く限り、将来法曹を担うべき有為な人材がいなくなり、司法が機能しなくなる可能性も否定できないとして、年間司法試験合格者数の大幅減員への早急な対応を求めた。
また、上記10弁護士会に山梨県、愛知県、仙台、山形県、秋田を加えた15弁護士会は、本年3月19日付連名の申入書において、法曹養成制度検討会議と法曹養成制度関係閣僚会議が「司法試験合格者数を3000人程度とする数値目標は現実性を欠く」としたのは現状の2000人の司法試験合格者数で様々な弊害が生じているからであり対処に一刻の猶予も許されないこと、既に2012(平成24)年に総務省による政策評価がなされており改めて大がかりな調査を行うまでもないことなどから、2014(平成26)年の司法試験から直ちに司法試験合格者数の大幅減少に踏み切ることを求めた。
なお、日弁連は、2012(平成24)年3月15日の時点で、「法曹人口政策に関する提言」において、「司法試験合格者数をまず1500人にまで減員し、更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要、問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべきである。」とまとめているところである。
3 その後、自由民主党政務調査会司法制度調査会・法曹養成制度小委員会合同会議は、本年4月9日付「法曹人口・司法試験合格者数に関する緊急提言」において、「在るべき法曹人口について政府は内閣官房法曹養成制度改革推進室が行う法曹人口調査の結果を待って判断するとしているが、この調査には今後1年以上も時間がかかり、調査結果を待ってさらに議論を重ねるということでは遅きに失することが明白である。このような徒に時を重ねる対応では、わが国の法曹養成制度及び司法制度は早晩危機に瀕すと言っても過言ではない。」との認識の下、「まずは平成28年までに1500人程度を目指すべき」と結論付けた。
また、公明党法曹養成に関するプロジェクトチームも、同日付「法曹養成に関する緊急提案」において、「次世代の法曹界への希望や熱意を冷まし、有為な人材を遠ざけ、法曹志望者の裾野を狭めている」と現状を憂慮し、「現在の体制のまま、漫然と司法試験合格者の数を維持、ないし増加することは、残念ながら、国民の権利を守るどころか、むしろこれを損なうおそれすらあると言わざるをえない。」とした上で、「合格者数を2000人程度とする現状で、こうした事態が生じていることに鑑みれば、司法試験の年間合格者数を、まずは1800人程度とし、その後、今後の内閣官房法曹養成制度改革推進室の法曹人口調査検討を踏まえつつ、1500人程度を想定する必要もあるのではないかと思料する。」と結論付けた。
 前述のとおり、総務省は既に2012(平成24)年4月に政策評価を発表しており、そこでは、「現状では2,000人規模の増員ペース(年間合格者数)を吸収する需要は顕在化しておらず、現在の需要規模と増員ペースの下、弁護士の供給過多となり、新人弁護士の就職難や即独、ノキ弁が発生・増加し、OJT不足による質の低下などの課題が指摘される状況となっている。」として早期減員の必要性を示唆する勧告を行っている。
このように、司法試験合格者数を早急に減少させる必要があることは、弁護士会のみならず、政党、省庁においても十分認識されるに至っている。
4 本年の司法試験合格者は1810人であり、昨年の2049人から一定程度減少したものの、各方面から指摘されている供給過多による弊害の解消にはまだ不十分であり、引き続いて更に減員を進めることが不可欠である。
よって、2015(平成27)年司法試験における司法試験合格者数の更なる減員を求める。以 上

死刑執行に関する会長声明
2014年(平成26年)8月29日,2名に対する死刑が執行された。本年6月26日に2名に死刑が執行されて以来であり,今回の執行を含め,現政権下では計6回で11名に死刑が執行されたことになる。当会においては,国民的議論が十分尽くされるまで死刑の執行を停止することを求める旨の声明を,過去繰り返し公表してきたところ,現政権がこのように性急とも言える頻度で死刑の執行を継続していることは極めて遺憾であり,強く抗議する。
 本年3月27日には,袴田事件について,再審を開始し,拘置の執行を停止する決定がなされ,絶対にあってはならないえん罪による誤った死刑執行のおそれが現実にあったことが改めて示された。
 国際社会においては,世界の3分の2以上の国々が,死刑を既に廃止ないし停止しており,隣国である韓国においても1998年以降死刑の執行を停止しており,事実上の廃止国とされている。また国連総会は,2012年12月,「冤罪で死刑が執行されれば取り返しがつかない。死刑が犯罪抑止効果を持つとの確実な証拠もない。」と指摘し,死刑廃止を視野に執行を停止するよう求める決議案を採択している。国際人権(自由権)規約委員会からも,日本は,「世論調査の結果にかかわらず,死刑制度の廃止を前向きに検討」すべきとの勧告を受けており,死刑執行は「日本が抱える最大の人権問題の一つ」である。死刑制度に関する情報を広く国民に公開し,死刑廃止についての議論を呼びかけることは国の責務である。裁判員制度において,裁判員は現に死刑を含む量刑判断に参加していることからも,死刑制度に関する情報の周知と議論の開始は,喫緊の課題である。当会としても,2013年2月に日本弁護士連合会が法務大臣宛てに要請したとおり,死刑制度の廃止について全社会的議論を開始すべく,存置,廃止,中立の各立場から人選された有識者会議の設置を要請する。
そして,死刑制度の在り方について広く冷静に議論を進めるため,死刑の執行は,速やかに停止されなければならない。刑事訴訟法において,刑罰の執行が一般に検察官の指揮のみをもって行いうるのに対し,死刑の執行については法務大臣の命令によるものとされている(同法475条1項)趣旨は,死刑執行の可否については法務大臣の高度な人道的,政治的判断を許容するためであり,死刑に関する全社会的議論の間に死刑の執行を停止することは許容されている。また,同条2項は,死刑執行の命令につき「判決確定の日から六箇月以内にこれをしなければならない。」と定めているが,これは訓示規定であり,執行停止の妨げにはならない。
 以上,当会は,死刑制度に関する情報の公開,有識者会議の設置及び死刑執行の速やかな停止を,改めて強く求める。
2014年(平成26年)8月29日
兵庫県弁護士会会 長 武 本 夕香子

改めて特定秘密保護法の廃止を求める会長声明
1 去る平成26年6月20日第186回国会(常会)での参議院本会議において「情報監視審査会の設置等に係る国会法一部改正案」「議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律の一部改正案」「国会職員法の一部改正法案」(以下では、「情報監視審査会設置法」とも言う。)が賛成多数で可決され、成立した。
 同法は、昨年の特定秘密保護法の成立を受け、日本国憲法及びこれに基づく国会法等の精神に則り、「国会に対する特定秘密の提供」を規定した同法附則10条に基づき、与党より提案された議員立法であり、行政機関の長が行う特定秘密の指定又は解除及び適性評価の実施の審査、及び、各議院からの特定秘密の提供要求に対する判断の適否等を審査することを目的とした常設の情報監視審査会(以下、「審査会」と言う。)を各議院に設置するものである。
2 しかしながら、審査会は、各院情報監視審査会規程によれば、各8名の議員のみで構成され、会派ごとの議席数の割合に応じて委員が割り当てられることとなっており、審査会の決議が多数決によった場合、内閣を構成する与党会派の意向が強く反映される結果となり、そもそも国会による内閣に対する監視機能が十分に発揮されるとは考えにくい。
3 また、審査会が、特定秘密の提供を求めても、行政機関の長は、特定秘密の提出に応じない理由を疎明し、審査会が理由を受諾すれば提供を拒むことができる。さらに、審査会が行政機関の長の理由を受諾しない場合も、審査会は、更にその特定秘密の提出が我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがある旨の内閣の声明を要求できるにすぎず、特定秘密の提供をさせることはできない。結局、行政機関の長の特定秘密を提出しない理由に合理性がないと審査会が判断しても、特定秘密の提供を行政機関の長は拒否できる仕組みである。
また、審査会が行う特定秘密の指定・解除を始めとする運用改善等の勧告も、政機関の長に対して、なんらの強制力も有さない。
さらに、内部者からの通報により特定秘密の指定・解除の妥当性を検証する内部通報者制度が存在せず、内閣が、行政機関の長等とともに、特定秘密の指定権を濫用した場合、内部告発により、審査会が認知することも期待できない。
4 仮に、審査会に対し、特定秘密が提供されても、特定秘密の利用は審査会委員各議院が議決で定める者、その事務を行う職員に限定されている。
 審査会の事務を行う職員は適性評価を受け、秘密漏えい等の罰則が適用されることなど秘密厳守が何よりも優先され、審査会委員である議員自身も、当該特定秘密の内容の当否を判断するために他の議員や専門家の意見を確認することもできない。
そもそも、両議院の国政調査権は、証人の出頭及び証言並びに記録の提出等を通じ、行政権等の保有する情報を開示させ、内閣を始めとする行政権に対する監督・統制機能を確保するとともに、国民の知る権利に奉仕する機能を有しており(憲法62条)、これまで両議院の委員会若しくは合同審査会(以下、「委員会等」と言う。)に付託する方法により、行使されてきた。そして、証人の宣誓及び証言中の撮影及び録音は、委員会等の許可を要するとされているが(議院証言法5条の3第1項)、国政調査権が、憲法上、両議院に付与されていること、及び、両議院の本会議が原則公開とされていることに鑑み(憲法57条1項)、これまで委員会等では、撮影及び録音が可及的に許可され、国政調査権の行使により、国民の知る権利に資する機能を担保していた。
しかし、各院情報監視審査会規程によれば、審査会は、常時、秘密会とされており、審査会の委員ら以外に特定秘密に関する情報が提供されることはない。また、委員以外の議員は、そもそも情報自体に接する機会すらないため、当該特秘密に関連する政府の政策決定の当否についてすら、国会内で自由かつ闊達に議論することができなくなり、かえって、政府に対する監視を職責とする両議院及び国会議員の権限が大きく抑制される。
5 当会は、特定秘密保護法が、① 政府の保有情報は本来主権者たる国民に帰属するものであるとの基本的視点を欠いていること、② 秘密指定の対象が広範かつ無限定であり「特定秘密」の恣意的な指定がなされる恐れが強いこと、③ 現行法制度で情報保全はすでに十分になされていること、④ 処罰範囲があいまいで、報道機関による取材への萎縮効果を生むこと、⑤ 適正評価制度はプライバシーの侵害の危険性があることなどの理由から、同法の成立前から反対し、成立以降も同法を廃止若しくは抜本的な改正を訴えている。
 当会の指摘する以上の問題点は、極めて多岐にわたり、かつ、国民の基本的人権にかかわる重大な問題を孕んでいる。今般、情報監視審査会設置法の審議を通じ、政府の約束していた「第三者的機関」の設置は、特定秘密保護法の有する問題点を何ら解決するものではないことも判明した。
よって、当会は、改めて、特定秘密保護法の廃止若しくは同法の抜本的な改正を求める次第である。
2014年(平成26年)6月25日
兵庫県弁護士会会長武本夕香子

集団的自衛権の行使容認に改めて反対する会長声明
1 現在、安倍晋三総理大臣は、他国に対する武力攻撃を防衛するため、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、武力を行使する国際法上の権利である集団的自衛権を行使することを可能とする政府解釈を閣議決定するとの意向を表明している。
 当会は、2013年11月13日、政府解釈の変更による集団的自衛権の行使容認に反対する声明を発表しているが、今般の発表を受け、改めて、以下の理由により反対する。
2 これまで政府は、戦後一貫して、憲法9条の下における自衛権の行使は、政府がいうところのいわゆる「個別的自衛権」に限定され、① 我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)があり、② これを排除するために他に適当な手段がない場合に、③ 自衛権の発動として行われた実力行使が必要最小限度に限って、許容されるものであるとしてきた。そして、1972年には、政府は、我が国が直接武力攻撃を受けていない場合にまで実力行使を認める集団的自衛権は、そもそも、上記①の要件を欠くとして、憲法上許されないとの解釈を表明し、現在まで踏襲してきた。
 以上の自衛権の行使に関する憲法解釈は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることがないようにすることを決意」(憲法前文)した日本国民が、根本的理念の1つとして恒久平和主義を内容とする日本国憲法を制定し、憲法9条において、戦争放棄(第1項)と戦力の不保持及び交戦権の否認(第2項)を規定していながらも、我が国の自衛のために必要最小限度の実力を行使する任務を遂行する自衛隊を保持しうる根拠として用いられ続けてきたものでもあった。
ところが、政府は、憲法解釈の変更にあたって、1972年の政府による憲法解釈を援用した上で、一定の場合に、他国に対する武力攻撃があった場合にも我が国の自衛隊による実力行使を容認するようである。
しかしながら、1972年の政府の憲法解釈は、「我が憲法の下で、武力行使を行うことが許されるのは、我が国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とする集団的自衛権の行使は、憲法上許されない」として、国際法上の権利である集団的自衛権の行使は、憲法9条により禁止されていると結論しているのであるから、政府の解釈変更が論理的整合性を欠くことは明らかである。
3 憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使を容認しようとする政府の行為は、憲法改正手続によらず、憲法9条を改変するに等しく、政府の行為のみで国家権力を制約する憲法規範の変更を許せば、政府の憲法解釈次第で、憲法に規定される基本的人権の内容は容易に変更されかねない。
 憲法とは、私たち市民が、国会議員や国務大臣、裁判官など国家権力を有する者らに遵守させることにより、国家権力を制限するための法であり(憲法99条)、国会の制定する法律、内閣の制定する政令等とは異なる。全ての人々が個人として尊重されるように、憲法が国家権力を制限して人権を保障する立憲主義を前提とした法体系は、我が国を始めとする多くの国家が共有している。そして、我が国の憲法は、日本国憲法を最高法規とし(憲法98条1項)、憲法規範を変更するための憲法改正手続(憲法96条)を置いている。我が国において国家権力を制約する憲法規範を変更する場合、必ず憲法改正手続を経なければならない。このため、我が国の憲政史上、憲法改正によることなく、政府の憲法解釈の変更によって、国家権力を制限する憲法規範を変容させ、制限されていた国家権力の行使を試みた例はなかったのである。
 仮に、「我が国を取り巻く安全保障環境」の変化が発生し、集団的自衛権の行使を制約する憲法規範を変更し、集団的自衛権を行使する必要が生じたのであれば、政府は、国民に対し、我が国の安全保障政策上、早期に憲法改正手続を経る必要がある事情を開陳し、全国民の代表である国会議員らによる憲法改正の発議を待つほかない。
4 今般、政府は、これまでの集団的自衛権の行使に関する憲法解釈の変更を行う意向を表明したが、集団的自衛権の行使のためには、現行の自衛隊法、周辺事態法、武力攻撃事態法、PKO協力法などの関連法の改定が必要である。しかしながら、集団的自衛権の行使を制約する日本国憲法の規範は憲法改正手続を経ない限り、変更されないから、改定された関連法は、最高法規である憲法に抵触し、ことごとく無効である(憲法98条1項)。
5 政府は、集団的自衛権の限定的行使が可能であるかのように説明する。しかし、集団的自衛権の行使は、我が国の相手国に対する武力の行使と評価され、常に、相手国との間で我が国が全面的な戦争となる可能性、及び、自衛隊員の殺傷のみならず、相手国が我が国の領土等を直接攻撃することにより市民に被害が及ぶ可能性を覚悟しなければならない。我が国としても、市民の安全確保のため、相手国に対し、我が国の領土等に対する攻撃を断念させる程度の武力行使は必要であり、そもそも集団的自衛権は限定的に行使できないものである。
 結局、集団的自衛権の行使は、国民の生命、身体、財産の甚大な被害を生じる可能性が高く、国民投票を予定する憲法改正手続を経ずに容認されるべきものではない。
6 以上の次第で、政府の憲法解釈の変更を行う閣議決定のみによって、日本国憲法が禁じる集団的自衛権の行使を試みようとする政府の行為は、我が国の立憲主義に抵触するものであるから、改めて強く反対する。当会は、今後、集団的自衛権の行使に向けた立法行為についても監視し、引き続き、市民に対し、集団的自衛権の本質をふまえた情報を発信し続ける所存である。
2014年(平成26年)6月20日
兵庫県弁護士会会長武本夕香子

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」に反対する会長声明
第1 趣旨
当会は、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」案について、反対の立場を表明し、同法案の廃案を求める。
第2 理由
1 国際観光産業振興議員連盟に所属する有志議員により「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」案(以下、「本法案」という。)が国会に提出され、今国会中にも審議入りする可能性があるとの報道がされている。
 同法案は、現行法上「賭博」として処罰の対象となるカジノについて、一定の条件のもとでの設置を許すための諸措置の推進を政府に義務づけるものである。
2 しかしながら、カジノが合法化される場合、暴力団の新たな資金源確保の機会を与え、マネーロンダリングに利用される可能性がある。また、風俗環境の悪化は避けられず、難治性の疾病であるギャンブル依存症の患者は増加し、カジノでの賭け金をめぐる犯罪や、暴力団らの縄張りをめぐる犯罪なども増加する恐れが高い。そして、本法案が予定しているカジノは、会議場、レクリエーション施設等と一体となった、いわゆる「統合型リゾート(IR)方式」であり、家族で出かける先に賭博場が存在するのであるから、青少年は幼いころから賭博に対する抵抗感を喪失したまま成長せざるをえず、青少年の健全育成に対する悪影響ははかり知れない。さらには、カジノでの賭け金を捻出するための借金が増えることも考えられ、成果をあげてきた多重債務者対策に水を差すことにもなりかねない。
そもそも、我が国の刑法が賭博を禁じているのは、「勤労その他正当な原因に因るのでなく、単なる偶然の事情に因り財物の獲得を僥倖せんと相争うがごときは、国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎を成す勤労の美風……を害するばかりでなく、甚だしきは暴行、脅迫、殺傷、強窃盗その他の副次的犯罪を誘発し又は国民経済の機能に重大な障害を与える恐れすらある」(最高裁判決昭和25年11月22日)からである。カジノを合法化する場合、こうした弊害を生じることがないか、具体的な対策によって弊害を除去できるのかといった点について、事前の、慎重かつ客観的な調査、検討が行われるべきである。にもかかわらず、本法案は、弊害除去のための具体的な対策を示すことさえしないまま、カジノを合法化するという結論を先決めしてしまっており、このことは、賭博罪の立法趣旨を大きく損なうものといわなければならない。
また、現在特別法において公認されているいわゆる公営ギャンブルと比較しても、民間企業の設置、運営にかかるカジノにおいて、公共の信頼を担保することは困難であるといわざるを得ない。
3 以上により、当会としては、本法案に断固反対し、その廃案を求めるものである。以上
2014年(平成26年)6月13日
兵庫県弁護士会会長武本夕香子

法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会「事務当局試案」のうち取調べの録音・録画に関する会長声明
1 2014年(平成26年)4月30日開催の法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」(以下「特別部会」という)第26回会議において、「事務当局試案」(以下「試案」という)が提示された。
この特別部会は、郵便不正事件など捜査機関の信頼性を大きく揺るがす事態の発生を受け、「取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しや、被疑者の取調べ状況を録音・録画の方法により記録する制度の導入など」について法務大臣から諮問を受けた部会である。
しかし、取調べの録音・録画について、試案の内容は、上記の諮問の趣旨に沿った内容とはなっておらず、日本弁護士連合会や当会が求めていたすべての事件についての例外なき被疑者取調べの可視化(全過程の録音・録画)からも程遠いものである。
2 まず試案は、①取調べの録音・録画の対象者を、身体拘束を受けている被疑者に限定している。
しかし、身体拘束前の被疑者に対する取調べにおいて虚偽自白が強要されるケースが多いことは、足利事件の菅家利和氏の例などからも明らかであり、身体拘束前の取調べを対象から除外する合理的理由はない。また参考人に対する取調べ、特に共犯者的参考人に対する取調べにおいて不適正な取調べがなされえん罪の原因となったことは郵便不正事件などからも明らかであり、参考人に対する取調べも録音・録画の対象とすべきである。
3 次に、試案は、②対象事件を裁判員制度裁判に限定するか(A案)、限定しないとしても裁判員制度裁判以外の事件については録音・録画を行う対象から警察官の取調べを除外し検察官の取調べに限定している(B案)。
しかし、まずA案についていえば、裁判員制度対象事件に限定する合理的理由はない。特別部会が設置される大きな契機となった郵便不正事件や虚偽自白が強要されたことが明らかとなったPC遠隔操作事件や志布志事件などの例をあげるまでもなく、裁判員制度対象事件以外でも虚偽自白を強要され、のちにえん罪であることが明らかとなった事例は枚挙にいとまがない。裁判員制度対象事件は全事件の3%以下にすぎず、それ以外の殆どの事件で、虚偽自白の強要によるえん罪の危険が残存するのである。
 次にB案についていえば、録音・録画の対象から警察官の取調べを除外し検察官の取調べに限定する合理的理由は全くない。警察官の取調べでこそ虚偽自白が強要され、この虚偽自白が検察官取調べにおいても維持されるという現実の取調べの実態が無視されている。警察官取調べこそが、あらゆる事件について可視化の対象とされなければならない。
4 さらに、試案は、③録音・録画の例外として
ア 機器の故障その他やむを得ない事情で記録をすることが困難なとき
イ 被疑者が記録を拒否したことその他の被疑者の言動により記録をすれば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき
ウ 被疑者の供述及びその状況が明らかにされた場合、被疑者もしくは親族に害を加え又はこれらの者を畏怖もしくは困惑させるおそれがあり、十分な供述をすることができないと認めるとき
エ 暴力団構成員の犯罪であるときを認める。
しかし、
ア 機器が故障した場合は代替機器を準備すべきであり
イ 警察官などの示唆等を受けて被疑者が記録を拒否する恐れもあり、また「十分な供述をすることができないと認める」主体が捜査官であることから恣意的運用の危険があり
ウ 被疑者、その親族への加害のおそれ、畏怖、困惑のおそれについては、要件があいまいでかつ認定主体が捜査官であることから恣意的運用の危険が高く、この除外事由によって制度そのものが骨抜きとされるおそれがあり
エ 暴力団構成員による犯罪については、被疑者の属性によって除外を認める点で不適切である。
このように試案が認める除外事由は恣意的運用の危険を否定できないのであり、除外事由を認めるとしても極めて限定的で、かつ、客観的な基準により事後的な検証が可能なものに限定されるべきである。
5 また試案は、④検察官が取調請求をした不利益な事実を承認する被告人の供述調書について、弁護人が異議を述べた場合には、検察官は任意性立証のため当該調書が作成された取調べの開始から終了までの記録媒体に限定して取調請求するものと規定し、これ以外に記録された録音・録画の媒体が開示される場面を明示していない。
しかしこれでは、検察官が証拠取調請求した供述調書が作成された取調べ以外の取調べの状況について検証できる保障がなく、例えば供述調書を取らない取調べにおいて虚偽自白を強要しその状況を利用して再度改めて取調べが行われ引き続き虚偽自白がなされる場合が想定されるなど、取調請求された供述調書における供述の任意性について十分な検証をできない。また公判前整理手続に付されない事件においては、検察官が証拠請求した供述調書が作成された取調べ以外の取調べについては、取調べの状況のみならず録音・録画の義務が果たされたか否かすら検証できない点で、録音・録画の義務付けが尻抜けになるおそれがある。
6 以上①~④の通り、試案は、前記諮問の趣旨である「取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査」の見直しとはいえず、日本弁護士連合会や当会が求めていたすべての事件についての例外なき被疑者取調べの可視化(全過程の録音・録画)からも程遠い。そして、試案は、今後録音・録画の対象を拡大する具体的日程、工程に一切触れておらず、このまま法制化されれば、対象範囲の見直しがなされないおそれが高い。そして、将来にわたり対象範囲の拡大に向けた見直しがなされないとすれば、却ってえん罪が多発することとなりかねないことが危惧される。
 当会は、例外なき被疑者取調べの可視化(全過程の録音・録画)を求める立場から、今後録音・録画の対象を拡大する具体的日程、工程を何ら明示せずこれを担保しない試案の撤回を求め、今後特別部会においては、諮問の趣旨に立ち返り議論を行うことを求める。
2014年(平成26年)5月23日
兵 庫 県 弁 護 士 会会 長 武 本 夕香子

2014(平成26)年3月19日
法曹養成制度改革推進会議御中
法曹養成制度改革顧問会議御中
法曹養成制度改革推進室御中
申入書
埼玉弁護士会
会長 池 本 誠 司(公印省略)
千葉県弁護士会
会長 湯 川 芳 朗(公印省略)
栃木県弁護士会
会長 橋 本 賢 二 郎(公印省略)
群馬弁護士会
会長 小 磯 正 康(公印省略)
山梨県弁護士会
会長 東 條 正 人(公印省略)
長野県弁護士会
会長 諏 訪 雅 顕(公印省略)
兵庫県弁護士会
会長 鈴 木 尉 久(公印省略)
愛知県弁護士会
会長 安 井 信 久(公印省略)
山口県弁護士会
会長 大 田 明 登(公印省略)
佐賀県弁護士会
会長 桑 原 貴 洋(公印省略)
大分県弁護士会
会長 千 野 博 之(公印省略)
仙台弁護士会
会長 内 田 正 之(公印省略)
山形県弁護士会
会長 伊 藤 三 之(公印省略)
秋田弁護士会
会長 江 野 栄(公印省略)
札幌弁護士会
会長 中 村 隆(公印省略)
第1 申入の趣旨
 現在構想されている法曹人口調査検討の手法を抜本的に見直すとともに、調査検討の結果を待つことなく2014(平成26)年司法試験から直ちに司法試験合格者数の大幅減少に踏み切ることを求める。
第2 申入の理由
1 現在、法曹養成制度改革推進室(以下、推進室という)は、法曹人口に関する調査を2015(平成27)年3月まで続け、この調査結果が出るまで法曹人口に関する政策的提案は行わないという見解を表明している。そして、その調査の視点、具体的な調査方法、調査項目等については、学者で構成される法曹人口調査検討会合(以下、調査検討会合という)における検討に委ねることになっている。しかし、このような法曹人口問題に関する調査検討の方法には、以下に述べるように重大な疑義があると言わざるを得ない。
2 まず第1に、調査が終わるまで一切の政策的提案を行わないとしている点である。上記のような調査を行うまでもなく、現状の2000人の司法試験合格者数で様々な弊害が生じていることは明らかであり、これに対する対処は一刻の猶予も許されない状況になっている。法曹養成制度検討会議と法曹養成制度関係閣僚会議が「司法試験合格者数を3000人程度とする数値目標は現実性を欠く」旨を決めたのも、現状で弊害が認められるからである。
 既に2012(平成24)年に総務省による政策評価がなされているのであるから、改めて大がかりな調査を行うまでもなく、2014(平成26)年の司法試験から直ちに司法試験合格者数の削減に踏み切るべきである。この点は、すでに2013(平成25)年12月2日付の10弁護士会連名による申入書でも述べたとおりである。
3 第2は、これから行われようとしている調査検討手法の問題点である。推進室は、法曹人口調査の視点・考慮要素例(案)として、需要、質の確保・法曹の供給、対比的視点、均衡的視点、公益的業務等をあげた上で、既存のデータ分析に加えて新しいデータの収集・分析を学者からなる前記調査検討会合に委ねようとしている。
しかし、1年以上にわたる大がかりな調査検討を経なければ、当面の司法試験合格者数を動かし得ないということは、およそ理解しがたいことである。たとえば、公認会計士、医師、歯科医師等においても、その人口の過不足が問題とされ、養成数の増減が行われたことがあるが、その際においても上記のような大がかりな調査が行われたことはない。側聞するところによれば、調査検討会合は、インターネットによる意識調査等を検討しているようであるが、そのような一般的な意識調査が差し迫って必要なものとは思われない。今行わなければならないことは、現実に発生している弊害をいかにして除去するかという現実的・実践的な課題であり、理想的な法曹人口はいかにあるべきかという抽象的な議論ではない。
また、前記調査検討会合の構成員に、実務を担う法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)が含まれていないことは問題である。どのような調査をいかにして行なうのかという調査の在り方自体にも法曹三者の意見を反映させなければ、実務と遊離した意味に乏しい調査となるおそれがある。
4 以上のとおり、データの収集・分析を学者グループによる学術的研究に委ね、理想的な法曹人口はいかにあるべきかという抽象的な議論を悠長に行うのではなく、現実に発生している弊害を除去するという実践的な観点から、当面する法曹人口の調査検討が行われるべきである。こうした観点からは、次回の司法試験から直ちに合格者数の削減に踏み切るべきであるとともに、一度合格者数を変更したからといって、それを固定化する必要もない。削減によって弊害が除去されたかどうかを年々検証しながら、その後の合格者数をどうするべきかについて継続的に検討していく態勢を整備するべきである。学者のみによって構成される調査検討会合のあり方についても、抜本的に見直すべきである。以上

会長談話
本日、当会会員である安村友宏会員が、弁護士業務を遂行する上で預かった金銭である427万円を横領した容疑で逮捕されました。この金額は、同会員が横領した金銭の一部にすぎないと思われますが、現在も西宮警察署による捜査が進行しているところであり、捜査当局による全容の解明が待たれます。
 弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とするものであって、その使命に基づき誠実に職務を行うからこそ、市民に信頼され、その職責を果たすことができるものと考えます。
あらためまして、当会会員の重大な非行により、本件の関係者に著しい被害を与えたことに遺憾の意を表明しますとともに、既に当会においては同会員に対する懲戒手続を進行させているところであることを申し添えます。
 当会は、このような事態に至ったことを苦い教訓として、依頼者や市民からの情報提供に基づく不祥事の早期察知を進め、また、預り金規定の改正による弁護士会の調査権限の強化をはかっているところです。今後とも、より効果的な非行防止策を検討し、会員一人ひとりの倫理意識の向上により一層取り組む所存です。
2014年(平成26年)2月13日
兵庫県弁護士会会長 鈴木尉久

死刑執行に関する会長声明
2013年(平成25年)12月12日,2名に対する死刑が執行された。現政権下では,今年に入って2月21日に3名,4月26日に2名,9月25日に1名に対して死刑が執行されており,合計8名に死刑が執行されたことになる。当会においては,国民的議論が十分尽くされるまで死刑の執行を停止することを求める旨の声明を,過去繰り返し公表してきたところ,現政権がこのように性急とも言える頻度で死刑の執行を継続していることは極めて遺憾であり,強く抗議する。国際社会においては,世界の3分の2以上の国々が,死刑を既に廃止ないし停止しており,隣国である韓国においても1998年以降死刑の執行を停止しており,事実上の廃止国とされている。また国連総会は,2012年12月,「冤罪で死刑が執行されれば取り返しがつかない。死刑が犯罪抑止効果を持つとの確実な証拠もない。」と指摘し,死刑廃止を視野に執行を停止するよう求める決議案を採択している。国際人権(自由権)規約委員会からも,日本は,「世論調査の結果にかかわらず,死刑制度の廃止を前向きに検討」すべきとの勧告を受けており,死刑執行は「日本が抱える最大の人権問題の一つ」である。死刑制度に関する情報を広く国民に公開し,死刑存廃等についての議論を呼びかけることは国の責務である。裁判員制度において,裁判員は現に死刑を含む量刑判断に参加しており,死刑制度に関する情報の周知と議論の開始は,喫緊の課題である。当会としても,2013年2月に日本弁護士連合会が法務大臣宛てに要請したとおり,死刑制度の廃止について全社会的議論を開始すべく,存置,廃止,中立の各立場から人選された有識者会議の設置を要請する。
そして,死刑制度の在り方について広く冷静に議論を進めるため,死刑の執行は,速やかに停止されなければならない。刑事訴訟法において,刑罰の執行が一般に検察官の指揮のみをもって行いうるのに対し,死刑の執行については法務大臣の命令によるものとされている(同法475条1項)趣旨は,死刑執行の可否については法務大臣の高度な人道的,政治的判断を許容するためであり,死刑に関する全社会的議論の間に死刑の執行を停止することは許容されている。また,同条2項は,死刑執行の命令につき「判決確定の日から六箇月以内にこれをしなければならない。」と定めているが,これは訓示規定であり,執行停止の妨げにはならない。
 以上,当会は,死刑制度に関する情報の公開,有識者会議の設置及び死刑執行の速やかな停止を,改めて強く求める。
2013年(平成25年)12月12日
兵庫県弁護士会会 長 鈴 木 尉 久

会長談話
当会は、預り金を費消したとして兵庫県西宮警察署に自首をした当会の安村友宏会員に対し、弁護士法56条1項の弁護士としての品位を失うべき非行があるとして、12月4日付けで、当会の綱紀委員会に事案の調査を請求しました。
 詳細は尚不明ですが、当会会員が引き起こした非行により、本件の関係者に著しい被害を与えましたことを誠に遺憾に思いますとともに、これによって弁護士及び弁護士会に対する信頼が損なわれたことを深くお詫びいたします。弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とするものであって、その使命に基づき誠実に職務を行うからこそ、市民に信頼され、その職責を果たすことができるものです。今回のような預かり金の費消など、弁護士である前に、社会人として許されるものではありません。
 当会では、これまでも、会員に対して、弁護士の使命に立ち返り、襟を正して真摯に職責を果たすように繰り返し注意喚起して参りました。しかし、会員が、このような事態を引き起こしたことから、改めて、会員の倫理意識向上に向けた取組に努めなければならないと考えております。そのためにも、本件の非行の原因究明を含め、効果的な対策を講じていくための取組を強めていく所存です。
2013年(平成25年)12月10日
兵庫県弁護士会会 長 鈴 木 尉 久

特定秘密保護法の成立にあたっての会長談話
特定秘密保護法案の採決が、衆議院に続き、平成25年12月6日、参議院でも十分な審議のないまま与党により強行され、特定秘密保護法が成立した。
 主権者たる国民が公共的な事柄に関する情報を得た上で、国政について判断することは、国民主権の原理に基づく民主主義のもとで「知る権利」として保障され、また、報道機関の取材活動の自由は、報道に不可欠の前提であり、国民の「知る権利」に奉仕するものとして、憲法により保障されている。
 今般成立した特定秘密保護法は、国民の知る権利や報道の自由の侵害する危険が高く、「特定秘密」の範囲が曖昧で行政機関による恣意的な拡大解釈のおそれがあり、いたずらに曖昧かつ広範囲に重罰を適用するものであり、また、適性評価によるプライバシー侵害は避けられず、国民の自由な表現行為を威圧し萎縮させる弊害が著しい。国際的な指針である「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(ツワネ原則)に照らしても、およそ民主主義国家の法律とは思われないような内容のものである。また、国会における審議の過程で、参考人や公述人の多くが上記のような問題点を指摘し、反対意見を述べたにもかかわらず、十分な検討を加えないまま、採決が強行された。手続的に見ても、特定秘密保護法の成立経過は、民主的に行われたとは言い難い。
 当会は、特定秘密保護法の成立に抗議するとともに、同法の施行をひかえ、引き続き、その問題点を解消するための諸活動を行う決意である。
2013年(平成25年)12月10日
兵庫県弁護士会会長 鈴木尉久

法曹養成制度改革推進会議 御中
申 入 書
2013(平成25)年12月2日
埼玉弁護士会
会長 池 本 誠 司
(公印省略)
千葉県弁護士会
会長 湯 川 芳 朗
(公印省略)
栃木県弁護士会
会長 橋 本 賢 二 郎
(公印省略)
群馬弁護士会
会長 小 磯 正 康
(公印省略)
長野県弁護士会
会長 諏 訪 雅 顕
(公印省略)
兵庫県弁護士会
会長 鈴 木 尉 久
(公印省略)
山口県弁護士会
会長 大 田 明 登
(公印省略)
佐賀県弁護士会
会長 桑 原 貴 洋
(公印省略)
大分県弁護士会
会長 千 野 博 之
(公印省略)
札幌弁護士会
会長 中 村 隆
(公印省略)
第1 申入れの趣旨
年間司法試験合格者数の大幅減員への早急な対応を求める。
第2 申入れの理由
1 政府は、法曹養成制度関係閣僚会議の決定において、本年7月16日、法曹養成制度検討会議の取りまとめを受け、今後の法曹人口の在り方について、法曹人口に関する調査を行い、その結果を2年以内に公表するとした。
2 しかし、法曹人口は、司法制度改革審議会意見書(2001年6月)において増員が提言されていた裁判官、検察官の増員がもっぱら予算上の理由のみで抑制されたまま、弁護士人口のみが急増している。また、司法修習終了後の一括登録時における未登録者数は、年々増加の一途を辿り、昨年度は546人、今年度はさらにその数を上回る状況である。
その結果、新規登録弁護士の就職難が社会問題化していることは周知の事実である。既存の法律事務所において研鑽(OJT)の機会すらない新人弁護士が急増すると、国民の基本的人権の尊重や社会正義の実現という弁護士の責務を充分に尽くすことができず、その不利益が国民に及ぶおそれを生じさせる。
3 しかも、弁護士需要の主たる指針となる裁判所での訴訟件数は、弁護士数が急増しているにも関わらず減少の一途である。このような現状では、新規登録弁護士は、就職難とあいまって研鑽の機会がさらに減少するおそれが大きい。
4 さらに、法科大学院入学志望者数の推移にみられるように法曹志望者が激減している実情は、この問題が一刻の猶予も許されない極めて深刻な事態であることを示している。
 法曹志望者の激減の原因は、法曹資格取得後の就職や開業に十分な見通しを立てることができない司法修習修了者や新規登録弁護士の実情が明らかになっているためである。このような状況が今後も続く限り、将来法曹を担うべき有為な人材がいなくなることになり、司法が機能しなくなる可能性も否定できない。弁護士人口が既に供給過多に陥っていることは総務省による政策評価(2012年4月)によって明らかにされ、長野県議会(2010年7月)、埼玉県議会(2012年12月)、北海道議会(2013年7月)、静岡県議会(2013年10月)でも需要に見合った司法試験合格者数の減員を求める意見書が採択されている。
5 そのような中で今年度の司法試験合格者数も2000人を超えた。この状況を放置し2年間も結論を先送りすることは法曹制度そのものの崩壊を招くことにならざるを得ない。
よって、来年度に向けて直ちに司法試験合格者数の大幅な減員のための方策を具体化することを強く求める。以 上

特定秘密保護法案に反対する会長声明
1 特定秘密保護法案(以下「本法案」という)が、本年10月25日に第185国会(臨時会)に提出され、11月7日から衆議院における審議が開始された。
 当会は、特定秘密の保護に関する法律案の概要に反対する意見書を本年9月17日に発表している。当会が、同法律案概要に反対した理由を要約すれば次のとおりである。すなわち、①国民主権の原理に基づく民主主義のもとでは、行政機関など政府が保有する情報は主権者である国民に帰属するのであり、原則として国民は政府が保有する情報を自由に入手する権利を有し、これを保障する国民の知る権利、報道の自由、取材活動の自由は、基本的人権のなかでも優越的地位を有すると位置づけられ、最大限に尊重されるべきであるにもかかわらず、同法律案概要は、このような基本的な視点を欠如したものであること、②別表に掲げる特定秘密指定対象となる情報が広範かつ無限定であり、行政機関の長によって恣意的に「特定秘密」として指定される危険性が極めて高いこと、③秘密として保護する必要のある情報の保全は現行法によって十分に行えており、知る権利を制限してまで新たな立法を行う必要性がないこと(立法事実の欠如)、④処罰対象とされる行為の範囲が曖昧であり、かつ、共謀行為、教唆行為、扇動行為自体が処罰対象とされるため、情報開示を求める市民活動や報道機関の取材活動について、処罰対象となるか否かの範囲が不明確で、恣意的な捜査が行われる恐れがあり、萎縮効果によって知る権利が侵害されること、⑤適正評価制度に基づく素行調査によって、当該秘密を扱う職員(公務員に限定されない)のみならず、多くの市民の情報も収集可能となり、プライバシー侵害の危険性があること、などである。
2 国会に提出された本法案では、①特定秘密の指定等の運用基準の作成に関する条項(本法案18条)、②法律の解釈適用について、報道及び取材の自由への配慮規定及び「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為」について、一定の場合には正当な業務行為とする旨の規定(本法案21条)がそれぞれ盛り込まれる修正がなされた。
しかし、これらの修正や本法案に関する国会での審議状況を踏まえても、以下述べるとおり、先に指摘した本法案の問題点は、全く解消されていない。
3 本法案で新たに盛り込まれた条項と知る権利侵害の危険性
 第1に、本法案に盛り込まれた特定秘密の指定等についての運用基準に関する条項によっても、当該基準自体が公開される保障はなく、基準作成について有識者の意見を聴くとはしているが、基準作成の主体は、あくまで政府であって、本法案における特定秘密対象情報の限定が極めて曖昧であるのと同様に、基準自体が極めて曖昧になる危険性は高い。
しかも、あくまで基準を作成するだけであり、各行政機関の長がどのような情報を「特定秘密」として指定しているのかは、全くのブラックボックスの中であって、特定秘密の指定自体が恣意的に行われることを防止するための第三者機関によるチェック制度などの法的担保は全く考えられていない。この点、衆議院本会議で安倍晋三首相は、特定秘密の指定の適否について「行政機関以外のものが行うのは適当ではない」として、第三者によるチェック制度を設けることを頑なに拒否している。これでは、特定秘密の指定が恣意的かつ無限定になることは避けられない。
 第2に、報道の自由及び取材の自由への配慮規定が設けられても、あくまで訓示規定に過ぎず、恣意的な運用が懸念されている行政機関や捜査機関による配慮によって権利が保障されることにならないことは多言を要しない。報道機関等の取材行為について、一定の要件のもとで正当業務行為となると規定されても、そもそもオンブズマン活動など市民による活動は保障の対象とはなっておらず、かつ、同規定では正当な業務とされる要件は「著しく不当な方法によるものと認められない限り」と限定されており、「著しく不当」か否かの判断は運用者の解釈に一任されているのであるから、報道及び取材活動の自由への侵害の恐れは全く払拭されていない。この点は、国会の審議を通じても、何が正当な取材行為として保障されるのかについて明確な答弁がされていないことでも裏付けられている。しかも、共謀罪の処罰規定はそのままであって、たとえばある情報が特定秘密として指定されているかも知れないが、当該情報の重要性故にたとえ特定秘密であっても取得して報道しよう、と考えた報道機関が、その内部で取材方法を協議すること自体も協議内容によっては処罰対象とされる危険性は放置されたままである。
4 米国の秘密保全法制との不均衡
 本法案の必要性について、政府は「外国との情報共有」のために我が国の秘密保全制度を整備しなければならないと強調しているが、ここにいう外国とは主にアメリカ合衆国(以下「米国」という。)を指すことは異論なかろう。そこで、本法案が米国における秘密保全法制との均衡がとれたものとなっているかどうかを検討することは、相互主義の観点からも重要なことである。
 米国では、議会の特別委員会における審査のほか、大統領令13526号により、国立公文書館の情報保全観察局長による機密解除請求、一般市民による機密解除請求がなされた場合の必要的機密解除審査、国立公文書館内に設けられた国家機密解除センターによる機密指定解除、省庁間機密指定審査委員会による機密指定審査など秘密指定権者の権限濫用を防ぎ、秘密指定を適正化するための制度が二重三重に設けられている。しかるに本法案にかかる制度は用意されていない。また米国では、同大統領令により、原則として機密指定の際に、機密解除を行う特定の期日(10年未満もしくは10年、最長でも25年)を定めなければならないとされ、当該特定の期日の到来によって原則として自動的に機密指定は解除されることになっている。他方、本法案では、特定秘密の指定時に5年を超えない期間で指定の有効期間を設定する旨を規定しているが、同期間は延長することが可能であり、かつ、指定期間の最長期限も定められていない。この点、安倍晋三首相は、衆議院本会議において、秘密解除のルールにつき、「一定期間の後に一律に秘密指定を解除するのは困難」と答弁しており、いったん秘密指定を受けた特定秘密は、永久に国民の目にさらされることはない可能性があることを公言しているのである。のみならず現行の公文書管理法を前提とすると秘密指定解除の有無に関わらず、秘密指定された文書の保存さえも期待できない。
その結果、我が国において特定秘密として指定された情報が、米国経由で入手され、報道されるという事態も本法案のもとでは生じ得るのである。米国経由でしか情報が入手できないという事態は、民主主義国家としては嘆かわしい状況である。本法案においては、民主主義国家における情報公開の重要性に対し、何らの配慮もなされていない。すなわち、本来政府が保有する情報は国民に帰属するのであり、たとえ特定の情報を秘密として保護する必要があるとしても、行政機関による権限の濫用を常に国民が監視する必要があり、国民主権のもとでは、常に国民の知る権利の保障を最優先に考えるべきであるという基本的な視点が欠如しているのである。
5 国際的指針(ツワネ原則)からの検証
 本年6月12日、南アフリカ共和国の首都、ツワネにおいて、国際連合、人及び人民の権利に関するアフリカ委員会、米州機構、欧州安全保障協力機構の特別報告者を含む世界70カ国以上500人以上の専門家により14回の会議を経て、「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)」が策定、公表された。ツワネ原則は、安全保障に係る情報保全と表現の自由・知る権利をどう調整するかという観点から、関係法令の起草に関わる人々に対する指針として作成されたものであり、既に欧州評議会の議員会議でも引用されるなど国際原則としてその地歩を固めつつあり、本法案の審議においても斟酌されるべき原則である。ツワネ原則においては、政府は、秘密にしうる情報に関して、防衛計画、兵器開発、諜報機関により使用される作戦・情報源等の限られた範囲でのみ合法的に情報を制限することができる(原則9)とされており、秘密情報がありうることを前提にしつつも、誰もが公的機関の情報にアクセスする権利を有しており(原則1)、その権利を制限する正当性を証明するのは政府の責務である(原則4)とされ、適切に秘密の指定がなされていることは、政府の側に立証責任が科されている。
また、ツワネ原則においては、情報は、必要な期間にのみ限定して秘密指定されるべきであり、決して無期限であってはならず、政府が秘密指定を許される最長期間を法律で定めるべきである(原則16)とされている。また、秘密解除を請求するための手続が明確に定められるべきであり、公益に関する情報を優先的に秘密解除する手続も定められるべきである(原則17)とされている。
さらに、裁判手続の公開は不可欠であるとされ(原則28)、刑事裁判において、公平な裁判を実現するために、公的機関は、被告人及びその弁護人に対して、秘密情報であっても公益に資すると思慮する場合は、その情報を開示すべきであり、公的機関が公平な裁判に欠かせない情報の開示拒否をした場合、裁判所は、訴追を延期又は却下すべきであるとされている(原則29)。
そして、ツワネ原則においては、情報漏えい者に対する刑事訴追は、明らかになった情報により生じる公益より、現実的で確認可能な重大な損害を引き起こす危険性が大きい場合に限って検討されるべきである(原則43,46)とされ、公務員でない者は、秘密情報の受取、保持若しくは公衆への公開により、又は秘密情報の探索、アクセスに関する共謀その他の罪により訴追されるべきではない(原則47)とされている。
 本法案は、このようなツワネ原則で示されている秘密情報の保護に関する指針にことごとく反しており、知る権利を不当に害する危険性が高いものである。
6 結論
 以上のとおり、本法案は、国民の知る権利、報道と取材活動の自由を侵害するという本質的な欠陥を有し、これは、法案に対して多少の修正をしたとしても解消される余地がないのであって、本法案は速やかに廃案とされるべきである。以 上
2013年(平成25年)11月15日
兵 庫 県 弁 護 士 会会 長 鈴 木 尉 久

2013年(平成25年)11月13日
集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明
兵庫県弁護士会
会長 鈴木尉久
1 政府は、従前より、自衛権を「国家に対する急迫不正の侵害があった場合に、その国家が実力をもってこれを防衛する権利」であると定義し、このような自衛権を我が国も保有しているところ、自衛権発動のためには我が国に対して急迫不正の侵害があったこと、これを排除するために他の適当な手段がないこと、必要最小限度の実力行使にとどまるべきことという自衛権発動の3要件を備える必要があると説明してきた。
また、政府は、集団的自衛権を「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」とした上で、独立国である以上、このような集団的自衛権を我が国も保有しているが、憲法第9条のもとにおいて許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであり、集団的自衛権の行使はその範囲を超えるもので、憲法上許されないとしてきた。
このような集団的自衛権に関する政府解釈は、政府が国会答弁において長い年月にわたって繰り返し表明してきたものであり、国民もそのような政府解釈については、定着したものと信頼してきた。
2 ところが、安倍晋三首相は、これまでの政府解釈を変更し、我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在しない場合にも、集団的自衛権の行使に基づく武力の行使を容認しようとしている。
しかし、このような集団的自衛権の容認へ向けての政府解釈の変更は、憲法上、内容的にも手続的にも問題がある。
3 平和は、個人の尊重や人権保障の前提となるところから、憲法第9条は、戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認という恒久平和主義を宣明しているが、この憲法第9条が、自衛権発動の3要件が具備されない状況下で、外国に対して武力攻撃がなされたということを理由とする武力行使を許容しているとはおよそ考えられない。憲法第9条の文言からは、集団的自衛権の行使を容認する解釈は成り立ちえない。
4 現行憲法第9条のもとでは、集団的自衛権の行使は容認されていない以上、どうしても集団的自衛権の行使が必要というのであれば、憲法改正手続によるほかない。上記のような集団的自衛権行使は憲法第9条に違反するとの政府解釈が50年余の長期にわたって安定的に維持されて、規範として機能し、自衛隊の組織・装備・活動等に大きな制約を及ぼし、海外における武力行使を差し控える根拠となってきたことを考えれば、なおさら憲法改正手続により集団的自衛権行使の容認の是非につき主権者たる国民の意思を問う必要がある。
ところが、安倍晋三首相は、平成25年8月8日、内閣法制局の山本庸幸長官を退任させ、その後任に、集団的自衛権行使を容認する考えを表明している元外務省国際法局長で駐仏大使の小松一郎氏を任命した。
また、安倍晋三首相は、首相、内閣官房長官、防衛大臣、外務大臣のみによって中長期的な安全保障政策を検討する「国家安全保障会議(日本版NSC)」を創設すると共に、内閣官房に国家安全保障局及び内閣情報局を設置し、自衛隊及び警察等を中心として収集した情報を内閣官房に集中・集約させる関連法案を、今国会に提出した。さらに、政府の保有する広範な情報のうち、政府に不利益な情報が恣意的に隠蔽され,都合の良い情報のみが公開されるおそれが高く、国民の知る権利や取材の自由に重大な打撃を与える特定秘密保護法案を、今国会に提出した。
このように、正面から憲法改正手続をとることなく、内閣法制局による憲法解釈の変更を図り、あるいは法律によって憲法の基本原理の一つである恒久平和主義を変容させることは、憲法に違反する。
5 憲法前文及び憲法第9条に規定されている恒久平和主義、平和的生存権の保障は、憲法の基本原理であり、時々の政府や政権与党の判断や法律の制定によって、これを変更することは、国務大臣や国会議員の憲法尊重擁護義務(憲法第99条)に反し、憲法が最高法規であり、憲法に反する法律や政府の行為は無効であるとされていること(憲法第98条)に鑑み、許されない。
以上の次第であるから、当会は、政府解釈の変更や法律の制定のみで、集団的自衛権の行使を容認しようとする政府の行為に強く反対する。以 上

会 長 談 話
本日、当会会員である西村義明会員が、預り金を費消した容疑で逮捕されました。
 弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とするものであって、その使命に基づき誠実に職務を行うからこそ、市民に信頼され、その職責を果たすことができるものと考えます。当会会員の重大な非行により、本件の関係者に著しい被害を与えたことを誠に遺憾に思いますとともに、これによって弁護士及び弁護士会に対する信頼が損なわれ、その職責を果たすにつき支障が生じることを危惧するものです。当会は、このような事態に至ったことを苦い教訓として、本件のような非行が生じた原因究明を徹底し、より効果的な非行防止策を検討し、会員一人ひとりの倫理意識の向上により一層取り組む所存です。
2013年(平成25年)6月6日
兵庫県弁護士会会 長 鈴 木 尉 久

「生活保護法の一部を改正する法律案」に反対する会長声明
1 本年5月17日、政府は、「生活保護法の一部を改正する法律案」(以下、「改正案」という。)を閣議決定した。
この改正案には、憲法25条による生存権保障に鑑み、主に以下の2点において特に看過しがたい問題がある。一つは、保護開始申請における申請書提出及び書類の添付の義務付けの問題であり、もう一つは、保護開始時あるいはそれ以降の保護実施機関から扶養義務者への通知・調査の問題である。
2 まず、改正案24条1項は、保護の開始の申請にあたっては、「要保護者の資産及び収入の状況」その他「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出しなければならないとし、同条2項は、申請書には保護の要否判定に必要な「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」としている。
しかし、要保護者に対しては生存権保障の見地から迅速な保護開始決定が強く要請されるのであり、生活保護窓口における申請の段階においては簡便さが強く求められる。現行生活保護法24条1項は、保護の申請を書面による要式行為とせず、かつ、保護の要否判定に必要な書類の添付を申請の要件としていない。また、裁判例では口頭による保護申請も認められている(大阪高裁平成13年10月19日判決・裁判所ウェブサイト、さいたま地裁平成25年2月20日判決・裁判所ウェブサイトなど)。実務の運用においても、厚生労働省は、保護を利用したいという意思の確認ができれば申請があったものとして取り扱い、実施機関の責任において必要な調査を行い、保護の要否の決定をなすべきものとしている。
このような、生活保護の申請について添付書類等を要しないとする現行生活保護法の取扱いは、生存の危機における保護の遅延は、国民の生命身体に対し取り返しのつかないダメージを与えかねないという事実認識に基づいている。現に貧困その他の事情により生存を脅かされている状況にある国民に対し、即時に最低限度の生活を保障して生存の危機から離脱させることは、憲法25条による生存権保障の中核的要素の一つであり、生活保護申請にあたっては申請の意思表示のみで足り、何らの添付書類も必要とされないという現行生活保護法の取扱いは、この憲法の精神を体現したものである。
 改正案では、申請書に必要事項の記載や書類の添付を要する旨が強調されており、記載事項や添付書類の不備に藉口した申請の不受理を招く懸念がある。また、困窮した要保護者に申請段階で過度の負担を課すことで申請を断念してしまう事態を招きかねない。実際に、生活保護の窓口においては、今なお生活保護申請を事実上受領しない「水際作戦」と呼ばれる違法な扱いが散見されているが、改正案はかかる「水際作戦」を合法化しようとするものであって、憲法25条による生存権保障の趣旨に反している。
3 また、改正案24条8項は、保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ、要保護者の扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けている。それだけでなく、改正案28条2項は、保護実施機関は、保護開始後も扶養義務者に随時調査を行うことができると定めている。このような改正案による扶養義務者に対する通知・調査の制度の新設は、本来生活保護が必要な状況にある国民に対し、親族間の軋轢やスティグマ(恥の烙印)を恐れて保護申請を断念させるという弊害をもたらす危険性が高い。生活保護制度の利用資格がある者のうち、実際に生活保護を利用している者の割合(捕捉率)は、2割程度であると言われており、このように現状においても高いとは言えない補足率をさらに低下させ、一層生活保護の申請を委縮させる危険性がある改正案は、憲法25条による生存権保障の観点からは、到底容認することはできない。
4 生活保護制度は、生存権保障のための最後のセーフティーネットである。格差と貧困が深刻な社会問題となっているわが国において餓死・孤立死・自死や貧困を背景とする犯罪や虐待などの悲劇を防ぐために、生活保護など社会保障制度が果たすべき役割はますます拡大している。改正案は、経済的困窮者を生活保護の利用から締め出すものであり、憲法25条による生存権保障の観点から到底容認できない。よって、当会は、改正案の見直しを強く求める。
2013年(平成25年)5月23日
兵庫県弁護士会会長 鈴木尉久

「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律案」
に対する会長声明
 政府は、2013年(平成25年)4月19日、集団的消費者被害回復のための新たな訴訟制度の導入を内容とする「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律案」を閣議決定し国会へ提出した。同制度の導入は、これまで情報力や交渉力の格差、被害回復のための費用や手間がかかるために必ずしも十分に被害回復が図られてこなかった消費者被害の実効的な救済に資する画期的なものとして評価できる。
この集団的消費者被害回復制度に対しては、拙速な立法であるとか、制度の濫用のおそれがあるなどといった批判も見られる。しかしながら、同制度に関しては、2007年(平成19年)のOECD理事会勧告で消費者被害救済のための集団的な訴訟制度の導入が提言されており、2009年(平成21年)の消費者庁設置法附則でも3年を目途に必要な措置を講じることが定められていたものである。また、消費者に生じた被害が適切に回復されることは公正な市場の実現に資するものであり、企業活動の視点からも積極的に評価されるべきものである。さらに、これまでの適格消費者団体による差止請求の実情などを踏まえると、本制度の濫用のおそれは杞憂というべきであって、当会は、本制度につき、正しい理解に基づいて国会での審議がなされることを期待し、平成25年の通常国会において本制度の導入が実現されることを強く求める。と同時に、本制度の特徴は、消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害を集団的に回復するため、内閣総理大臣が認定した特定適格消費者団体が訴えを提起して、事業者がこれらの消費者一般に対して金銭を支払う義務を負うべきことを確認した後に、個々の消費者が簡易確定手続に参加することによって消費者被害の簡易迅速な救済を図るという点にあり、このような本制度の特徴を最大限に活かすため、特に以下の点について、今後の国会での審議においてその是正がなされるよう求める。
1 法律案では、法律施行前に締結された消費者契約に関する請求権等については対象としないものとしているが、このような制限は、現に存在している消費者被害の実効的な救済を放棄することに等しく、また、同一事案につき救済される対象消費者と救済されない対象消費者を生じさせることになる。本制度は、もともと消費者になかった権利を新たに認めるものではなく、情報力・交渉力の格差などにより本来賠償されるべきであるにもかかわらず賠償されないままになっているような消費者被害を集団的に回復していく手続法であり、健全な企業であれば当然なすべきことを求めるにすぎないものであって、企業の「予測可能性」などを考慮して対象となる請求権の時的範囲を制約することは不合理である。
また、このような制限は、本制度の導入を議論した集団的消費者被害救済制度専門調査会では全く議論されておらず、これまでに政府から公表されていた制度案等においても一切盛り込まれていなかったものであって、このような重要な制限がこれまでの議論の経過を踏まえずに突然設けられようとしていること自体問題である。
2 法律案では、簡易確定手続における対象消費者への通知または公告に要する費用につき、例外なく申し立てた特定適格消費者団体が負担するものとしているが、かかる費用を特定適格消費者団体が負担するものとすると最終的には対象消費者の負担となってしまい、特に低額被害事案での救済が困難となるおそれがある。簡易確定手続に移行した段階においては事業者に一定の金銭支払義務のあることが確認されており、支払手続に必要な費用の一定の負担を求めても不当ではないこと、事業者側も一回的解決というメリットを享受しうることなどから、簡易確定手続における対象消費者への通知または公告に要する費用については、原則として事業者が負担するものとされるべきである。
3 法律案では、相手方事業者が簡易確定手続における対象消費者への通知に必要な対象消費者の住所・氏名等の情報開示命令に応じない場合の制裁を過料としている。しかし、すべての対象消費者に個別に通知が行われてはじめて本制度が実効的なものとなることからすると、対象消費者に関する情報開示は個別通知の前提としてきわめて重要なものであることから、さらに制裁を強化すべきである。
4 本制度が、消費者被害を簡易迅速に救済するとともに、消費者被害を生まない社会の形成に寄与する公益性の高い制度であることに照らせば、本制度を担うことが予定されている適格消費者団体および特定適格消費者団体に対して、相応の財政的支援を含む積極的な支援を行うべきである。
5 法律案の施行後5年経過時において検討されるべき所要の措置に関しては、対象となる事案の拡大などを検討すべき事項として例示すべきである。
2013年(平成25年)5月23日
兵庫県弁護士会 会長 鈴 木 尉 久

2013年(平成25年)6月19日
兵庫県弁護士会
会 長 鈴木尉久
第1 意見の趣旨
憲法改正手続を定めた憲法第96条第1項の発議要件について、現行の「衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成」との要件を緩和することに強く反対する。
第2 意見の理由
1 憲法第96条を改正しようとする最近の動き
自民党は2012年4月27日、日本国憲法改正草案を発表した。これは、現行の日本国憲法における国家と国民との関係を根本的に改変し、基本的人権の保障に関してもその基本的考え方に変更を加えることを内容とするものである。
また、この草案は、憲法改正の手続要件について、現行の憲法第96条を改訂し、現行憲法では各議院の総議員の3分の2以上の多数の賛成がなければ憲法改正の発議ができないとしている要件を、両議院のそれぞれの総議員の過半数で議決できるとするなど著しく緩和している。そして、安倍晋三内閣総理大臣をはじめ政府関係者、自民党幹部及び一部の野党の幹部から、他の憲法の条文の改正よりも、憲法改正の手続要件を定めた第96条の改正だけを先行して行うべきであるとする発言が相次いでなされている。
2 憲法改正発議要件緩和は立憲主義を後退させる
フランス革命時に採択されたフランス人権宣言が、その第16条において、「人権の保障が確保されず、権力の分立が定められていない社会は、憲法を有するものではない。」としていることからも明らかなとおり、人権保障を目的に権力分立によって国家権力を制限しようとする原理(立憲主義)は、人類の多年にわたる努力の成果であって、全世界で時代を超えて認められる普遍的な原則である。
そして、日本国憲法は、いわゆる硬性憲法であって、その改正には通常の法律に比べ厳格な改正手続(憲法第96条)が要求されている。このような憲法第96条による厳格な改正手続は、必然的に憲法に通常の法律に優る権威を付与することとなり、憲法の最高法規性を形式的側面から支え、憲法の定める人権保障に法律が適合するよう規律することを正当化するとともに、時の政権与党の恣意的動機による憲法改正を防止し、立憲主義を担保する意味合いがある。
 人権は、過去幾多の試練に堪え、世代を超えて、侵すことのできない永久の権利として信託されたものであり、現在の国民のみならず将来の国民のためのものでもあるから、現時点での議会ないしは選挙権を有する国民の多数決といった民主主義原理は、立憲主義とは緊張関係にある。だからこそ、憲法第96条は、単に有権者の過半数が賛成すれば国民投票で憲法改正できるとはせず、国民投票を行う前に各議院の総議員の3分の2以上の賛成による発議が必要であるとし、慎重を期したのである。
つまり、憲法第96条の規定の趣旨は、立憲主義を擁護するため、国家権力に縛りをかけ、憲法改正を容易にさせないという点にある。したがって、憲法第96条による憲法改正発議の要件を緩和することは、立憲主義を後退させることになる。
3 日本の改正要件は諸外国と比較して厳格に過ぎるとはいえない
これに対して、憲法第96条の改正を主張する意見の中には、諸外国の憲法に比較して日本国憲法の改正要件が厳しすぎるとするものがあり、さらに、戦後一度も改正していないのは国民主権に反するとまで主張するものもある。
しかし、日本だけでなく世界の大多数の国の憲法は硬性憲法である。たとえば、アメリカ合衆国は憲法改正に連邦議会の3分の2以上の議決と4分の3以上の州による承認が必要とされており、日本の発議要件よりは厳しい要件となっているが、戦後6回の改正をしている。戦後58回の改正をしているドイツも連邦議会と連邦参議院のそれぞれの3分の2の賛成ではじめて改正ができる改憲手続制度を持つ。このように厳格な改正規定を持つ欧米の先進国が多数回の改正をしてきた理由は、日本国憲法と違い、憲法の条文の中に、日本では法律で定めている事項を規定しているからである。また、ヨーロッパの場合はEU統合に合わせて各国の改正が必要だったという事情がある。
つまり、そもそも、日本国憲法における改正要件は諸外国と比べて厳格に過ぎるというものではないし、また、諸外国の例をみても改正要件が厳しくとも必要とあれば現実に改正は可能なのであるから硬性憲法が国民主権をないがしろにするとはいえない。日本で戦後憲法改正が行われなかったのは、各議院の総議員の3分の2が支持をするに至るほど国民が必要とし支持する改正案が提示されてこなかったからにすぎない。
4 結論
以上のとおりであるから、当会は、憲法第96条の憲法改正発議要件を緩和することに強く反対するものである。以 上

小野市福祉給付適正化条例の成立にあたっての会長声明
小野市市議会は本日、「小野市福祉給付適正化条例」(以下、「本条例」という)を可決した。当会は2013年(平成25年)3月8日付「小野市福祉給付適正化条例案に反対する会長声明」を発して条例案に強く反対し、条例案の撤回・廃案を求めていた。受給者の人権を侵害し、市民等を監視態勢に巻き込み、生活保護等に対する差別偏見を助長するおそれのある本条例が可決したことは極めて遺憾である。
 当会は、上記声明において既に指摘したとおり、本条例が生活保護受給者その他経済的困窮者の人権侵害を招きかねず、違憲の疑いもあることに鑑み、貴市に対し、速やかに同条例を廃止の方向で見直すことを求める次第である。そして、それまでの間、本条例を制定した貴市においては、貴市在住の生活保護受給世帯や児童扶養手当受給世帯等に対する差別偏見が助長されないよう、また経済的に困窮した市民が萎縮して、申請・利用をためらわないように適切な配慮がなされるべきであることを指摘する。
また、本条例により福祉事務所による受給者に対する違法な指導指示がなされないよう憲法並びに生活保護法の趣旨に適う福祉行政が行われるように求める次第である。そもそも、本条例では要保護者の支援、「漏給防止」も目的とされているのであるから、貴市には、生活困窮者に対するなお一層の積極的な支援を期待する。さらに、本条例を制定した貴市においては、全国の自治体に率先してギャンブル依存症対策の充実に取り組まれることを期待したい。
 今後、当会は、関係各機関と連携しながら生活保護受給者等への相談支援体制をより一層充実するとともに、貴市において生活困窮者に対する人権侵害が生じないかについてより一層注視して行く所存である。
2013年(平成25年)3月27日
兵庫県弁護士会会長 林 晃 史

「菊池事件」について検察官による再審請求を求める会長声明
2012年(平成24年)11月7日、いわゆる「菊池事件」について、ハンセン病元患者3団体から、検察官が再審請求することを求める旨の検事総長宛の要請書が、熊本地方検察庁に提出された。
 同事件は、ハンセン病患者とされた藤本松夫氏(被告人)が、自分の病気を熊本県衛生課に通報した村役場職員を逆恨みして殺害した等として、1953年(昭和28年)8月29日に死刑判決の宣告を受け、1962年(昭和37年)9月14日に死刑執行された事件である。
 同事件の訴訟手続は、「らい予防法」により一般社会とは隔離されていた国立療養所菊池恵楓園、あるいは、ハンセン病患者のみの受刑者が収容される菊池医療刑務支所に仮設された「特別法廷」において非公開で行われており、かつ、この「特別法廷」内においては、裁判官、検察官、弁護人がいずれも予防衣と呼ばれる白衣を着用し、記録や証拠物等を手袋をした上で火箸等で扱うなど、ハンセン病に対する差別、偏見に満ちた取り扱いがなされた。さらには、被告人が殺人の公訴事実を一貫して否認しているにもかかわらず、第一審の弁護人は、罪状認否において「現段階では別段申し上げることはない」として争わず、また、検察官提出証拠に全て同意するなど、実質的に「弁護不在」の審理がなされている。このような同事件の訴訟手続が、裁判の公開(憲法第82条)、平等・公平な裁判(憲法第37条1項)、適正な刑事手続(憲法第31条)、弁護人による弁護(憲法第34条)を保障した憲法の規定に反し、被告人の裁判を受ける権利等を侵害するものであることは明らかであり、同事件は、本来人権を守るべき責務を負っている裁判官、検察官及び弁護人という法曹三者が、ハンセン病に対する差別・偏見により、自ら取り返しのつかない人権侵害を犯したものと言わざるを得ない。また、実体的にも、確定判決における証拠関係には多数の重大な問題点が存在し、その証拠構造は極めて脆弱である。
 誤った訴訟手続によって判決がなされて確定した場合、これを是正すべきは国家の責務であり、かかる観点から刑事訴訟法439条1項は検察官を再審請求者の筆頭に挙げている。すなわち検察官には、公益の代表者として訴訟手続の過ちを正すことが期待されているのであって、今なお残るハンセン病に対する差別・偏見等から、被告人の遺族による再審請求が困難な同事件においてはなおさらである。
 当会は、このような誤った審理や弁護活動がなされてきたことに同じ法曹としての責任を痛感するとともに、検察官が同事件について再審請求を行うことにより、憲法違反の手続による裁判を是正すべき責務を果たされることを強く求めるものである。
2013年(平成25年)3月22日
兵 庫 県 弁 護 士 会会 長 林 晃 史

小野市福祉給付適正化条例案に反対する会長声明
1 貴市は,今般「小野市福祉給付適正化条例」(以下「本条例案」という)を3月市議会に上程した。しかしながら,本条例案は生活保護受給者その他経済的困窮者の人権侵害を招きかねないものであり当会はこれに強く反対する。
2 本条例案は,生活保護法,児童扶養手当法その他福祉制度に基づく公的な金銭給付の受給者(受給しようとする者を含む)が「給付された金銭を,パチンコ,競輪,競馬その他の遊技,遊興,賭博等に費消してしまい,生活の維持,安定向上に努める義務に違反する行為を防止すること」を目的としている(1条)。そして「受給者の責務」として「受給者は…給付された金銭をパチンコ,競輪,競馬その他の遊技,遊興,賭博等に費消し,その後の生活の維持,安定向上ができなくなるような事態を招いてはならないのであって,常にその能力に応じて勤労に励み,支出の節約を図るとともに,給付された金銭が受給者又は監護児童の生活の一部若しくは全部を保障し,福祉の増進を図る目的で給付されていることを深く自覚して,日常生活の維持,安全向上に努めなければならない」などと定めている(3条1項)。
また,本条例案では,市民及び地域の構成員に,市及び関係機関に対する協力義務を負わせ(5条1項),受給者が給付された金銭をパチンコ,競輪,競馬その他の遊技,遊興,賭博等に費消してしまい,その後の生活の維持,安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こしていると認めるときは,速やかに市にその情報を提供する責務を負わせている(5条3項)。
3 しかしながら,生活保護等の福祉制度は,憲法25条の「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」との規定により,基本的人権として保障される「生存権」に基づくものである。福祉制度によって給付される金銭は,貧者への恩恵ではなく,すべての人が自立して人間らしい生活を営むための社会的再配分であり,その使途は受給者がみずから自律的に決定するべきものである。この点,最高裁判所も,生活保護受給者は,支給された金銭の範囲内で,家計の合理的な運営をゆだねられていると判断している(最高裁判所平成16年3月16日判決 ・民集第58巻3号647頁)。
また,生活保護法27条第1項は,「保護の実施機関は,被保護者に対して,生活の維持,向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる。」と規定しながらも,同条第2項では,「前項の指導又は指示は,被保護者の自由を尊重し,必要の最少限度に止めなければならない。」と規定し,同条第3項において「第一項の規定は,被保護者の意に反して,指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。」と規定している。
どのような使途にいくらの金銭を支出するかといった家計の運営の問題は,個人の自律的判断にゆだねるべきものであり,家計について他からの監視・干渉を受けない自由は,憲法13条の「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。」との規定により,基本的人権として保障される「幸福追求権」及びその一環としてのプライヴァシー権によって,保護されている。上記の生活保護法27条の規定は,このような憲法上の保障を前提に,受給者の家計に対する監視・干渉について,保護の実施機関たる地方公共団体に対し,謙抑的な姿勢を求めているものである。そうすると,受給者に給付された金員の使途について,いちいち監視・干渉することは,家計運営を受給者自身の自律的判断にゆだねていると解される憲法25条及び13条並びに生活保護法等の法律の趣旨に反している。本条例案には問題があると言わざるを得ない。
4 また,本条例案のように,市民等に受給者の行動についての監視する責任を負わせることは,受給者に対する差別や偏見を助長し,受給者の市民生活を萎縮させるものである。そもそも,受給者である情報自体が高度のプライヴァシー情報(センシティブ情報)であり,市民等が,監視対象者となる受給者を認知しているかのような前提自体が極めて不合理である。また,同条例案の「受給者」には,これから生活保護等を受給しようとする者も含まれており,自己の生活が市民の監視にさらされることから,要保護者らの生活保護等の申請を躊躇させかねないし,市民の監視義務により,社会的・経済的弱者全体や生活保護等の福祉制度そのものに対する差別・偏見を助長させる懸念が極めて強い。
そもそも,ケースワークの非専門家である市民等には,受給者による金銭の費消が,「受給者の生活の維持,安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こしている」という高度な専門的知見を要する判断を行うことは困難であり,結果として,市民等に,受給者のプライヴァシーに立ち入る過大な義務を課し,市民の監視の名の下,市民等が受給者及びその家族のプライヴァシーをいたずらに暴き出す風潮が作出されかねず,極めて危険である。現に生活保護等を受給している受給者の指導・指示は福祉の専門機関である福祉事務所等の権限と責任のもとで行われるべきものであり,これを市民等の監視に委ねることは行政の責任放棄でもある。
5 その他,本条例案には,生活保護法等法律が定める以上の権利制限を定める「上乗せ条例」として違憲の疑いもあること,「受給者が給付された金銭を,パチンコ,競輪,競馬その他の遊技,遊興,賭博等に費消してしまい,その後の生活の維持,安定向上を図ることができなくなるような事態」や「支障が生じる状況を常習的に引き起こしていると認める」に至る生活状況であるかを判断することは極めて困難であり,「指導又は指示」に関し,恣意的判断がなされるおそれがあること(4条2項),パチンコ,遊技,遊興,公営ギャンブルである競輪,競馬と犯罪行為である賭博の関係が整理されていないこと,受給者に関する情報を提供した市民等に対しても守秘義務が課されること(9条2項),受給者の家計管理の問題をパチンコ等のギャンブルに関する問題に矮小化させていること,犯罪ですら通報義務を負わない市民に対し,何ら犯罪を構成しない受給者の生活状況に関する通報義務を課していること,貴市における生活保護受給者世帯は約120世帯程度と少数であり,かかる条例制定の必要性に乏しいことなど疑問点が多々ある。
6 以上の通り,本条例案は,受給者の人権を侵害し,市民等を監視態勢に巻き込み,生活保護等に対する差別偏見を助長するなど看過しがたい内容となっている。そこで当会は本条例案に強く反対するとともに,貴市においては条例案を撤回され,貴市議会におかれては慎重な審議の上でこれを廃案とすることを求める次第である。2013年(平成25年)3月8日
兵庫県弁護士会会長 林 晃 史

会長談話
本日、当会会員が強制わいせつの疑いにより逮捕されたとの情報に接しました。当会としては、現在、事実確認を行っているところであります。被疑事実の真偽については、今後の捜査及び裁判の結果を待たなければなりませんが、被疑事実が真実であるとしますと、弁護士の品位及び弁護士に対する社会的信用を傷つけるものであり、極めて遺憾な事態です。
 当会は、弁護士が市民に信頼される存在であることを目指しており、所属する弁護士に対しても、自覚のある行動を求めております。今後、会員の倫理意識を一層高め、会員一人一人にさらなる自覚を求めるべく、努力を重ねる所存です。
平成25年3月5日
兵庫県弁護士会会 長 林 晃 史

死刑執行に関する会長声明
2013年(平成25年)2月21日、 3名に対する死刑が執行された。死刑制度については国民的議論が十分尽くされていないにも関わらず、新政権発足後間もないこの時期に死刑執行を継続する方針が示されたことは極めて遺憾であり、強く抗議する。死刑の廃止は、国際的な趨勢である。日本政府は、国連関係機関からも繰り返し、死刑の執行を停止し、死刑制度の廃止に向けた措置をとるよう勧告を受けている。
また、昨年2月には、当時の小川敏夫法務大臣宛に死刑の執行を行わないよう求める決議が欧州議会において採択されている。そのような中、議論の前提となる情報が充分に提供されず、国民的議論も尽くされず、更にその議論の方針も明確でないままに、さらに死刑が執行された。平成24年3月、それまで法務省内部で行われてきた「死刑の在り方についての勉強会」の報告書が公表され、その中でも国民的な議論が求められているにも関わらず、現状では死刑廃止についての議論がなされたとは到底言えず、その中にあっての死刑執行はむしろ国民の間で議論を始めようという動きに逆行するものと言わざるを得ない。
また、2009年(平成21年)5月から開始された裁判員制度においては、裁判員が死刑を含む量刑判断に参加することとなることから、死刑制度全般に関する情報を国民が正確に知った上で、その存廃について国民的議論を尽くすことの重要性は、ますます高くなっている。
そこで、当会は、政府に対し、死刑執行の具体的方法、死刑執行対象者がいかなる手続及び判断基準により選定されたか、死刑確定者の処遇、その受刑能力の存否の裏付け資料等について死刑制度に関する情報を広く公開することを要請するとともに、死刑制度の存廃につき広く国民的議論が尽くされるまで、死刑の執行を停止することを改めて強く求めるものである。
2013年(平成25年)2月21日
兵 庫県弁護士会会長 林 晃 史

オスプレイ配備の中止等を求める会長声明
2012年6月29日、米国は政府に対し、沖縄普天間基地の米海兵隊に垂直離着陸大型輸送機MV22オスプレイ(以下、「オスプレイ」という。)を配備する通告を行い、その後、8月からオスプレイが普天間基地に配備された。今後、配備された24機のオスプレイは①奥羽山脈を中心に阿武隈高地を南端とするグリーンルート、②出羽山脈を中心とするピンクルート、③新潟県粟島を北端に、越後山脈・妙高高原・飛騨山脈を経て、岐阜県高山市を南端とするブルールート、④和歌山県中部から四国山地を中心とするオレンジルート、⑤九州山地を中心とするイエロールート、⑥トカラ列島を北端とし、沖縄本島の北部沖合に位置する伊平屋島を南端とするパープルルート、⑦中国山地を中心とするブラウンルートの計7ルートで夜間も含めた低空飛行が計画されるとともに、普天間基地から、岩国基地及びキャンプ富士への派遣も予定されている。
また、先日、2年後には嘉手納基地に、垂直離着陸大型輸送機CV22オスプレイの配備も検討されているとの報道もなされており、今後、さらに、日本国内に、オスプレイの配備計画が進められる可能性がある。
オスプレイは、従来、配備されていたCH46ヘリに比べ、輸送兵員が2倍の24人、輸送貨物が約4倍の9100Kg、最大速力が約2倍の520Km/h、航続距離が5倍以上の3900Kmとなり、空中給油を行えば沖縄-北朝鮮間の往復や中国への飛行も可能となる軍事輸送機であり、日本の国土を超えた軍隊の展開が可能となる兵器である。
 他方、オスプレイは、オートローテーション(エンジン停止の際でもプロペラが回転し、墜落を回避する機能の機能)の欠陥や、回転翼機モードと固定翼機モードの飛行モードの切替え時の不安定さなど、専門家から構造上、重大な危険をはらんでいると指摘されている。そして、開発段階から墜落事故が絶えず、昨年4月にはモロッコで2人死亡、昨年6月にはフロリダで5人負傷の墜落事故を起こすなど、すでに死者36人と負傷者7人を数え、墜落事故の危険が特に危惧されている。また、オスプレイの騒音は従来、配備されていたCH-46ヘリよりも大きいことから、事故の危険以外にも、7つのルート周辺の広範な地域での騒音問題等も強く懸念される。
しかしながら、日本政府は、日米地位協定並びに航空法特例法によって、米軍が、オスプレイによって、日本の領空内において、航空法が定める最低安全高度(人口密集地300メートル、それ以外150メートル)を大幅に下回る地上約60メートルの低空飛行を認めるに至っている。この点、日本政府は、憲法が保障する基本的人権、とりわけ、生命・身体・日常生活等を害されることなく平和のうちに安全に生存する権利(憲法前文、9条、13条など)を確保する責務を負っており、かかる権利を保障するために、米国政府に対して必要かつ実効的な措置を求めることは、日本政府の責務である。また、日本国内で生活する者の平和的生存権を確保するために、主権国家として、日本政府が、米国政府に対し、必要かつ実効的な措置を求めることは当然のことである。
しかし、日米地位協定第5条並びに航空法特例法第3項により、在日米軍は日本の領空内において航空法遵守義務を負わないため、日本政府が、在日米軍の航空機の管理運営を制約し、活動を制限する権限を有さない。
そのため、日本政府は、オスプレイの飛行について、「できる限り学校や病院を含む人口密集地域上空を避ける」とした日米合同委員会における合意が、既に、宜野湾市をはじめ、那覇市、浦添市などの人口密集地域の上空での飛行が常態化しており、沖縄市・名護市では学校上空での低空飛行が確認されるなど、周辺地域で生活する者らの生命・身体・日常生活の安全を確保する実効的な措置ではないことが実証されているにもかかわらず、米国政府に対し、さらなる実効的な措置を講じることを求めることもできない。
さらに、現在まで、米国並びに日本政府はブラウンルートにおけるオスプレイの飛行を否定していないが、他のルートと異なり、米国政府はブラウンルートの内容については公表していない。兵庫県の県境にある氷ノ山付近から生野ダム周辺が、ブラウンルートの一部に指定されているとの報道もあり、当該周辺地域の住民らは、自らの生命・身体・日常生活等を害するおそれのある極めて重要な情報に接することすらできない中で日々の生活を余儀なくされている。今後も、ブラウンルートの内容が公表されず、飛行区域において合意に反する低空飛行訓練等が継続される事態となれば、兵庫県内において生活する者の生命・身体・日常生活の安全に重大かつ取り返しのつかない被害を招くことにもなりかねない。
 以上のとおり、日本政府が、現在、7つのルートの周辺地域の住民に対する生命・身体・日常生活等を害されることなく平和のうちに安全に生存する権利を保障するための措置を講じることができない状況にある。
 現在の状況に見れば、7つのルートにおけるオスプレイの低空飛行訓練は、周辺地域で生活をする全ての者の生命・身体・日常生活の安全に危険を及ぼし、平和で安全に生活する権利を脅かすものであるといわざるを得ない。
よって、当会は、現在の状況におけるオスプレイの配備・飛行に反対する。
また、日米両政府に対し、日本政府が、米国政府に対し、国民の平和的生存権を確保するために、在日米軍に対し、実効的な措置を講じることを求められるように、日米地位協定並びに航空法特例法の改定・見直しを行うように求める次第である。
2013年(平成25年)2月21日
兵庫県弁護士会会長林晃史

生活保護基準の引き下げに強く反対する会長声明
1 財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会は、本年10月22日、財政制度分科会を開き、生活保護の支給額見直しについて、2013年度から物価下落に見合った引き下げが必要との見解で一致した。本年11月末に財務大臣への答申によって、今後、財政再建を理由として、生活保護基準の引き下げが来年度の予算編成の課題とされる懸念が高まっている。
2 しかしながら、生活保護基準は、いうまでもなく国民の生活を支える「最後のセーフティネット」として、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準である。生活保護基準が下がれば、生活保護によってかろうじて日々の生活をつないでいた212万4669人・154万9773世帯(本年7月のわが国の生活保護受給者数)の者だけに影響が出るだけではない。平成22年4月9日付の厚生労働省の発表によれば、わが国の生活保護の「捕捉率」(制度の利用資格がある者のうち現に利用できている者が占める割合)が15.3%~29.6%と推計されていることからすると、少なくとも、今後、生活保護の利用を行う可能性がある約700万人もの生活にも影響が生じることとなる。
また、生活保護基準は、地方税の非課税基準、国民健康保険の保険料・一部負担金の減免基準、介護保険の利用料・保険料の減額基準、障害者自立支援法による利用料の減額基準、生活福祉資金の貸付対象基準、就学援助の給付対象基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策にも連動する。生活保護基準の引き下げは、これらの施策を利用している低所得層の人の生活にも重大な影響を与えることになる。
3 加えて、生活保護基準の引き下げにより、最低賃金の引き上げ目標額は下がり、「ワーキングプア」と呼ばれる最低賃金の水準で稼働するアルバイト・パートタイム・派遣社員・契約社員など、現在、労働者全体の35%を超える非正規労働者の生活にも大きく影響を及ぼす。
これまでは、正規雇用が中心であったが、昨今の雇用の多様化により非正規雇用が増加し、最後のセーフティネットである生活保護の利用が増加したことは否めない。また、高齢化が急速に進んでいる一方で、年金制度による社会保障機能が脆弱であり、年金のみによる生活ができないため、やむなく就労し、若しくは求職活動をしながら、生活保護を利用する高齢者もいる。特に、就労による給与を得ていても、その額が生活保護基準に満たないことから、やむなく生活保護を利用している者は、生活保護基準の引き下げがなされれば、生活保護費と最低賃金の低下により、両面から収入が低下するという事態も予想される。
4 このように、生活保護は、わが国の非常に多くの者の日々の生活に様々な形で大きな影響を与えるものであり、憲法の定める生存権保障の基盤である。昨今、貧困や格差が拡大し、生活に困窮する人たちの施策や対策が不十分である状況に鑑みれば、むしろ、今こそ、最後のセーフティネットとされる生活保護制度の積極的な運用が期待されるところである。実際に、生活保護は、多くの人たちの生活を支え、生存権を保障する重要な役割を果たしている。
 生活保護基準の見直しは、国民各層の意見を十分に聴取・検討したうえで、多角的かつ慎重に決せられるべきものであって、決して、財務省が、「財政再建ありき」で政治的に決することが許されてはならない。
 以上の次第で、本会は、厚生労働省・財務省が、財政再建を理由として、生活保護基準を引き下げることに強く反対するものである。
2012年(平成24年)11月5日
兵庫県弁護士会会 長 林 晃 史

姉刺殺事件の大阪地裁判決を受けて、
発達障害がある人に対する理解と支援を求める会長声明
 2012年(平成24年)7月30日、大阪地方裁判所(第2刑事部)は、発達障害を有する男性が実姉を刺殺した殺人被告事件において、検察官の求刑(懲役16年)を超える懲役20年の判決を言い渡した。
 本判決は、「被告人が十分に反省する態度を示すことができないことには、アスペルガー症候群の影響があり、通常人と同様の倫理的非難を加えることはできない」としながらも、「いかに病気の影響があるとはいえ、十分な反省のないまま被告人が社会に復帰すれば」「被告人が本件と同様の犯行に及ぶことが心配される。」「社会内で被告人のアスペルガー症候群という精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込みもないという現状の下では再犯のおそれが更に強く心配されるといわざるを得ず、」「長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり、そうすることが社会秩序の維持にも資する」と判断した。
しかし、同判決が、発達障害を有することは個人の責任ではないにもかかわらず、同障害による再犯のおそれを強調し刑を加重したことは、刑法の大原則である責任主義に反する。
また、社会秩序の維持を理由に許される限り長期間刑務所に収容すべきであるとの考え方は、発達障害者を社会から隔離する発想であり、現行法上許されない保安処分を刑罰に導入したものと言わざるを得ない。
 同判決は、発達障害に対する無理解と偏見が存在するとの非難を免れないもので、発達障害者に対する社会的な偏見や差別を助長するおそれがある。平成17年に施行された発達障害者支援法は、発達障害を早期に発見し、発達障害者の自立及び社会参加に資するようその生活全般にわたる支援を図ることを目的としており、全国に発達障害者支援センターや地域生活定着支援センターが設置されている。しかし、同判決は、アスペルガー症候群などの精神障害に対応できる受け皿が何らなく用意される見込みもないとの明らかに誤った認識をしていると受け取られかねない表現を用いている。また、発達障害と犯罪は直接結びつくものでないにもかかわらず、十分な医学的検討を加えることなく、社会的に危険視し再犯可能性を強調することは、発達障害に対する誤解と偏見を与えるおそれがある。
 当会は、以上のとおり、同判決の量刑及び発達障害への理解についての重大な問題点を指摘するとともに、発達障害者の社会活動への参加を支援することが国・地方公共団体・国民の責務であることを確認し、広く社会に対し発達障害者に対する正しい理解と支援の必要性を訴えるものである。
2012年(平成24年)9月20日
兵庫県弁護士会会長 林 晃 史

関西電力大飯原子力発電所の運転停止を求める会長声明
政府は,本年6月16日,関西電力大飯原子力発電所3号機及び4号機(以下,「大飯原発」という)の再稼働を決定し,現在大飯原発はフル稼働をしている。
しかしながら,再稼働にあたって実施されたストレステストは,一次評価及び二次評価を併せて実施して初めて総合的な安全評価が可能となるものであり,一次評価のみをもって安全性を評価できないことは,班目春樹原子力安全委員会委員長も認めているところである。しかも,これまで原子力発電所を推進してきた機関(原子力安全委員会)や機能してこなかった規制当局(原子力安全・保安院)が,福島第一原子力発電所の事故の検討結果を反映していない従来の安全審査指針を前提としてストレステストを実施しており,この点からも安全性が確保されたとは到底言えない。
また,福島第一原子力発電所の事故については,本年7月5日,国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(以下,「国会事故調」という)による報告書が公表された。国会事故調は報告書において,事故の原因として,①施設の問題点として,「福島第一原発は,地震にも津波にも耐えられる保証がない,脆弱な状態であったと推定される」,「安全上重要な機器の地震動による損傷はないとは確定的には言えない」と述べ,②規制上の問題点として,「規制する立場とされる立場が『逆転関係』となることによる原子力安全についての監視・監督機能の崩壊が起きた」と述べている。その上で,③「今回の事故は『自然災害』ではなくあきらかに『人災』である」と結論付けている。
さらに,福島第一原子力発電所の事故後,各地の原子力発電所の断層について調査が行われているところ,大飯原発に関しても破砕帯が発見されており,専門家から活断層の存在の可能性が指摘されている。このような指摘を受けて,原子力安全・保安院は,本年7月18日,関西電力に対して大飯原発敷地内の断層が活断層か否かを判断するための追加調査を指示したとされる。
 平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の傷跡は今も残っており,直下型地震による甚大な被害を体験した当会としては,活断層の存在を軽視する姿勢は到底見逃すことは出来ない。殊に,上述のように,国会事故調は福島第一原子力発電所の事故について,安全上重要な機器の地震動による損傷を否定できないとしているところである。そのうえ,安全対策としての免震棟やフィルター付ベントについては未だ完成しておらず,オフサイトセンターについても大飯原発より約8kmの位置にあり,事故時に機能するのか疑わしい。
 政府は再稼働の理由として計画停電の日常生活への悪影響等を指摘するが,まずはピークシフトなどの節電努力によって回避を図るべきであり,十分な努力を行わずに再稼働を進めることは認められないし,関西電力からの情報開示が十分でない現状において,関西電力から示された15%もの需給ギャップも直ちに信用しがたい。
 上記のような多くの問題点について十分な検討及び対策がなされないまま大飯原発は再稼働を始めている。大飯原発が地震によって放射能漏れ事故を一度起こせば,放射性物質が飛散することになり,琵琶湖も放射性物質で汚染されることが予想される。琵琶湖の水は滋賀県,三重県,京都府,大阪府,兵庫県,奈良県において生活用水として利用され,上水道の給水人口は約1500万人に上っている。兵庫県内においても,神戸市,尼崎市,西宮市,芦屋市において広く利用されているところであり,琵琶湖の水が汚染された場合の被害は計り知れない。
よって,当会は,福島第一原子力発電所事故の十分な原因解明がなされておらず,大飯原発の危険性が指摘されている現時点における大飯原発の再稼働に強く反対し,政府に対し,大飯原発の運転停止を強く求めるものである。
2012年(平成24年)7月26日
兵庫県弁護士会会 長 林 晃 史

「マイナンバー法」に反対する会長声明
1 政府は、いわゆる「社会保障・税共通番号制」に係る法律(正式名称「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」、略称「マイナンバー法」)案を閣議決定し、国会に提出している。
この法案は、全ての国民と外国人住民に対して、社会保障と税の分野で共通に利用する識別番号(共通番号)をつけ、現有並びに将来の当該分野の個人情報を情報提供ネットワークシステムを通じて統合させる制度の基盤となるものである。
 共通番号制は、我が国に居住する個人に関する国の保有する情報を各人の番号により管理するものであり、将来的には、「国民ID制度」或いは、かつての「国民総背番号制」を志向するものである。しかし、既に、共通番号制を実施するアメリカや韓国においては、本人になりすまし、個人情報が入手されるなどの弊害も聞く。
また、最高裁において、個人の内面にかかわるような秘匿性の高い本人確認情報ではないと指摘されたいわゆる「住基ネット」とは異なり、共通番号制が統合する個人情報は、個人にとって極めて秘匿性の高いものであり、これまでの国の個人情報管理のあり方を根本から覆す制度である。
この点から、共通番号制の導入に当たっては、その必要性ならびに統合された個人情報の保護については慎重に検討されなければならない。
2 ところで、複数の機関に存在する個人情報が同一人の情報であることを確認する場合、従前より、「氏名」「生年月日」「性別」「住所」のいわゆる基本4情報により、相当程度、個人情報の同一性確認が可能であった。
しかし、これまでのところ、社会保障分野や税務分野において、特に、これまでと異なる情報連携を必要とする理由、情報連携を行うために共通番号を必要とする理由等の共通番号制の具体的必要性や利用目的については明らかとされず、共通番号制に代わる手段の有無等も検討されておらず、共通番号制導入により構築されるであろうネットワークシステムに関する費用対効果も検討し得ない状況にあり、専ら、共通番号制の導入のみが先行している嫌いがある。
3 また、複雑な情報化社会である現代において、国の保有する個人情報は、基本的人権であるプライバシー権の対象であり、その情報が漏洩されれば、直ちに個人の人格的生存に影響を与え、回復困難な被害を及ぼすことになる。
しかしながら、各人に交付されるICカードに各人の共通番号が記載されるため、同カードの喪失は、直ちに、共通番号で統合された広範な機微情報(治療歴等)を含む個人情報の不正利用並びに漏洩の危険にさらされることを意味する。加えて、将来的には、民間においても共通番号制によって統合化された各個人情報を広範に利用することを予定していながら、具体的にいかなる事務について情報が利用されるかについて、個人が事前に知悉することは困難であり、個人情報が利用される場合にも、原則として本人の同意は不要とされている。
したがって、本人の事前同意を不要とするだけの個人情報保護の措置が講じられていなければならない。
ところが、現在の法案によれば、第三者機関による管理を予定しながら、その機関の権限は不十分であり、担当人員も7名程度であり、その実効性には疑問がある。
また、情報漏洩行為が過失によっても生じることからすれば、罰則強化による個人情報の保護は、十分な対策とは評価できない。
さらに、各人に関する個人情報の利用履歴の事後確認方法は、各人が自らの共通番号を入力し、コンピュータ等の情報端末を操作しなければならず、こうした操作ができない者について自らの情報の利用履歴を確認する術はなく、仮に、操作ができたとしても、不正利用が確認できた場合の利用中止請求等に関する迅速な手続は保障されていない。
したがって、現在のところ、共通番号制によって統合された情報を利用するリスクを十分に検討し、個人情報保護の措置が講じられているとはいえない。
4 以上に述べたとおり、共通番号制の必要性、並びに、共通番号制の導入に伴う個人情報保護措置については未だ十分な議論を尽くしているとは言えず、この点について国民的な理解も不十分であることから、当会は、同法案をもって拙速に法律化することは、最も重要な基本的人権の1つであるプライバシー権を著しく損なう事態を招くものであるとして、強く反対するものである。
2012年(平成24年)5月25日
兵庫県弁護士会会 長 林 晃 史

死刑執行に関する会長声明
2012年(平成24年)3月29日、東京、広島、福岡の各拘置所において、3名に対する死刑が執行された。国民的議論が十分尽くされていない中で、死刑執行を再開したことは、極めて残念であり、強く抗議する。
 死刑の廃止は、国際的な趨勢であることは間違いない。日本政府は、国連関係機関からも繰り返し、死刑の執行を停止し、死刑制度の廃止に向けた措置をとるよう勧告を受けている。また、本年2月には、小川敏夫法務大臣宛に死刑の執行を行わないよう求める決議を欧州議会が採択していた。そのような中で、議論の前提となる情報が充分に提供されず、国民的議論も尽くされず、更にその議論の方針も明確でない時期に、死刑の執行が再開された。
 近時、法務省内部で行われてきた「死刑の在り方についての勉強会」が終了し、その報告書が公表されたが、現状では死刑廃止についての全社会的な議論がなされたとは到底言えず、その中にあっての今回の死刑執行はむしろ全社会的議論を尽くそうという動きに逆行するものと言わざるを得ない。
また、2009年(平成21年)5月から開始された裁判員制度においては、裁判員が死刑を含む量刑判断に参加することとなることから、死刑制度全般に関する情報を国民が正確に知った上で、その存廃について国民的議論を尽くすことの重要性は、ますます高くなっている。
そこで、当会は、政府に対し、死刑執行の具体的方法、死刑執行対象者がいかなる手続及び判断基準により選定されたか、死刑確定者の処遇、その受刑能力の存否の裏付け資料等について死刑制度に関する情報を広く公開することを要請するとともに、死刑制度の存廃につき広く国民的議論が尽くされるまで、死刑の執行を停止することを改めて強く求めるものである。
2012年(平成24年)3月30日
兵 庫県弁護士会会長 笹 野 哲 郎

秘密保全法制定に反対する会長声明
1 はじめに
「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」が、2011年8月8日に発表した「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」(以下「報告書」という)を受けて、政府における情報保全に関する検討委員会が、国会に提出するための法案を作成中であり、いまだ法案は発表されていないものの、早晩国会に上程されることが予測される。
しかしこの報告書の内容は、以下に述べるように、国民主権原理から要請される知る権利をはじめとする多くの精神的自由権などの基本的人権や憲法上の諸原理と正面から衝突する多くの問題点を有しており、いかなる内容の秘密保全法制であっても国民の間で議論が十分になされていない状況下で立法化を拙速に進めることは、民主主義国家の政府の態度として極めて問題である(以下報告書の提案する秘密保全法制を「当該秘密保全法制」という)。
2 秘密保全法制が必要か
報告書では、秘密保全法制の必要性の根拠として情報漏えいに関する事案の存在を指摘し、主要な情報漏えい事件等の概要が資料として添付されているが、いずれも、現行法によって捜査が行われ、法的な対応が行われていることからも明らかなとおり、秘密として保護されるべき情報については、国家公務員法等の現行法制でも十分に対応できるのであって、新たな法制を設ける必要性はない。当該秘密保全法制検討のきっかけとなった尖閣諸島沖漁船衝突映像の流出も、実質秘として保護する必要性が乏しいと言わざるを得ない。
3 現在でも情報公開が不十分である
そもそも政府情報を知る権利は、国民主権の理念に基づき、かつ民主主義の根幹を支える重要な人権として優越的な地位を有する基本的人権であって、秘密保全法制の必要性を検討するにあたっても、なによりも国政の重要情報は、本来、国民に帰属すべきであることを出発点とすべきであり、これら情報を知る権利を制限することには極めて慎重でなければならない。ところが、我が国では、過去において政府が長年にわたり沖縄返還密約を秘匿してきたことなど政府による情報公開が不十分な状況にある。このような情報公開の状況において、政府情報を国民の目から隠すことになる秘密保全法制を作ることは、多くの情報が時の権力者にとって都合が悪いという理由だけで秘匿されることになりかねず、国民主権原理に反し、民主主義の根幹を揺るがせる事態を生じかねない。
4 広範な情報が秘匿される危険性
また、当該秘密保全法制では、規制の鍵となる「特別秘密」の概念が曖昧かつ秘匿される対象となる情報の分野が極めて広範である。外交や公共の安全及び秩序の維持に関する分野の情報も、特別秘密の対象となりうる情報とし、また、一定の要件のもとで民間事業者や大学が保有する情報までも「特別秘密」の対象としているため、極めて広範な情報が「特別秘密」の対象となる。
5 許される取材活動などと処罰される行為の区別が曖昧である
当該秘密保全法制は「特別秘密」の漏、 えいや取得行為を処罰の対象としているが、処罰規定に、「特別秘密」というような曖昧な概念が用いられることは、処罰範囲を不明確かつ広範にするものであり、罪刑法定主義等の刑事法上の基本原理と矛盾抵触するおそれがある。
また、当該秘密保全法制では、「特定取得行為」と称する秘密探知行為を処罰対象とするが、いかなる行為が当該行為に該当するかについて、報告書の説明では、現行法では、犯罪に至らない「社会通念上是認できない行為」としており、極めて曖昧である。更に、漏洩行為の独立教唆、扇動行為、共謀行為を処罰対象としており、そこでの禁止行為は曖昧かつ広範であり、この点からも罪刑法定主義等の刑事法上の基本原理と矛盾するものである。そして、単純な取材行為や取材行為の協議をすること、市民による行政監視のための情報収集行為やそのための協議をすること、なども処罰対象となりかねず、本来自由であるべき取材活動、報道や市民の活動に対する萎縮効果が極めて大きく、国の行政機関、独立行政法人、地方公共団体、一定の場合の民間事業者・大学に対して取材しようとするジャーナリストの取材の自由・報道の自由、市民の知る権利や表現の自由が侵害されることとなる。
6 国民のプライバシーが侵害されるおそれがある
更に、報告書では特別秘密の管理を徹底するためとして、「特別秘密」の取扱者となり得るものを対象者とした適性評価を実施するための事前調査と評価の制度(適性評価制度)を導入しようとしている。しかし、調査対象者には配偶者など家族が含まれており、極めて広範になるとともに、調査事項も対象者のプライバシーに関わる情報や、運用次第では同人の私人としての活動全般にまで及ぶおそれもあり、調査方法も、第三者機関への照会まで含んでおり、調査対象者が関係していた私的な団体にまで照会という方法で当該団体の活動内容までも調査が行われる危険性がある。その結果、当該調査対象者のみならず、その配偶者などの家族や当該調査対象者が関係していた団体など、広範な関係者のプライバシーが侵害される可能性があり、また、適性評価調査を口実に思想調査などが行なわれ、思想信条の自由が侵害されることも危惧される。そして、調査の実施主体も情報によっては各都道府県警察本部長が含まれており、警察による個人や団体の私的な活動に対する過度の介入を招く危険性もある。さらにこのようにして収集された膨大な個人情報がどのように管理され利用されるのかも危惧されるところである。
7 結論
以上の理由から、当会は、当該秘密保全法の制定には反対であり、国民の間で議論が充分に行われていない状況下で秘密保全法を立案し、国会に提出されないよう強く求めるものである。
2012年(平成24年)2月23日
兵庫県弁護士会会長笹野哲郎

会 長 声 明
-被疑者・被告人と弁護人の秘密交通権の侵害を許さず取調べの可視化を-
福岡高等裁判所は,本年7月1日,佐賀県弁護士会所属の弁護士が担当していた被疑事件につき,弁護人と被疑者との接見内容を,検察官が被疑者取調べにおいて聴取し,供述調書化したうえ,公判において証拠として請求したことが,弁護人の秘密交通権を侵害するとして提起していた国賠訴訟について,佐賀地方裁判所判決を破棄し,国に55万円の支払を命じる判決を言い渡した。
 原審である佐賀地方裁判所判決では,秘密交通権の権利性を一応は認めたが,捜査機関の捜査権に優越するものではないとし,検察官が接見内容を聴取することが違法かどうかは「聴取の目的の正当性,聴取の必要性,聴取した接見内容の範囲,聴取態様等諸般の事情を考慮して」判断すべきと判示した上,結論において本件検察官の行為は違法ではない,としたものであり,このような聴取しうる条件は取調べの可視化がなされていない現状では条件として機能しないものであるとして控訴をしていたものであるところ,本日の控訴審判決では、本件検察官の行為は刑事訴訟法第39条第1項の趣旨を損なうものであり違法であると判示した。
 被疑者・被告人と弁護人との秘密交通権については,既に鹿児島接見交通権侵害訴訟(志布志選挙違反事件の接見侵害国賠訴訟)において,捜査機関が,立会人なくして行われる被疑者・被告人と弁護人との接見内容を事後的に聴取することが,双方の情報伝達や援助に萎縮的効果を生じさせるものとして秘密交通権の侵害となることが明確に判示されているところであり,本判決は改めて秘密交通権の重要性を再度確認したものである。
なお,本件特有の争点として,被告国側は,相弁護人が報道機関の取材に応じて被疑者の言い分をコメントしたことが秘密交通権の放棄にあたるとして,接見内容の聴取も許されるとの主張をしたことに対して,裁判所は秘密交通権が放棄されたとは認められないものの秘密性が消失したとして許される場合があるとしているが,この点は問題であると言わざるをえない。
 本件は,捜査機関側の報道発表により被疑者の言い分と食い違う報道がなされていたことから,相弁護人は,弁護活動の一環として,被疑者の言い分を報道機関に公表したにすぎない。
 弁護人が接見により得られた情報を第三者に話すことにより,秘密性が消失したとするならば,弁護人は接見により得られた情報を報道機関の取材はもとより,家族等にすら伝えることができなくなり,弁護活動に重大な支障をきたすことは明らかである。
 弁護人と被疑者・被告人との秘密交通権の絶対的保障は,充実した情報伝達を確保することで相互の信頼関係を形成するとともに,有効かつ適切な弁護活動を可能ならしめるための最も重要な基本的権利の一つである。
 当会は,検察庁その他捜査機関に対し,今回の判決を真摯に受け止め,被疑者・被告人と弁護人との秘密交通権が憲法に由来する最も重要な権利の一つであることを十分に認識し,本件と同様の秘密交通権の侵害行為が繰り返されることのないよう強く求めるとともに,このような違法捜査や秘密交通権侵害を防止し,事後的な検証を可能ならしめるためにも,直ちに取調べの全過程の録音・録画(可視化)の実現を求めるものである。
2011年(平成23年)7月1日
兵庫県弁護士会会 長 笹 野 哲 郎

各人権条約に基づく個人通報制度の早期導入及びパリ原則
に準拠した政府から独立した国内人権機関の設置を求める総会決議
 当弁護士会は,わが国における人権保障を推進し,国際人権基準の実施を確保するため,2008年の国際人権(自由権)規約委員会の総括所見をはじめとする各条約機関からの相次ぐ勧告をふまえ,国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度の導入及び国連の「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則」) に合致した,真に政府から独立した国内人権機関の設置を政府及び国会に対して強く求める。
【提案の理由】
1 個人通報制度について
個人通報制度とは,各人権条約の人権保障条項に規定された人権が侵害されているにも拘わらず,国内での法的手続を尽くしてもなお人権救済が実現しない場合,被害者個人等が各人権条約上の機関(委員会)に通報し,その委員会の「見解(Views)」を求めて条約上の権利救済を図ろうとする制度である。
この個人通報制度は,国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約においては条約本体とは別の選択議定書に定められており,人種差別撤廃条約,拷問等禁止条約においては条約本体の中に受諾条項が定められている。従って,個人通報制度を実現するためには,各条約の人権保障条項について個人通報制度を定めている選択議定書を批准し,または条約本体上の個人通報制度を受諾することが必要であるが,わが国は未だに批准または受諾宣言を行なわない。
ところで,残念ながら,日本の裁判所は,国際人権保障条項の適用について積極的とはいえず,しかも,刑事訴訟法・民事訴訟法の定める上告の理由において,国際条約違反が含まれず,国際人権基準の国内実施が極めて不十分な運用となっている。
そのため,各人権条約における人権保障を実現する個人通報制度が日本で実現すれば,被害者個人が各人権条約上の委員会に見解・勧告等を直接求めることが可能となり,そうなれば,日本の裁判所も国際的な条約解釈に目を向けざるを得ず,その結果として,日本における国際人権保障水準が国際基準にまで前進し,また憲法の人権条項の解釈が前進するなどの著しい向上が期待される。
2 国内人権機関の設置について
国連決議及び人権諸条約機関は,国際人権条約及び憲法などで保障される人権が侵害され,その回復が求められる場合には,司法手続よりも簡便で迅速な救済を図ることができる国内人権機関を設置するよう求めており,多数の国が既にこれを設けている。
 国内人権機関を設置する場合,1993年12月の国連総会決議「国内人権機関の地位に関する原則」(いわゆる「パリ原則」)に沿ったものである必要がある。具体的には,法律に基づいて設置されること,権限行使の独立性が保障されていること,委員及び職員の人事並びに財政等においても独立性を保障されていること,調査権限及び政策提言機能を持つことが必要とされている。
 日本に対しては,国連人権理事会,人権高等弁務官等の国連人権諸機関や人権諸条約機関の各政府報告書審査の際に,早期にパリ原則に合致した国内人権機関を設置すべきとの勧告がなされており,また,国内の人権NGOからも国内人権機関設置の要望が高まっている。
 現在,わが国には法務省人権擁護局の人権擁護委員制度があるが,独立性等の点からも極めて不十分な制度である。
このような状況の中で,日本弁護士連合会は,2008年11月18日,パリ原則を基準とした「日弁連の提案する国内人権機関の制度要綱」を発表した。
さらに,2010年6月22日には,法務省政務三役が「新たな人権救済機関の設置に関する中間報告」において,パリ原則に則った国内人権機関の設置に向けた検討を発表するなど,国内人権機関設置に向けた機運は高まってきている。
3 当弁護士会は,わが国における人権保障を推進し,また国際人権基準を日本において完全実施するための人権保障システムを確立するため,国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度を一日も早く採用し,パリ原則に合致した真に政府から独立した国内人権機関をすみやかに設置することを政府及び国会に対して強く求めるものである。
以上のとおり決議する。
2011年(平成23年)3月15日
兵庫県弁護士会

人権侵害事件についての警告等
2016年7月5日付加古川刑務所宛勧告
本件は、受刑者の面会に関する刑務所の裁量の範囲が問題となった事案です。
 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「法」といいます)第111条1項では、受刑者の親族等について面会を原則許可するものと定め、同条2項では、前記以外の者でも、交友関係の維持その他面会をすることを必要とする事情があり、かつ面会によって刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生じ、又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生じるおそれがないと認める場合には、刑務所長の裁量により面会を許可することができると定めています。
 申立人は、加古川刑務所に入所し、入所から1年半ほどの間に、申立人の母の内縁の夫であるAさんとの面会を申し出たところ、加古川刑務所から3回について面会を不許可とされ、2回について面会を許可されました。
なお、申立人とAさんとの間で許可された2回の面会は、いずれも法111条2項により刑務所長の裁量で認められたものであり、不許可とした3回の面会について、刑務所はその理由を「面会の許否判断をするため申立人の母とAさんとの内縁関係を疎明する公的資料等(住民票など)の提出を求めたが、提出されなかったため、判断を行うことができなかった」としています。
 社会と隔絶された刑務所内で受刑する受刑者にとって、面会や信書の発受等といった外部交通は、家族との絆、社会との繋がりを確保するため、また、それにより釈放後に円滑な社会復帰をするためにも非常に重要な権利です。
 上記のような外部交通の重要性、また、受刑者の信書発受等に関する過去の裁判例をふまえて検討した結果、当会は刑務所側が申立人とAさんとの面会を3回にわたって不許可としたことは、刑務所長に認められた裁量の限度を超えた処分であると判断しました。
そこで、加古川刑務所に対して、今後受刑者と親族等以外の者との面会の申出については、①面会によって拘禁目的が阻害される現実的危険性が発生し、その危険を排除するために最小限度の制限として、面会を不許可とすべきことが個別具体的な根拠により確認できる場合でない限り、面会を許可すること、②法111条2項に基づき「面会することを必要とする事情」を判断する際には、刑務所側が既に保有する客観的資料などで記載内容が真実でないことが明らかでない限り、「親族申告票」「親族外申告票」の記載や公的な資料の提出の有無にかかわらず、面会申出者や受刑者の説明、面会申込書の記載内容を尊重すること、を勧告したものです。
2016年3月11日付加古川刑務所宛て勧告
本件は懲役刑の受刑者にも裁判へ出廷する権利が保障されるかが問題となった事案です。
 申立人は、相手方加古川刑務所における服役開始後に、服役の原因となった刑事事件の被害者とされる人物から損害賠償請求訴訟を提起されたため、 同訴訟の口頭弁論期日への出頭のため3度にわたって刑務所へ出廷許可を求めたものの、いずれも不許可とされました。
 裁判を受ける権利は、自力救済が禁止される我が国において、憲法及び法律上の権利・自由を実効的に保障するものとして重要な権利であり、「基本権を確保するための基本権」として法の支配の不可欠の前提をなすものです。このような裁判を受ける権利の重要性に照らせば、出訴の権利のみならず、公開の対審手続(当事者双方が裁判所の面前で自己の主張・立証を行う機会が十分に与えられること)まで保障されなければなりません。
 確かに、懲役刑は、人身の自由を制限する刑罰ですが、それを理由に他の権利・自由に対する制限が当然に正当化されるものではありません。
 当会としては、裁判への出廷は保障されるべき権利であり、本件において、相手方が具体的事情を考慮することなく、一般的抽象的に申立人の出廷をすべて不許可としたことは申立人の権利を侵害したものと考え、勧告を行ないました。